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2026年06月18日01:00

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賀茂真淵記念館講座 「夏目漱石の『明暗』を読む」第2回~2

(続き)

しばらく時間は空くが、まだ由雄は入院中。
そこへ妻のお延がやってきた。
お延は、とうとう、ごまかさずに由雄を問い質すつもりだ。

由雄は、開口、小林がここへ来た事を話す。
お延「あたしの聴いて悪い用事?じゃあお二人のあいだの秘密なの?」
それはお前に聴かせたくない、お前だってあんな奴に会いたくはないだろう、と由雄。
そんな事はないとお延がやせ我慢して答えると、今度は由雄が訊く、「小林は何かお前に云ったそうじゃないか」
お延「貴方はあたしが小林さんからどんな話を聴いたか知っていらっしゃるの」?
由雄「そりゃ知らないよ。だけどどうせ彼奴のことだから碌な事は云いやしなかろう。一体どんな事を云ったんだ」
互いに探り合いの遣り取り。
由雄は吉川夫人の許で素っ裸にされたくせに、まだ妻よりは上位にいたい、面体を保ちたいと思っているのが、その態度から分かる。

お延は逆襲の準備をする、「此処で小林さんは何と仰って」?
由雄が何も聴いていないと答えると、お延は「それこそ嘘です。貴方は隠していらっしゃるんです」
由雄の方は懐柔策を採る、「もう少しおれに憑り掛って安心していたら可いじゃないか」
お延は、仰る通りよ、私は貴方に憑り掛って安心したい、でも貴方は、私を「気の毒だとも可哀想だとも思って下さらない」
由雄はそれに対し、自分の責任は措いて言い放つ、「いくら思おうと思っても(中略)思うだけの因縁があればいくらでも思うさ。然しなけりゃ仕方ないじゃないか」
何と酷い言い分だろうか。
お延は怒りを抑え、一旦退いて見せて言う、「どうぞ、あたしを安心させて下さい。(中略)貴方以外にあたしは憑り掛り所のない女なんですから。(中略)たった一口で可いから安心しろと云って下さい」
そんな事ならと由雄は口先で言う、「大丈夫だよ。安心おしよ」
お延はそれを聞いて声を揚げて反逆した、「じゃあ話して頂戴。(中略)隠さずにみんな此処で話して頂戴。そうしてひと思いに安心させて頂戴」
お延は本当はこう言いたかったところだろう、そんな口先で私が騙されるとでも思っているの! 私をバカにするな!

入院を終えた由雄は、吉川夫人から教えられ、湯河原温泉で療養しているのを知った清子に会いに行く決心をにしたが、その前に、小林に朝鮮行の餞別を済ましておく事にした。
吉川夫人に喝破されたように「男らしくするために」やれる事は一つしかない、それは「分り切っている」筈。つまり清子から直接話を聴くしかない。

小林は餞別を貰う前に、また由雄をはぐらかす口調で言った、「実はこの間君の細君にすっかり話しちまったんだ」
驚く由雄、「何を?」
由雄の反応を見て小林は茶化すように言う、「(中略)実は嘘だよ。そう心配する事はないよ」
由雄「心配はしない。今になってその位の事を云い付けられたって」
小林「心配しない?そうか、じゃあ此方も本当だ。実は(中略)みんな話しちまったんだよ」
由雄は右に左に振り回され、怒り心頭。
小林は更に云う、君と清子がどうしたのか、実は詳しい事は知らない、僕としてはどうでも構わない。だが君は構うだろう。
由雄「そりゃ当たり前さ」
小林は由雄の芯を突く、前から言っている通り「君には余裕があり過ぎる」んだ。

ここで言う「余裕」とは精神のゆとりではない、上流階級の経済の事だろう。
小林は続ける「その余裕が君をして余りに贅沢ならしめ過ぎる。その結果はどうかというと、好きなものを手に入れるや否や、すぐその次のものが欲しくなる。好きなものに逃げられた時は、地団駄踏んで口惜しがる」
由雄「何時そんな様(ざま)を僕がした」
小林「したともさ。それから現にしつつあるともさ。それが君の余裕に祟られている所以だね。僕の最も痛快に感ずる所だね。貧賤が富貴に向かって復讐をやってる因果応報の理だね」

清子にフラれると、自身に存在するその原因も理解しようとせず、忽ちお延をものにした由雄。そして、そのお延にも満足できず、もっと上等なものを探し回ろうとする。
先代からの資産をあてにしていつの間にか食い潰し、没落していく江戸時代来の士族層をこの時期、多くの人々は見ている。
津田の父は官吏から実業に転じ、今は隠居の身分。津田家が士族出身かどうかははっきりとしないが、その可能性はある。
漱石は『坊っちゃん』や『こころ』で没落士族の経済的困窮について書いている。
由雄は今でも親からの仕送りを受けて生活しているし、痔の手術の費用さえ人(お延の叔父)の懐が頼りだ。


次回第3回は最終回。
由雄は清子と会う。
 
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