(続き)
96歳で亡くなった末吉。彼は遺言を書いていた。
喪主であり長男である平五郎は、父がそんなものを書いていた事に驚き、また、その内容を読んで混乱した。残された家族も皆同様である。
まず、遺産である山は末吉の弟 正一に譲ると書いてある。
正一は既に足腰が弱り、認知症も進んでいて頼りない。遺産相続の事自体、分かるのかどうか?
しかし、平五郎の妻 染子は、金にならない荒れた山など貰っても仕方ない、そう夫に耳打ちする。
遺言には他にこうある、
「葬儀は自宅で行う事」、
「火葬でなく土葬にして土に還して欲しい」。
葬儀社は耳が速い。末吉の死を聞きつけて担当者がもう家にやって来た。
テレビのCMと同じような事を言うが、通例以外の事はできない、と腰が引けている。
土葬のためには乗り越えるべきハードルが多々あり、自治体がそれを許可するかどうか分からない。だが、他の葬儀社にとられる訳にもいかない。
末吉の郷里(くに)のじいさんばあさんらが杖をつきながらやってきた。腰の曲がった小さな老人らは子供達が演じている。
ここより更に山奥の人達で、言葉も習慣も違い、平五郎や残された家族は皆彼らが大の苦手。
やってきた老人の中にはスコップを持った人さえいて、もう地面を掘り始める。
どうやら、末吉は生前郷里を訪れ、死んだ際の協力を頼んでいたらしい。
平五郎は怒り、彼らを留める。
奥の部屋でよくよく考えた平五郎は、大声を張り上げ、遺言は無視すると言いだす。
周囲の人々は一層混乱を深めた。
東京から出てきた平五郎の娘 理恵にとっては、仕事の都合があり、いつ東京に帰れるかが最優先事項だ。
心中にあるのは、早く式を進めて欲しいという事だけ。
その娘、セーラー服の澪(みお)は、周囲で起こるあれこれにスマホを向け、動画を撮りまくっては笑っている。YouTubeにアップするつもりかもしれない。
平五郎の長男の清彦は幼い頃精神を患い、人とコミュニケーションがとれない。
平五郎は、息子に薬を飲ませ、奥の部屋に閉じ込めておくよう妻に指示する、が、故人に愛されていた清彦は祖父の死に顔に触れている。
平五郎は、人前で娘の病気をキツネツキだと言って憚らない。
平五郎の次男 竜太郎は仕事もせず、ヒッピーのように自由気儘に生きている。頭はカーリーヘアー、口から出る言葉はラブ&ピース。連れてきた金髪のパートナー カメリアと踊る。
平五郎の妻 染子が今更のように注意したとて、竜太郎は聴く耳を持たない。
先に男女の配役は性を逆にしていると述べた。当然、髭モジャの竜太郎は女性が、薄着のカメリアは男性が演じている。
葬儀が進まぬ中、日も暮れかかった頃、清彦は家を出ていってしまった。
虫の音に混じり、裏山の方からキツネの鳴き声が聞こえてくる。
冷静でいられない平五郎は、理恵や澪、竜太郎らに、清彦を見つけて連れ帰るように命令する。
人々の思いはてんでバラバラ、混乱は益々募るばかり。
葬儀はこれから一体どうなるのだろう?
幕が降りて、第1幕はエンド。
(続く)
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