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2026年05月07日11:00

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映画『落下音』マーシャ・シリンスキ ~3/end

(続き)

現代、東西ドイツは統一されて既に35年の歳月が経つ。
夏、件の家に移ってきたのは、夫婦と2人娘の4人家族。
父親ハンネスはベルリンに通うサラリーマンで、この家はもう農業と関係がない。家父長制も影を潜めた。
娘は10歳代半ばにさしかかろうとするレンカとその妹ネリ―。
ここにやってきた最初の日、玄関のドアを開けようと手を伸ばすと、何故か、そのドアノブの鉄の味をレンカは知っているような気がした。
レンカは内向的な性格で、一人で過ごす事が多い。
ドアノブの味について、レンカは両親には話さない、そんなバカげた事を話すのも気が引ける。

真夏の陽射しの下、家族は前庭に村の人々を集め、食事をしワインを呑んで交流を深める事とした。
レンカとネリーと村の子供達は水遊び。
レンカは幼い子らと戯れているうちに、自分もいつの間にか上半身裸で水かけごっこに興じていた。
しばらくすると、レンカは身体に粘りつくような何かを感じて、自身の体を見てみた。
体には何も変化はなく、レンカは周囲を見回した。誰かが自分を見ているのか。
レンカはこの事も両親に話さず、いやな感じは重く胸の底に溜まっていった。
自分の上半身を両手で抱きしめるレンカの不安な表情。
レンカが知る由もないが、このいやな感じは、1980年代にアンゲリカがこの辺りで感じたものと似ているのではなかろうか。

数日後、家族は皆で例のエルベ川に行って泳いだ。
ここで村の女性の集団入水自殺があった事を知る人はもういない。
レンカは川で遊んでいたカヤという同じ年頃の少女に話しかけられた。
カヤは潜水が巧い。水中でレンカとカヤは見つめ合って笑い合うが、声は聞こえない。泡立ち、光の射し込む緑がかった映像は別世界を思わせる。
岸辺に座ると、カヤは最近母が死んだと話した。
レンカは死というものに興味を持ち、カヤをランチに誘った。
家への帰り道、どんどん先へ歩いていってしまう家族に離された妹ネリーは、わざと土手から川へと転がり落ちる。
母親が慌てて探しにやってきた。
ネリーは息を殺して水中に潜り、母の心配気な様子を確認すると、大笑いして川面に飛び出た。

家の庭でランチをする家族4人とカヤ。
カヤは遠慮する気配も見せず、レンカの母の手作りの料理をスプーンでがつがつと口に運ぶ。
カヤは突然言う、「今日泊まっていい?」
驚く両親の前、カヤは携帯で父親に電話。勝手に「友達のお母さんが話があるって」と言い、携帯をレンカの母に渡す。
戸惑う両親。
結局、初めて訪れた家にカヤは泊まる事となった。
レンカとネリーの部屋にカヤを入れ、母親が寝かしつけにくると、自分の意志を自由に発言する彼女は「子守唄を歌って欲しい」とねだる。母を亡くしたばかりの子供らしいと言えば、確かにそうも思えるが。
レンカの母親はやむを得ずカヤの脇に座って子守唄を歌い始めるものの、なかなか寝つかない。
母親は歌詞を繰り返して歌う。
様子を見ていたレンカとネリーは、母親をカヤに盗られた気がした。子供にとってこれ以上の孤独があろうか。

翌日、レンカとカヤはまた川へ遊びに行った。
残された妹のネリ―は、邸のあちこちを一人で歩き回り、そして、納屋に入っていった。
2階へ架かっていた梯子を見つけ、上っていく。
ここは、昔フリッツが落ち、片脚を切断する大怪我を負った場所である。
屋根の隙間からは夏の陽射しが射し込んでくる。その中で浮かぶ埃がキラキラと舞っている。
古い家が持つ100年の記憶(トラウマ)に誘われるかのように、ネリーは躊躇もせず、両手を拡げ、ロフトのヘリから笑顔で飛び出る。
ネリーの身体が宙に浮かんだところで映像はストップ。「落下音」だけがする。

村の収穫の日には猛烈な風が吹いた。時代は分からない。
麦藁の山などに身を隠す人達、だがその藁も飛んでしまいそうだ。
中には、風に向かい楽し気に歩いていこうとする子供もいる。飛ばされそうに服の裾が激しく舞う。
更に強い風が吹きだす。地面近くをクローズアップで写すうちに、カメラは2人の子供の足が次第に浮いていくのを捉える。
2人の身体は凧揚げのように斜め前に傾いた姿勢で、猛烈な風の浮力(?)で宙に浮いていく。子供達の笑顔。
ネリーの落下と子供達の浮遊はコントラストの極致とも言えるが…

理解を超えた現象を見せて、映画は何の説明もせず、唐突にエンド。


4つの時代のエピソードは、どれも意志の力では制御できないものの存在を描きだしている。
ホラー映画のジャンルに入るとは思わないが、こんなに怖しい映画は久しぶりに観た。


監督・脚本 マーシャ・シリンスキ
脚本(共同) ルイーズ・ピーター
撮影監督 ファビアン・ガンパー
…所々でピンホールカメラを使用。不理解、孤独、疎外感、閉塞感を見事に表した。

美術 コジマ・フェレンツァー
衣装 サブリナ・クラーマー
音響監督 ビリー・ミンド
…ハエの羽音が次第に大きくなるような不協音、死と生の境目、得体の知れないものが口を開ける時の音響が素晴らしく怖ろしい。

出演 ハンナ・ヘクト,レア・ドリンダ,レーナ・ウルツェンドフスキー,レーニ・ガイゼラー他

受賞 カンヌ国際映画祭審査員賞

2025年/ドイツ
 
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