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2026年10月23日12:00

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映画『ヒンド・ラジャブの声』~2

(続き)

センター長マフディは、エルサレムの赤十字社にも救急車派遣依頼を試みるが、前述した通り、エルサレムとガザの隔たり、直線距離とは異なり、実際は天と地程もある。

オマルはマフディを飛び越えて、個人的な伝手を頼り、救急隊の1人に直接電話を掛けようとして留められる。オマルはマフディにスマホを投げつけ、センター内に緊張が走る。
今迄どれ程多くの救急隊員がイスラエル軍の襲撃によって命を奪われてきたか、その責任はトップの自身にある、マフディがそう感ずるのも尤だ。
オマルは踏み込んでCOGATのその先の組織 保健省にも連絡を入れてみる。

マフディは、ラナ,オマルと相談し、この事件とヒンドの生の声をSNSにアップする提案をした。
多くの民衆がこの事件を知れば、イスラエル側も動かざるを得ないのではないかという狙いだ。

ラナとオマルは期待と無力感を感じつつ、ヒンドとの命綱である電話が切れないよう、様々なネタを持ち出しては会話を続ける。
しかし、ヒンドからは「何故来てくれないの」と直接的な問いが戻る。それに対する答えをオマルもラナも持たない。
しかし、ヒンドが望みを失ってしまったら、その時点で全ては終わってしまうだろう。
2人は涙を流し悶えながらも、自分の感情を覚られないよう必死で会話を続ける。
その間で通話は何回もダウンし、冷たい汗が流れる。

同日17:40、夕陽が落ちそうな時間になって、SNSの効果かどうか、マフディの元へCOGATからようやく許可と安全確保のルートが連絡されてきた。
すぐさま救急隊の2人に連絡すると、電子表示パネルの救急車が動き始める。
携帯電話による遣り取りで目の前のトラブルの回避を続けながら、だがあと僅か200mのところで救急車はストップしてしまう。
ヒンドの叫び、「戦車がくる」。
18:00、救急隊員との電話に戦車の砲撃音が入り、通話ダウン。
ヒンドの電話も切れた。
怖しい無音。

事件から12日も経って、イスラエルから赤新月社に遺体回収の許可がおりた。
国連人権理事会に独立国際調査委員会の報告書が提出されたのは同年6月18日。
それによれば、ヒンドらが乗った車には300発以上もの銃痕があり、おそらくイスラエル軍の装甲ブルドーザーによってその後離れた縁石に圧しつけられていて、遺体の回収は困難を極めた。
フォト

赤新月社の救急車も、同じように移動させられたのか、そこから40~50m離れた場所に見つかった。
砲撃の貫通孔が確認され、車は焼けて原型を留めていなかった。
車内の残骸からは焼けて茶色になった人の脊椎や股関節の骨の部分が発見された。

イスラエル治安部隊はメディアに対し、部隊はその日現場近くにいなかったと発表したが、独立国際調査委員会の報告書は衛星画像,供述等から、イスラエル治安部隊が近くにいた事は明確だと反論している。
更に、2023年10月以来これ迄に2万人以上の子供が殺害されている事について、イスラエル軍が子供を標的にしていると認定した。
イスラエル軍は、その後ヒンド事件は参謀本部事実調査評価メカニズムに引き継がれたとしたが、2年以上経過しても、同軍がこの調査を行ったという形跡はない。

ハニア監督は言う、「報道機関はガザに入れず、パレスチナのジャーナリストは200人以上殺された」。
ガザからの情報が遮断されているからこそ、赤新月社に残っていたヒンドの通話記録によって「映画で彼女の(最後の生の)声を世界に響かせる」事ができた意味は大きい、と。

本作90分は、ガザの前線からは離れた緊急通報センターの1室で進展し、戦闘場面は一切写されていない。それにも関わらず、ヒンドの震える声、最後の沈黙、そして通話記録を唯一の台本とした俳優達の迫真の演技により、目に見えないものが見えてくる。
多くの人に観てもらいたい映画だ。


監督・脚本・編集 カウテール・ベン・ハニア
撮影監督 ファン・サルミエント・G
編集 クタイバ・バルハムジ,マキシム・マティス

出演 サジャ・キラニ,モタズ・マルヒース,アメル・フレヘル,クララ・フーリ

受賞 ヴェネツィア国際映画祭グランプリ(銀獅子)賞含む8冠、サンセバスティアン国際映画祭観客賞,ヘント国際映画祭最優秀作品賞 他

2025年/チュニジア,フランス


〈参考〉
パンフレット『ヒンド・ラジャブの声』
 執筆 川上泰徳 他
 インタビュー カウテール・ベン・ハニア
 
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