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2026年02月12日12:15

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伊与原新 著 小説『宙わたる教室』 ��

伊与原新(いよはらしん/1972- )の小説『宙(そら)わたる教室』(2022)を読む。

フォト

伊与原作品では、これ迄に『月まで三キロ』(2018)を読んでいる。2019年、新田次郎文学賞受賞。
以下参。
・「小説『月まで三キロ』伊与原新」(2022.11.17記)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1983734280&owner_id=3341406&from=list_diary_search

このレポートの中で私は、「『月まで三キロ』はミステリー小説とは異なり、たとえへ種明かしされても、心に染み入るものは冷める事がない。何度でも読み返したくなる。」と書いた。

昨2025年には『藍を継ぐ海』(2024)で伊与原は直木賞を受賞。

『宙わたる教室』は東京都新宿区の公立高校の定時制を舞台にしている。
定時制には年齢も履歴も様々な人が様々な目的をもって来ている。
小中学校でイジメに会い不登校となった人もいるし、経済的な事情から昼間は働き夜間に勉強しに来ている人もいる、若い時代には高校に行けず歳をとって取り戻そうと発念した人も。だが、学校に馴染めなかったりして退学してしまう人が半分近く出てくる。
このクラスには現在18人の男女が籍を置いていて、読者はその内5人の物語と接する事となる。そして、ここに赴任してきたばかりのクラス担任教師。本来の担当学科は理科。

柳田岳人は21歳。昼は資源ごみ収集会社の契約社員で今定時制の2年目。金髪、耳に10個のピアス、作業着のままでやってくる。
しかし、当初の目的を果たせず、もはや辞め時かと思っている。だが、やめてどうなるか、何かと周囲の人とぶつかってばかり、不良仲間に取り込まれて、末は野垂れ死にか、と気持ちは暗い。
その日、数学のテストがあった。計算問題、数式問題の答えを書くと、文章問題にはもはや手が出ない。一番後ろの席からクラスを見回すと、テストそっちのけで無駄話をしている男子ら、ネイル磨きに忙しい女子、スマホに電話がかかってきて教室を出ていってしまう子もいる。一生懸命取り組んでいる生徒は皆前の方に座っている。
岳人は時間を持て余しタバコに手を出すが、教師の藤竹叶と目が合ってやめた。
藤竹は理科担当だが、教師人材不足もあり、数学も教えている。36歳。

ある日、岳人は藤竹と会話する事となった。内心、退校の手続きを訊くつもりだった。
だが、藤竹が先に話をしてきた。
柳田さん、あなたは計算問題や数式問題はいつも過程に一切触れずに正答を書いているから、能力は高そうだ、が、文章問題はいつも白紙、これは何故ですか?と、興味深そうに。教師から興味を持たれたのは初めてだ。

岳人は、小学校に入った時から教科書音読がダメだった。ひらがなだけのうちはまだしも、漢字が増えてくると益々読めなくなった。見ている文字が消えたり、飛んだり、重なったりして、今どこを読んでいるか分からなくなり、吐き気さえしてくる。自ずから書く方もダメで、漢字は殆ど書けないし、ひらがなも文字が行に収まらない。小学校は笑われ者になった。
家では科学や宇宙の図鑑が好きでよく見ていた。「空はなぜ青いの?」と訊いたら、説明できない母親が買い与えたくれたものだ。
文章が読めないとなると、国語だけでなく全科目共成績は酷いものだった。ただ算数だけは、記号の理解ができ、計算についていく事はできたため、一生懸命に授業を聴いた。しかし、文章問題はお手上げだった。

そのうち授業をサボるようになり、不良連中との付き合いが始まった。
中学卒業後、仕事に就いたが、職場でもバカにされ、よく喧嘩した。
転職を繰り返し、今いる資源ごみ収集会社でも、喧嘩しそうになるのは同じ。
運転免許のない岳人はいつも収集車の助手席に乗っている。
ある日、運転役の男がトレーラーで日本中を回る夢を語るのを聴いて、岳人も思った、大型車両を乗り回すのはカッコいいし、うっとおしい人付き合いも不要だ。
だが、だが考えたら、免許取得のためには文章問題に答える事が必須になる。
岳人は一念発起し、定時制高校に入る事とした。これが、岳人がここへ来るようになった訳である。
何とか文章を読めるようになろうと努力して2年目に入ったが、その目的は全く果たせていない。岳人は自身を「不良品」と呼んでさげすんだ。
藤竹は静かに岳人の話を聴いてくれた。

遠からず、藤竹が岳人に声をかけてきた。
藤井がタブレットにある操作を加えて、岳人に読めますか?と見せると、岳人はそこに表示された文章を読む事ができた。
驚き、何をしたのかと、岳人は藤竹に迫った。
彼は、岳人が「ディスクレシア」と呼ばれる学習障害かもしれない、と言った。
音と文字を結びつけて脳で処理する力が弱かったり、文字の形を上手く認識できなかったりするせいで、文章をスムーズに読めない、当然書く事も困難、この障害を「ディスクレシア」と呼んで、これ迄、親や学校にもも認知されずにきた。
最近になって「ディスクレシア」のためのフォントが開発されて世に出てきた。
これによって文字のデコーディングができるケースが増えてきた。
「ディスクレシア」は知能の問題ではない、情報の中身は理解できるのだ。藤竹は淡々と話した。

岳人は、嗚咽をもらしながら、やっぱり俺は「不良品」だったんだ。でも俺はバカじゃねえ、怠けてたわけでもねえ。それなのに皆俺のことを笑いやがって、バカにしやがってと叫んだ。
岳人は失った年月の長さを思った。藤竹を逆恨みもし、学校へ行かなくなってしまった。

(続く)
 
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