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2011年05月30日19:12

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ハンス・コパー展

5/29(日)、台風の中、静岡市美術館で開催されている「ハンス・コパー展〜20世紀陶芸の革新」を観てきた。

以下は、ヴィクトリア&アルバート美術館で1969年に開催された展覧会(ピーター・コリンウッドとハンス・コパーの共同展)のカタログに掲載されたハンス・コパーの文章だそうだ。
1つの連続した文でなく、あちこちから切り張りしたものだろう。展示会場の1角のパネルにあったので、書き写してきた。ハンス・コパーの陶芸の性格がよく顕れていると思ったのだ。

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王朝誕生以前のエジプトの器、私の手の大きさでやや卵型の:何千年も前に、おそらく奴隷の手によって作られ、色々な意味で生き抜いてきた。つつましく無抵抗で、どことなくこっけいな―しかし力強く神秘的で官能的だ。

何かを伝えるのではなく自己を表現するわけでもないが、しかし作り手とその生きた時代の人間世界を内包し映し出しているように見える。微かな力で、そして敬意を込めて。「人間」によって作られた完璧に無駄のない物体。ジャコメッティの人物像。バックミンスター・フラーの人間。普遍のもの。

私を真に魅了したのはこの器だけだ。それは私が器を作る理由ではないが、しかしそれは人とは何かをかいま見せてくれる。

私の関心は、実験や探検にあるのではなく本質を引き出すことにある。ろくろは簡潔さを要求し限界を決定づけ、勢いと連続性を与える。単純なテーマで連続したヴァリエーションを作ることに集中する時、私はその工程の一部になっていく。私は今―このすばらしい世紀に―存在するという体験に共鳴しうる感度を持った道具を学び始める。

その目的と機能に関してはあいまいに語られるクラフトというものに取り組む時、人は不条理に直面することがある。まるで取り憑かれたピアノ調律士のように、何よりもまず幻の絶対音程に近づこうとするのだ。そして消え去ってしまう見せかけの理念に逃避しがちだ。しかしそれでもなお、習慣となった仕事は残る。人は現実に取り組む。

・・・・・・

ドイツ、ザクセン生まれのユダヤ人、ナチスの迫害を避け19歳でイギリスに移住したハンス・コパーは、同じ境遇からイギリスに来て陶芸を始めていたルーシー・リー(ウィーン生まれ)の工房に入る。その時、リー44歳、コパー26歳。
才能を開花していくコパーを認めて、リーは共同制作の作品を作る。
展覧会の最初のコーナーには、アルビオン・ミューズ工房時代の共作のコーヒーセット等が展示されている。皿の底には、リーとコパーの頭文字が刻まれているものもあって、コパーが忽ち才能を伸ばし、単にリーの下請け的な仕事をしたのではない事が判る。
釉薬を搔いて出した模様や線の繊細さに、つい瞼の熱くなる思いがする。

このようにして、同じ世界からスタートした2人は、その後、何度も共同展を開催するようになる。
そして、次第に作風を変えていくコパーの志向を、上の切れ切れの断章は見事に示しているように思う。

コパーは非常に抽象的な美の形を志向していく。寓意のない、その形だけが純粋に美しい形態である。
ろくろを回して作った皿や器を複数融合させて、これ迄にない形の花生やポットを生み出す。
しかし、自由に造形を操る彫刻家に転身する事はなく、それら新たな器の内壁は防水加工を施し、活け花がバラけない工夫等を最後迄通していた。
彼にはあるスタイルが必要だったのだろう。
ひとつの形を手に入れると、その純粋化の為に、幾度も幾度も、似て少しずつ異なる形態を追い求める。世の人々は、それを”ポットシリーズ”,”スペードシリーズ”,”丸天板シリーズ”,”ティッスル(アザミの花)フォーム”,”砂時計フォーム”,”キクラデスフォーム”等と呼んだ。
コパーは晩年、難病である側索硬化症(ALS)に罹り、創作の自由は奪われる。死んだのは1981年、61歳という若さだった。

「つつましく無抵抗」
「完璧に無駄のない物体」
「私の関心は、実験や探検にあるのではなく本質を引き出すことにある」
「単純なテーマで連続したヴァリエーションを作ることに集中する時、私はその工程の一部になっていく」
「幻の絶対音程に近づこうとする」
等々の言葉は、全く彼の向かった創作世界そのものである。

展覧会は、日本で初めてのコパー回顧展の位置付けで、彼の生涯の変化が判るチャプター化が施され、その中に彼の作品110点が置かれている。併せ、20点のリーの作品も観る事ができる。

コパーが抽象を極めていくのに対し、リーは人心の表現を大事にする。
コパーは言葉のないあくまで静的な世界であり、リーは、それを狙ったというのとは違うだろうが、結果的に、作った者の情感が観る者に染み入る。
コパーは乾き、リーは潤う。
同じ出自、共同制作からスタートし、コパーとリーはかくも異なる世界に向かっていった。
 
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