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2026年03月04日19:38

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「諏訪敦 きみはうつくしい」/WHAT MUSEUM��

寺田倉庫が運営するWHAT MUSEUMは、埋立地・天王洲の倉庫空間を現代アートや建築との出会いの場へと昇華させた倉庫会社ならではのミュージアム。私は今回初めて行く。
そのWHAT MUSEUMで、現代日本絵画でリアリズムを牽引する画家 諏訪敦(1967- )の個展「諏訪敦 きみはうつくしい」が開催されている。

・会期 2025.9.11~2026.3.1
私が出かけたのは、半年に及ぶ会期の最終日である。

本展は諏訪にとって約3年ぶりとなる大規模展で、過去の代表的作品から本展のために描き下ろされた最新作迄、全82点を展示。内39点が初公開。
展示構成は、諏訪の要望により、キュレーターで東京藝大准教授の宮本武典(1974- )が担当。5つのテーマに分け、諏訪の創作活動の変遷を多角的に見せている。

◆本展3つの見どころ

1)コロナ禍で始まったアトリエでの内省と孤立の日々。戦争や災害で揺らぐ外界をよそに、諏訪は病気の母を介護し2024年に看取った。その間、モデルを使った対面での制作ができず、彼は「人間を描きたい」という気持ちを徐々に失っていった。
本展は稀有な肖像画家が再び人間を描けるようになる迄の克服の過程を提示するドキュメンタリーであり、また、精緻な眼と指を持ち、「見る事、描く事」を己に厳しく求め続けてきた諏訪の、現在進行形の思索と創造の世界である。

2)本展では、絵画と文芸のコラボレーションのありようも、その一端を見せる。
芥川賞作家の藤野可織(1980- )は静物画を制作する諏訪のアトリエを度々訪問、その印象を基に短編小説『さよなら』を書き下ろした。それは来場者全員に配布される。
諏訪は静物画を「死んで静まっているもの」と語る。彼の静物画の世界と藤野の小説がどういう化学反応を起こすか、興味深い。

3) アトリエでの制作風景を記録したドキュメンタリー映像を制作・上映。
最新作《汀にて》の制作過程に密着、記録したドキュメンタリー映像を会場で上映。さまざまな画材、モチーフ、書籍に囲まれたアトリエの風景や、諏訪の緻密な作画プロセスを美しい映像で観る事ができる。藤野可織も出演している。

・短編ドキュメンタリー『諏訪敦 きみはうつくしい』『諏訪敦——Still Life』(24分)
 制作 WHAT MUSEUM
 監修 宮本武典
 撮影・編集 河内彰/2025年

現代日本の絵画におけるリアリズムを牽引する画家 諏訪敦。卓越した描画技術で対象に肉薄する諏訪の作品は、徹底した取材に裏付けられ、既に戦争で没した人々や、神話や古典文学の登場人物など、見る事、接する事の出来ない存在を描くに際し、徹底的なリサーチを行うという稀有なスタイルに基づいている。私はそれに「憑依」という言葉さえ被せたくなる。
本展では、最新の大型複合作品《汀にて》に至る迄の諏訪のクロニクルを、過去の主作品と伴に見せる。

◆本展5つの構成

全5章は、家族や友人の死、肖像画の依頼者達が抱える喪失と誠心誠意向き合ってきた諏訪と、彼の筆によって絵画空間に写し取られた人々の会話を通奏低音としている。
コロナ禍からの年月で、前述の通り「人間を描きたいという気持ちを徐々に失っていった」と言う諏訪敦。その時、展覧会のタイトル「きみはうつくしい」の「きみ」とは、何を、誰を指しているのか。

・Chapter 1「どうせなにもみえない」

第1章は諏訪の最新作《汀にて》を紐解く本展のプロローグに位置付けられる過去の作品群。
花,果物,豆腐など脆く壊れやすいもの、若者や獣の瑞々しい肉体が、驚くべき細密さで描かれている。が、これらはいつか腐り、そして老いていく定めにある。諏訪の手により、目の前の美しさの向こうに死の気配を濃密に漂わせる事になる。

「どうせなにもみえない」というのは、2011年の個展タイトルになった画家の呟きで、悲観と虚無に満ちている。
下は《どうせなにもみえない Ver.1》(2005)。
フォト

どんなに表面をなぞっても本質に触れる事はできないという写実の虚構性を自ら暴露している。それでも描く事をやめない画家の制作姿勢。僅かに透けて見える内面の真実に観客は触れる事ができるのだろうか。

Chapter 2「喪失を描く」

本章の肖像画の多くは、諏訪の筆が絵画空間に呼び出した亡き人々の姿である。
2012年にシリア・アレッポで銃撃によって亡くなったジャーナリスト山本美香(1967-2012)の肖像画の制作を、後日、そのパートナーから依頼され、諏訪は取材を重ね、絵画を通して死後の人に出会うという特異なスタイルを確立させた。
《山本美香》(2013-14)
フォト

この章だけ写真撮影不可としているのは、今もモデルの家族や関係者が生存しているところからきているのだろう。
上の画像はネット上から拾った。他は全て私が本会場でスマホで撮ったものなので、映りの悪いのはご容赦願いたい。

山本美香の瞳の中にパートナーの姿が描き込まれているのが分かるだろうか?

(続く)
 
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