(続き)
ナージェニカが消えると、入れ替わりにドクトルが戻ってきた。
彼は、セルゲイがナージェニカを避けるようになった理由をわきまえていた。
自分の娘とセルゲイが付き合っている事を知って喜んだカリーニンは、ある日、人々の面前で、彼を将来の「花婿」と紹介した。
カリーニンは治安判事だが、娘を誰と結婚させるか、そればかり気にしていた。
セルゲイはカリーニンの言葉に血が上り、家を飛び出して、それっきり。
予審判事のセルゲイは、自分はもっと高く売れる筈だと信じ込んでいた節がある。
職位からすると、予審判事は治安判事より上だ。
次にカリーニンが興味を持ったのは、ナージェニカを如何にしてアレクセイ伯爵に嫁がせるか、それだけになった。
何とも単純で分かりやすい男である!
念のため付け足しておくが、予審判事・治安判事は、1864年、アレクサンドル2世によって司法制度近代化のために創設されたが、暗殺後の1889年、事実上廃止され、その後のロシア革命では完全に消滅した。
さて、オーレニカ刺殺犯探しに戻ろう。
彼女と結婚した2倍以上も歳上の執事ウルベーニンは、彼女の遺体が発見されたのち、血まみれの顔と手で人々の前に現れた。
日々、伯爵やセルゲイと浮気を重ねるオーレニカを見ていたウルベーニンには、強い動機がある。
また、従僕のクジマは、人の目を避けて自分の上着の汚れ(血か?)を洗っていたところを村人に見られている。
だが、その後、クジマは首を絞められて死ぬ事になる。
「作中作」のラストページに至り、セルゲイは編集長にその後の進展を話す。
行われた裁判では、ウルベーニンはオーレニカ刺殺に加えて、クジマ絞殺の廉で有罪となり、全ての身分剥奪、流刑、強制労働15年の判決が下された。
そして、ウルベーニンは流刑の途中で死んだらしい、と。
だが、編集長は納得せず、「作中作」を読み終わったあと、セルゲイに言う、独創的で大変面白かったが、「惜しいことにこの犯罪小説には肝心なものが欠けて」いる。
これは原作では「註」で、著者チェーホフの自身に対する突っ込みでも皮肉でもある。
そして、ウルベーニンは真犯人じゃない、とも。
編集長はオーレニカ殺しの展開の細部をもう一度セルゲイに詰問する。
真実は細部にこそ潜む。
このあとは、ここで書く訳にいかない。
それにしても、セルゲイは何故この「作中作」を書かねばならなかったのか?
そして、編集長、この不可思議な男は一体誰だったのか?
原作にはないが、永井愛は「作中作」の枠の更に外に出て、これに答えを出した。
原作 アントン・チェーホフ
翻案・演出 永井愛
美術 太田創
照明 中川隆一
音響 市来邦比古
衣裳 竹原典子
企画・製作 二兎社
出演
セルゲイ 溝端淳平
オーレニカ 川添野愛/原田樹里(ダブルキャスト。私が当日見たのは前者。)
アレクセイ伯爵 玉置玲央
ナージェニカ 大西礼芳
ドクトル 岡田地平
従僕クジマ ホリユウキ
森番ニコライ 石井愃一
執事ウルベーニン 佐藤誓
編集長 亀田佳明
他
〈付記〉
席はI列(前から9列目)、センター右寄りの23番。
〈参考資料〉
・アフタートーク 永井愛
・プログラム 二兎社公演49『狩場の悲劇』
編集・文 宇田夏苗,柏木来実
対談 佐々木敦×永井愛
発行 2025.11.1 二兎社
・戯曲『狩場の悲劇』
原作 アントン・チェーホフ
翻案 永井愛
発行 2025.11.25 而立書房
ロビーで購入し、見開きにサインを頂いた。
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