(続き)
・3月16日(日)
ナギ現代美術館の外で、古いカメラの仕組み「カメラオブスクラ」をダンボール箱で作ろうというワークショップが行われている。
参加者の中に、友梨、春樹、圭太、そして春樹の父親井口好浩の姿が見える。
圭太が覗くカメラオブスクラには、淡い光の中に春樹と友梨の上下逆転した姿がある。
春樹はこの前の失敗から、圭太を独りにしてはいけないと考えたのか、圭太に近づく。
同じひとつの穴を覗く圭太と春樹の姿が、友梨と好浩のカメラオブスクラから見える。
圭太は極く小さな声で呟く「僕、春樹のこと好き」
圭太は箱を置いて歩き出す。追いかける春樹。
引っ越しも近くなって、圭太と春樹2人の関係は1歩進んだ。引っ越しが2人のあとを押したと言うべきか。
これは寄子と友梨にも訪れる。
その日の晩、寄子のアトリエ。
制作中の彫像を前に、寄子は友梨に近づいて言う「ちょっと触るね」
寄子は友梨の肩や腕、頬、額、そして髪など、まるで医師が触診するように押さえる、じきに帰る友梨の感触を手に記憶させようとでもするかのように。
寄子は友梨に、好浩があなたの事を気にしているんじゃないかと話す。
友梨は、春樹から、父好浩が妻を亡くして独身だという事、また、父は寄子に惚れていると思うと聞いていたから、彼にそんな様子はないと即座に否定。
寄子は付け加えて言う、「彼の死んだ奥さん、早苗っていうんだけど、友梨に似ているから」
・3月17日(月)
いつもの寄子の家の中だが、なにか雰囲気がヘンだ。
寄子は机に突っ伏して寝ている。
古そうな目覚まし時計がジリジリとなる。
寄子は起き上がり、雨が降りだしたのに気づくと、慌てて庭に出、洗濯物を取り込む。
部屋に戻ると、薄暗い部屋の中、一人の若い女性が椅子に座っている。顔はよく見えない。
寄子「おかえり」
女性「ただいま」
寄子は部屋の中に張ったロープに洗濯物を掛け始める。女性も手伝う。
ロープを真ん中に、寄子と女性は左右に分かれた構図になっている。まるで此岸と彼岸のようだ。
女性「元気だった?」
寄子「うん。そっちは?」
…「そっち」とは何処の事か。
女性「まあ元気。春樹は?」
…春樹の知り合いなのか。映画では初めて見る顔だが。
寄子「元気元気」
女性「ありがとう」
寄子が、何が?と問い返すと、
女性「彼をずっと見守ってくれて」
寄子「何もしていないよ。好きにさせているだけ」
洗濯物を掛け終わる。
女性「そろそろ行くね。じゃあね」
寄子「うん。また」
女性は玄関から出ていく。
寄子はしばらくまたうとうととする。
目を覚ます寄子。目覚まし時計は机の上にない。
目を外にやると、洗濯物は庭に干されたままだ。外は晴れている。
短い場面だが、強い印象を残した。
ずっと小津の映画のように、あった事、事実を淡々と写し出してきた中で、この場面だけが違う。
寄子の夢だったのだろうが、あの女性は一体誰だったのか?
友梨が好浩の車に乗せてもらって帰ってくる、寄子はいない。
アトリエに入ると、寄子が作った友梨の粘土の顔が激しく削り取られていて、友梨は驚き、小さな悲鳴を上げた。
好浩が慌ててアトリエにやってくる。彼によれば、寄子は気に入らないところがあるとこうする癖が前からあった、と。
好浩がアトリエから出ようとすると、寄子が作った別の木彫完成品に気づく。
好浩「この顔、とてもいい」、「(実は)このモデルをしたのは、私の亡くなった妻なんです」
続けて、「この像を初めて見たとき、悔しかったですね」
理解できない風情で、その訳を友梨が問うと、好浩は、
「(妻は)こんな表情、僕には見せたことなかった」、「彼女は多分寄子のことが好きでした。僕ら3人、子供のときからずっと一緒で、だから分かるんです。でも、僕は、寄子の気持ちにも早苗の気持ちにも気づかないふりをした。ずるいですよね」
友梨は問う、「そのこと寄子さんは知ってるの?」
好浩「寄子からは、僕の妄想だと怒られました。あなたが早苗のこと信じてあげないでどうすんのって」、「でも、寄子は心のどこかで、僕のことを恨んでいるんだと思います」
ここに至って、しばらく前に、友梨と酒を呑んだ時に寄子が話した「好きだった人」が誰か、そして、寄子の夢の中に現れた「若い女性」が誰だったのか、一本糸が通るのである。
そして、前日の寄子の言葉を思い出せば、その早苗は友梨に似ているのである。
夜、戻った寄子。削り取られた塑像を片づけ、友梨に詫びた、「悪いけど作り直させて」
寄子はまた友梨を前に座らせてスケッチを始める。
長い沈黙のあとの二人の会話。
友梨「私が寄子さんに会いたかったのは、寄子さんがとても孤独に見えたから」、そして、「孤独に見えるのに、寄子さんはとても強く見える。それが不思議だった」とも。
寄子「私、強くないよ」、「孤独かもしれないけど孤立はしていないってだけだと思う。彫刻だって、私一人で作るんじゃない、モデルと木と私の共同制作な訳だし。私はそもそもただの機織り機みたいなもの、今生きているこの環境、自然や友人から与えられた素材で織っているだけ。でも、それで充分だと思っている」
寄子は更に続けて言う、「友梨さんも孤立したらだめ」、「私ユリさんを孤立させないから」、そして「いつか、(中略)ここ壊して、友梨さんに全部建て直してもらう。素敵なアトリエに」
ユリはモデルの姿勢で座ったまま涙を流した。
(続く)
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