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2026年05月25日15:00

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演劇 『メアリー・ステュアート』/穂の国とよはし芸術劇場PLAT~2

(続き)

メアリー・ステュアートは自身女王だったスコットランド王国のプロテスタント勢に追われイングランドに亡命してきた。が、王位継承権を主張し、エリザベス暗殺計画に関与したと目され、その美貌で廷臣らが取り込まれる可能性もあるメアリーを、エリザベス1世は危険視、幽閉する事となる。
エリザベス1世にとってメアリーは伯母(ヘンリー8世の姉)の孫で血縁関係にあるにも関わらず、2人は一度も会った事がない。そのまま幽閉の19年は過ぎようとしている。

エリザベス1世の寵臣レスターは策略を施し、2人が田舎の荘園で出会うよう画策。第3幕で初の邂逅が実現する。
ポーレットやタルボットに、生き延びるためには反抗しないように諭されていたメアリーだが、エリザベス1世の挑発的な言葉に遂に自分を抑えきれず、あなたは「妾腹の子」(*)で王の資格はない、「私こそがあなたの国王」と叫んでしまう。
エリザベスは怒り、荘園を出ていく。
 (*)エリザベスは、ヘンリー8世と元侍女のアン・ブーリンとの間に生まれた。のちアン・ブーリンは冤罪によりヘンリー8世に処刑される。エリザベスは庶子と見なされ王位継承権を失うが、8年後に復権した。

エリザベス1世は、この事件のあともまだメアリーの処刑に逡巡する。
第4幕では、エリザベスの廷臣らが事件の責任のなすりつけ合いを行う。
エリザベスはとうとうメアリーの処刑執行令状にサインをするが、それは当面保管されるべき書類と理解する者と、処刑命令が下ったと理解する者とに分断が起こり、元々強硬派のバーリー卿は、これ幸いと処刑執行へと走る。

第5幕、第1幕と同じフォザリンゲン城の中、エリザベス不在のまま処刑の儀式は進んでいく。

ここに至って観客は思う、エリザベスとメアリーの2人は何とよく似ている事か。
牢獄にせよ王宮にせよ2人は厳格に見張られ、世間の勝手な偏見に会い、女王という立場から逃げられず、それぞれの宗教に雁字搦めになっている。
何れも内なる熱を自由に発散できぬまま過ごしている。
第2幕の終わり近く、エリザベスは2人の過去の経歴を振り返りこう言う「(私達は)ここまで似ている。これは拷問」に等しい。
第5幕ではメアリーが処刑を目の前にしてエリザベスに言う「どうかこの国をいつまでも幸せに治められますように。お姉様の幸運をお祈りしています。結局私たちは同じでした」。

アイク演出の初演(ロンドン・アルメイダ劇場)では、2人の俳優が両女王の役を準備しておき、毎回コインを投げて、どちらがエリザベス1世かメアリー・ステュアートかを決めたそうだ。これは、アイク版において2人がまさにコインの表裏のような存在である事を示している。

メアリーは最後、死刑を静かに引き受け、心中で敵であったエリザベスを許し、魂の解放と伴に自由になって断頭台の階段を静かに上っていく。

一方のエリザベス1世は当面の保身には成功したが、心中は穏やかでなく、世間の評価にも晒される事となる。
処刑完了後、エリザベスは、勝手にメアリー処刑に走ったバーリー卿を宮廷から追放、エリザベスがサインした処刑書類の扱いに失敗したデイヴィソンはロンドン塔に連行、頼みの綱のタルボット卿は老いを理由に職務から退き、暗躍したレスター卿は身の危険を感じフランスへ逃亡、メアリー解放に失敗したモーティマーは毒を呑んで自殺、エリザベスは完全に孤独の身となり、それでも王国を背負って生きていかねばならない。

我々も生きるためには、社会各層における立場、身内のしきたりなど、さまざまな枠組みに縛られて暮らしている。
それがいくら理不尽であろうと、日々あがき、逃げようとしても自由にはなれない。エリザベスやメアリーが枠組みに必死に抵抗する姿は決して他人事ではない。
彼女達の我慢の利かない態度や発言に際し、そんな事迄しなくてもいいのに、言わなきゃ良かったのに、とも思うし、ついそんな態度に出てしまう気持ちも少なからず理解できる。
しかし、保身に成功した(現世の利を得た)エリザベスよりも、全てを失って束縛から自由になったメアリーに我々が共感を抱くのは致し方ない。それが後世におけるメアリーの魅力につながり、メアリー贔屓の物語が生まれる事になる。

メアリーは第1幕から第5幕のエンド間際迄通して黒い衣服を着ているが、断頭台へ向かう直前にその衣を脱ぐと、下からは真紅の衣装が現れる(これが史実かどうかは分からないが)。赤はカトリックを象徴する色である。
この自己演出によって、メアリーはカトリックに殉じて死んだと後世に伝えられる事になるのである。

シラーの原作では、直前のイングランドの民衆はメアリーの死刑を望んでエリザベスに迫った事になっているが、民衆というのはいつどう転ぶか分からないものだ。
エリザベスが一番怖れたのはこの事だったに違いない。あれだけ死刑執行に長い時間迷った訳はここにあったろう。


 演出 栗山民也
 美術 松井るみ
 照明 おざわあつし
 衣裳 十川ヒロコ


〈付記〉
席は第3列の左から4番目。
左寄りではあったが、役者らは、中央よりもよくこの前辺りに立ち、遥か彼方を見つつ演じた。

〈参考資料〉
パンフレット『メアリー・ステュアート』
 執筆 青木敦子,村上祥子,菅利恵 他
 発行 2026.4.8、(株)パルコ

月刊「悲劇喜劇」2026年5月号~戯曲『メアリー・ステュアート』
 発行 2026.5.1、早川書房
 
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