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2026年01月29日00:24

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ドキュメンタリー映画『手に魂を込め、歩いてみれば』

1.28(水)、シネマイーラ浜松でドキュメンタリー映画『手に魂を込め、歩いてみれば』を観る。

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テヘランに生まれ、亡命して今はパリに住む女性映画監督セピデ・ファルシ(1965- )は、ガザで起きている現実を記録に残し、世界に伝える事が今こそ必要だと思い、ガザに入ろうとしたが、封鎖されていて果たせなかった。
セピデはカイロで出会ったパレスチナ難民にファトマ・ハッスーナという24歳の女性フォトジャーナリストを紹介され、ネットで会話を始めた。2024年4月の事である。
2023年10月7日のハマスのテロからこの日迄で、パレスチナ人の死者数は既に35,000人に及んでいた。

歳は離れているが、祖国に戻れないセピデと、狭いガザから出る事ができない2人の間には深い絆が築かれた。
セピデにとってファトマは「ガザの目」となり、彼女の写真や動画,メッセージはガザの現実を伝えるものとなった。
一方、戦禍のガザを出た事のないファトマにとって、セピデは外の世界への架け橋となった。

映画は、2人のスマホによるビデオ通話をセピデが撮影するというスタイルで成り立っている。
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スマホ画面の下に小さくセピデの顔が入っている。
通信は状態が悪く、妨害もされているのだろう、また停電も頻繁に起こり、画面も声もひどいもので、途中で幾度も絶たれてしまう。
ファトマは通信電波を探し、友人の家などあちこち歩き回り、何とかセピデにガザの状態を話そうとする。
爆撃や飢餓、不衛生に晒されるガザの状況からすれば、人々の生活は絶望的かと想うが、ファトマの明るい笑顔には驚かされる。
セピデが人間の尊厳を保ち続ける彼女を「太陽のような存在」というのも分かる。

映画には、2人のビデオ通話の間に、ファトマが日々ガザで撮影した写真と動画が挟まれる。
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スマホのビデオ動画に比し、彼女の写真は実にくっきりとしていて精度が高く素晴らしい。
瓦礫の中で凧揚げをする少年たちの笑顔には胸が痛くなる。
下、左上の写真の少年がホースで一生懸命水をかけて流そうとしているのは、固まりかけた人の血である。
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セピデの電話にファトマが何日も出ない日が続く事がある。
彼女の身に何か起こったのではないか、つい悪い事を想像してしまう。
久しぶりに電話に出たファトマの笑顔に、観客は胸を撫でおろす。

ビデオ通話には、毎日のように低空を飛ぶ飛行機やヘリコプターの音、爆弾が落とされてアパートの床が揺れる様子も収められている。
ファトマはスマホを回し、窓の向こうにもうもうと立つ黒煙や、崩壊しかけたビルを見せてくれる。
地下シェルターの中からの電話は、さすがに通信が悪く声も殆ど聞こえない。画面は真っ暗だが、ファトマは機器の画面の光を自分に当てる工夫をする。
消えない飛行機の低音には、遂にファトマの笑顔も消え、頭痛や鬱を引き起こす。

「もし私が死ぬなら、響き渡る死を望む」これは、ファトマの詩の中の言葉である。
前後を拾うと、
「死は避けられないけど、もし私が死ぬなら、響き渡る死を望む。速報や数字の羅列にはなりたくない。世界中に知られる死、永遠に続く影響、時間や場所に埋もれることのない不滅の姿を望んでいる。」

その前段にはこうある、
「今回初めて、私は大きな損失を被った。11人の家族を失った。神に誓って、私にとって最も大切な人たちだ。しかし、私を止めるものは何もない。私は毎日、行き先も決めずに街へ出かける。ただ、私が目にするものを世界にも見てもらいたいから。私は、この人生の瞬間を記録する。私の子どもたちが聞くかもしれないし、聞かないかもしれないけど、この歴史を世界に遺したい。」

自分の仕事への責務を負って、ファトマはカメラのシャッターを押し続ける。
タイトルの「手に魂を込め、歩いてみれば」も、この延長に違いない。

2人の交流が始まって約1年後、カンヌのACID部門の協議で、セピデの本作(その時はまだ未完成だった)が映画祭で上映される事が決定した。
セピデの連絡にファトマは大喜びし、自分もカンヌに行きたいと言った。
実現するかと思われたが、しかし、その翌日4月16日の空爆で、25歳になったばかりのファトマは殺されてしまう。
これは衝撃をもって世界に知らされた。

この日迄にパレスチナ人の死者は51,000人(*)に膨れ上がっていた。
ハマスのテロに対する報復と言うには、イスラエル人の死者2,000人弱に対し、あまりのアンバランスだ。
教育や医療機関への攻撃、子供や女性を含む民間人の殺戮、食料や水の配給妨害による飢餓や病気の蔓延など、イスラエルのやりくちはジェノサイドと呼ぶべきものだ。
イスラエルは特に、自国の不都合を伝えられのを嫌って、ジャーナリスト達を211人も殺害している。そのうち28人は、ファトマを含む女性である。

(*)2025年11月末時点では、パレスチナ側の死者は70,000人を超えた。

カンヌ国際映画祭2025、本番5月13日の開会式で、審査委員長ジュリエット・ビノシュは、こうスピーチした、
「ファトマは今夜、私たちと共にいるべきでした。芸術は残り続けます。」

ファトマの死は、映画のラストに文字1行書き加えられた。
ガザの現実は、本人が望んだ通り世界に響きわたり、人々の胸に刺さった。


監督・編集 セピデ・ファルシ
出演 ファトマ・ハッスーナ, セピデ・ファルシ

2025年/フランス,パレスチナ,イラン
 
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