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2026年07月06日12:37

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木ノ下歌舞伎『心中天の網島』(アクセシビリティ版)~1

7/4(土)、穂の国とよはし芸術劇場PLATで「まつもと市民芸術館プロデュース 木ノ下歌舞伎『心中天の網島』(アクセシビリティ版)」を観る。
木ノ下歌舞伎主宰の木ノ下裕一は、2024年、まつもと市民芸術館芸術監督(演劇部門)に就任している。
ちなみに、木ノ下歌舞伎は2006年に旗揚げされたので、今年は20周年という記念年だ。

フォト

 公演 14:00~16:00 上・中・下/全3巻一括、休憩ナシ

原作は、江戸時代1720(享保5)年10/14夜、大坂・網島の大長寺で実際に起きた心中事件を近松門左衛門(1653-1725)が人形浄瑠璃用に書いたもの。のち歌舞伎にも転用されてヒット。
近松は「世話物」ジャンルを確立した作家だが、内「心中物」を11作書いた。その第1作が『曾根崎心中』で第10作が『心中天網島』である。
当時の大坂は多くの川や運河が網の目のようになった「水の都」だった。チラシはそれをイメージした写真によっている。

「木ノ下歌舞伎」はこれ迄以下の作品を観てきた。
・『糸井版 摂州合邦辻』(2019) 演出 糸井幸之介
・『義経千本桜』(2021) 演出 多田淳之介
・『桜姫東文章』(2023) 演出 岡田利規
今回は、2019年に『摂州合邦辻』で演出を行った糸井幸之介が招聘された。

木ノ下歌舞伎『心中天の網島』は2015年初演、2017年再演、そして今回は再々演という事になるとの事だが、私は初めての鑑賞になる。
時代は現代に置き換えし、衣装・言葉は現代人のそれ、糸井幸之介作詞作曲の音楽劇に仕立てられている。
例えば上の巻、冒頭の治兵衛と小春の出会いの会話、
「初めましてぇ、小春でーす。」
「お、若ぃぃ、ピチピチだぁ。」
紙屋を営む治兵衛は2人子供がいる分別盛りで30歳代、遊女 小春は10歳代後半か?

対して、中の巻、おさんと両親の会話など、ここぞという原文の美しさはそのままにしゃべらせている。「起請文(きしょうもん)」や「誓紙(せいし)」は神仏にかけて噓偽りないと誓った文書などと訳さず、「去状(さりじょう)」も離婚証明の文書などと訳さない。

おさんの夫治兵衛に対する「口説(くどき)」としてこの物語で最も有名なセリフも、以下の如く原文のままである。
治兵衛は遊女小春と別れるとの誓をおさんの母に書いて渡したものの、彼女が帰ったあと炬燵布団をかぶって泣いている。
「あんまりぢや治兵衛殿。それ程名残惜しくば誓紙書かぬがよいわいの。一昨年の十月(中略)祝儀とて、ここで枕並べて此の方、女房の懐には鬼が住むか蛇が住むか、二年といふもの巣守(*1)にして、やうやう(あなたの)母様伯父様のお蔭で、むつまじい女夫(めおと)らしい寝物語もせう物と、楽しむ間もなくほんにむごいつれない、さ程(小春に)心残らば泣かしやんせ泣かしやんせ。其の涙が蜆川へ流れて小春の汲んで飲みやらうぞ。(*2)」

(*1)一人残されて巣の番をする事。言ってみれば夫婦セックスレスの状態。
(*2)治兵衛とおさんの店の前に流れている蜆川は、遊女小春がいる茶屋「河庄」の脇へと流れていく。

木ノ下裕一の古典歌舞伎の解釈の並々ならぬ深さは、全ての公演の監修・補綴に現れているが、今回の再々演はタイトルに添えられている「アクセシビリティ」に重点がある。つまり、視覚や聴覚に障害を持つ方も一緒に愉しめる仕上げになっている。
穂の国とよはし芸術劇場PLATも障害対策には力を入れてきた。

物語は文楽や歌舞伎の古典としてよく知られているであろうから、このレポートでは本公演のアクセシビリティに焦点を置く事とする。
過去のレポートもベーシックな面で参考にはなると思う。
人形浄瑠璃
・「文楽『心中天網島』」(2013.8.18記)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1909840386&owner_id=3341406&from=list_diary_search
・「文楽公演『団子売』『心中天網島』」(2016.3.17記)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1951136976&owner_id=3341406&from=list_diary_search

歌舞伎
・「四代目中村鴈治郎襲名公演『心中天網島~河庄』他」(2015.6.23記)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1943449067&owner_id=3341406&from=list_diary_search

「アクセシビリティ」について、木ノ下はこう言っている、
…『摂州合邦辻』の2020年再演からアクセシビリティの取り組みを始めた。が、公演会場側に鑑賞サポートがない所も多く、ツアーには制約があった。それならば、作品の中にアクセシビリティが内包されている形にしようと考えた。
手話通訳も舞台上で俳優の脇に立つ、字幕を投影する機械と場所を舞台美術に組み込んでしまう、音声ガイドは必ず付ける。
ゆくゆくはアクセシビリティがデフォルトにならなければいけない。
元々、舞台の音響機器は、どの席でも声や音が聞こえるようにするという事が出発だった。今や、演劇的効果を上げるためには必須で、演出と切り離せないツールとなった。劇作家や演出家がそれぞれの狙いをより多くの人々に鑑賞してもらうために、音響機器は改善され、照明やビジュアル機器も格段の進歩を遂げてきた。
映画館などでも、まだ不十分ながら車椅子スペースができ、補聴援助システムも導入されてきた。
アクセシビリティ対応は、今後もっと様々試みられ、進化し、舞台の芸術的・質的向上に欠かせない創造的テクニカルになるだろう。
更に煎じ詰めるならば、アクセシビリティについて考える事は人権問題を考える事でもある。
昭和期のある活動家に「差別の解消を訴える事は、”あなた、私の足を踏んでいますよ”と教えてあげる事。踏まれ続けている人はその痛みから踏まれている事を忘却する事はないが、踏んでいる人は踏んでいる事に気がついていない事も多い」という発言がある。…
この言葉はよく噛みしめたい。知らず知らずのうちに、私達は差別に加担していないだろうか?

今回の上演では、アクセシビリティ向上のため具体的にこんなサポートがなされた。

◆視覚に問題を抱えている人々のために
・事前解説
開演30分前から、木ノ下が自ら舞台に立ち、舞台セットの構造とその狙いの解説をした。
声による彼の説明はアクセシビリティをよく考えたもので、非常に丁寧なものだった。
また舞台上を前後左右に歩き、人の声がどう移動するか、それによって舞台の広さのイメージも実感として持てたのではなかろうか。

・音声イヤホンガイド
(事前予約が必要だったが)この貸し出し機器は俳優の動きや舞台セットや照明の変化などについて、リアルタイムに説明を加えていった。

・点字訳パンフレット
使用音楽や言葉の解説が点字で記されていて、公演の理解に役立つ。

ホールやホワイエでは、白い杖を持ち付き添い者と一緒に歩いている方がかなりいた。
PLATでは対応していなかったと思うが、本作ツアー会場の中では、補助犬と一緒に鑑賞できる会場もあったとの事だ。

(続く)
 
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