東京都美術館でアンドリュー・ワイエス展を観たあと、地下鉄で六本木へ。
森美術館で開催中のロン・ミュエク展を観る。
これを今回の上京の行程のラストにしたのは、22:00迄開館(火曜日以外)しているからだ。
他は、ずれこんで入館時間が遅くなったらゆっくり鑑賞できなくなってしまう可能性もある。
今回は17:00頃入館し、19:00過ぎ迄観て回った。
本展チラシは以下。
これを見ても、ロン・ミュエクって誰だっけ?という人にはヒントにならないだろう。
この作品《マス》については、最後に触れる事にする。
ロン・ミュエク(1958- )は具象彫刻の現代美術家。
20世紀以降、絵画だけでなく彫刻の分野でも具象の作家は数少ない。
その中で、革新的な素材や手法を用いて具象彫刻の可能性を推し拡げてきたのがミュエクである。
ミュエクは1958年にオーストラリアのメルボルンで生まれ、1986年からは英国を拠点に活動している。
本展に来ているのは11点。11点と聞くと随分少ないと思われるだろうが、彼は寡作で、完成作はまだ49点しかない。
最初に作品を世に出したのは1996年だったから、単純計算をすると30年余で49点。1点1点に大変な時間をかける。
これと思う対象が見つかったとしても、その後スケッチでポーズを何回も練り直し、平面と立体で素案を発展させていく。納得する迄いくつものサイズを試みる。形が決まったら肌や皺迄精緻な塑像を作り、部分毎に型をとって、樹脂やファイバーグラスで再度立体化、ペインティング、髪の毛や髭を1本ずつ植え付け、…等々等々、素人に文章化は困難だが、英国のスタジオにおける数人のチームによる作業工程は、本展会場で写真と映像とで見る事ができる。これは実に興味深いものだった。
今回の個展は、2023年パリのカルティエ現代美術財団でスタートし、ミラノ・トリエンナーレ、韓国国立現代美術館ソウル館と巡り、東京にやってきた。但し、出品は会場毎に若干変えている由。
では、全点という訳にはいかないが、森美術館の展示を順に見ていこうと思う。写真撮影可であったのは幸いだった。
11点は、制作時期、スケールの大小、テーマとなっているもの(殆どは人物)の種類や様相、単体か複数の組み合わせか、というような観点でミュエクが選びだしている。例えば人物だけでもチェックしてみると、自分自身を含め、赤ん坊から、少年・少女、中年男女、老人。誕生から死に至る迄、ミュエクは人生のサイクルの全段階を扱おうと意識している。本展は白人のみだったが、ミュエクは有色人種も対象に制作している。
《枝を持つ女》(2009) 170×183×120cm
裸の中年女性が、自分の背丈より長くバラバラで持ちにくいたくさんの木の枝を抱き抱えようとしている。なかなか困難とみえて、背中はそっくりかえっていて、へたをすれば後ろへ倒れてしまいかねない。
タイトルの後ろに縦×横×奥行のサイズを書き添えたが、本作でいうと、最長の170cmは木の枝であるから、女性は等身大よりも小さい。
腕などにはひっかき傷さえこさえていて、皮膚の生々しい感じは人間のそれを想わせる。
この女性は何故こんな持ちにくい物を、顔を赤くして迄頑張って抱き上げようとしているのか? 全く謎である。
ミュエクは作品について殆ど解説をしないので、観客は自ら考えるよりない。
《イン・ベッド》(2005) 162×650×395cm
この作品は見た事のある方が多いかもしれない。2006年に東京都現代美術館で開催された「カルティエ現代美術財団コレクション展」で展示された。展覧会に行かない迄も、ポスターやメディアでこのビジュアルを見た人もいるだろう。
ベッドに寝ている中年女性の姿だけではそのサイズ感が伝わらないだろうから、観客を入れて撮影してみた。横幅はマックス6.5mに及ぶ。
人間はサイズに対する先入観で束縛されており、その変化だけで見え方も理解もすっかり変わってしまうのは驚きだ。
手で頬を抑えている(指によって凹凸ができている)表情は、何か不安を抱えているのか、もの思いにふけっている様子だ。眉間には皺を寄せている。光の加減によってはその皺が深くなり、怯えてでもいるかのように見えなくもない。
《若いカップル》(2013) 89×43×23cm
10歳代の少年少女。少年は顔を近づけて何か打ち明けてでもいるのか。
高さは89cmだから、成人の大人の半分くらいのサイズ。
何処にでもいそうなティーンエージャーの初々しい様子のようにも見えるが、後ろに回ってよく見てみると…、
少年は少女の手首をかなり強く握っているようで、少女の手は反り返っている。何か問題を抱えているのかもしれない。
一見だけで物事を判断するのは間違いも多そうだ。
《ゴースト》(1998/2014) 202×65×99
水着を来た思春期の痩せた女性。壁にもたれ、正面からの鑑賞者の視線を避けるかのように斜め下に顔を背けている。
背丈は2mになっているが、その中で脚が異様に細長く、心中にも思春期ならではのアンバランスを抱えているような雰囲気がある。
(続く)
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