(続き)
その後、2人は何作か読み切りの雑誌掲載を得て、アマチュア漫画家「藤野キョウ」の道を進んでいく。
高校3年のある日、藤野は京本を引っ張って東京に出、出版社で編集者と会う。
編集者はそろそろ連載物にチャレンジしてもいい時期だと提案する。そのためには東京に出る検討をして欲しい、と。
にかほに戻り、夕焼けを背にした帰り道、京本は藤野に思い切って言う、私は美大に行って絵の勉強をしたい。
京本はおそらく自分の絵の本質を漫画ではなく絵画にある、しばらく前からそう思い詰めていたに違いない。(是枝はそれをサジェストする微妙な伏線も張っていた。)
2人での東京生活を想像していた藤野は驚き、小学校時代に姉に云われた通りに言う、美大なんか行っても仕事ないよ。それに登校拒否の京本が1人で美大へ行ける?
だが、芯の強い京本を説得する事はできなかった。
「藤野キョウ」のペンネームはそのままに、歩は東京へ出て、出版社の援助を得、仕事場と背景描きのアシスタントも確保してもらった。
テクニックもペンの手描きからマンガ描画コンピュータに換わる。前半、2人が熱心に漫画を描くシーンで多用された鋭角的なペンの音が、後半はデジタル描画の柔らかな音に変わる。
一方、京本は山形市にある美術大学に進学した。(是枝は東北芸術工科大学の建物をロケーションとして使った。原作者 藤本タツキは同校美術科洋画コース卒。)
何年後か、「藤野キョウ」は作品がアニメ化されるなるチャンスを得た。
東京のビルのアトリエで構想を練っている時、テレビのニュースが藤野の耳に入る。山形市の美大に不審者が侵入、斧のような物で十数人の学生が殺害された、と。
ニュースに死者の名前は出てこなかったが、藤野は悪い想像をする。
京本のスマホに電話をする、が、出ない。
喪服の藤野、京本の遺影はセーラー服(中学高校には行っていないのに)。
このあとのアニメーションを交える展開は藤野の哀惜が産んだ夢想か。
京本の家を訪ねる藤野。玄関を開けると、廊下の両側には以前見たよりもっと大量のスケッチブックが積まれていた。
京本の部屋のドアに近づくと、ペンのリズミカルな心地好い音が向こうから聞こえてくる。
だが、ドアを開けると中には誰もいない。
暗い部屋の中にロープが張られ、京本が描いたたくさんの風景画、にかほの風に揺れる緑の田畑、一緒に行った神社の深い森、象潟の砂浜、雪を被った鳥海山、北を目指して帰って行く白鳥の群れ、など、乾かすためにぶら下げられている。2人で漫画を描いていた時もこんなふうに吊るしたものだった。
壁のハンガーには藤野の名が書かれたままの半纏がかかっている。
美大の薄暗い廊下の長椅子で休んでいる京本。
向こうの階段を上がってくる男の独り言と重たい足音、それにつるはしのような物が階段に当る金属的な音が混じる。…俺のネタをパクりやがって、とか何とか言っている。(実際に起きた2019年の事件を想わせる。)
廊下に現れた男の脚のアップ。つるはしを持って近寄ってくるが、京本はすくんで動けない。
つるはしの一撃は京本の身体をかすめて長椅子にめり込む。
そこに藤野が「藤野キョウ」の新作漫画『シャークキック』のヒーローのように現れ、男の背中を蹴り倒す。藤野は小学校で漫画を諦めたあと、姉に引っ張られて空手道場に通ったのだった。
犯人は逮捕され、怪我をした藤野が救急車に乗せられようとしている。
京本がやってきて藤野に名前を訊き、救ってもらったお礼を言っている。
その名前から、京本は、にかほ小学校の学年新聞で漫画を乗せていた藤野さんではないですか?と尋ねる。
そうだけど、あのあと私は漫画をやめちゃったんですよと藤野。
京本は、ここで初めて会ったかのように、私は引き籠りで学校には行けず仕舞いだったけど、あの4コマ漫画大好きで大好きで、藤野さんの大ファンだったんです、と。
驚く藤野。
退院されたらお礼に伺っていいですか?と京本が訊く。藤野は笑顔を見せてどうぞどうぞ、と。
救急車は後ろ扉を閉め、サイレンと伴に去っていく。
「あの時」出会わなかったら、違う青春を2人は辿り、京本は殺される事もなかったのではないか。その哀惜が藤野に見させた幻想だったのだろうか。
藤野は東京のアトリエに戻り、アニメ化される次作の背景に京本が描き残した風景画を使おうと考えている。
ビルの窓の外から祭りの音が微かに聞こえてくる。にかほの祭りを思い出す。
「ルックバック」とは、過去を振り返って見る、思い返すとでも理解すればいいだろうか?
監督・脚本・編集 是枝裕和
原作 藤本タツキ
撮影 上野千蔵
美術 小島伸介
照明 西田まさちお
衣装 伊藤佐智子
音楽 坂東祐大
出演
藤野歩:出口夏希/七瀬ふうり(子役)
京本奏: 蒔田彩珠/岡田六花(同)
他 宮藤官九郎,菅田将暉,野呂佳代etc.
受賞 ヴェネツィア国際映画祭独立賞「シネマ&アーツ賞」最優秀作品賞,「シグニス賞」,「チネマサラ賞」最優秀作品賞,「ユニメッド賞」,「ファンハート3賞」特別表彰
受賞の詳細は以下参。
https://eiga.com/news/20260912/22/
クレジットのオリジナルサウンドトラックの欄の中に、葵トリオの小川響子,伊東裕の名前があった。
以下、原作漫画と劇場アニメ版についてデータのみ。
原作 藤本タツキ『ルックバック』
配信 2021.7.19「少年ジャンプ+」
発行 2021.9.3単行本
受賞 2021.12.9宝島ムック「このマンガがすごい!2022」オトコ編1位
劇場アニメ版『ルックバック』
監督・脚本・キャラクターデザイン 押山清高
美術監督 さめしまきよし
撮影監督 出水田和人
編集 廣瀬清志
受賞 2024年日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞
放送 2026.7.25NHK-Eテレ(初回’26.3.22)
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