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2026年05月05日17:16

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映画『落下音』マーシャ・シリンスキ ~1

5/3、シネマイーラ浜松で『落下音』を見る。

フォト

2025年のドイツ映画、監督マーシャ・シリンスキ(1984- )は西ベルリン(当時)出身の女性。
長編2作目で、カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した。

映画は、同じ大きな農家で、4つの時代をそれぞれ生きた4人の女性を主人公としている。勘違いをしてはいけないが、彼女らは同一血族という訳ではないし、大河ドラマというような作りでもない。
あとから整理してみると、以下のようになる。

・1910年代 アルマ(7歳前後)
・1940年代 エリカ(10歳半ば~後半)
・1980年代 アンゲリカ(10歳後半)
・現代 レンカ(10歳代半ば)

但し、映画は説明なしで100年強に亘る時代をパッチワークかコラージュのように行ったり来たりするし、ドイツ北部の農家を同じ舞台にして展開するため、時と人を整理しながらスクリーンを追うのはかなり大変だった。

1910年、第一次世界大戦以前のドイツは、歴史的にはまだ19世紀末の時代性が濃厚である。

誰なのか分からない、死んだ幼な子の顔のアップ。そこへハエが飛んできて顔に降り、彼の半ば開けられた口の中に歩いて入っていく。
つい声を呑む光景、一体どうやってこれを撮ったのだろうか?
ハエは、死者の胎内が既に腐り始めているという事をサジェストしたのかもしれない。
死体の周囲ではアルマや姉妹の遊ぶ声がする。

1910年代の主人公アルマは一男六女の末娘。
誰の忌日かよく分からないが、アルマは初めて喪服を着させられて儀式に参列する。
ポスターの中でこちらを見つめているのがアルマ。

死者と家族を一緒に撮る記念写真は土地の習わしか。死者もまるで生きているかのように、家族とソファに座らせて撮影する。
そうしたセピア色の写真がたくさん並べられた暗いリビングで、自分とよく似た年頃の、これもアルマという名の少女の写真を発見する。それはすぐ上の姉(五女)で、両親は、彼女が亡くなったため、そのあとに生まれた女の子に同じ名前を付けたのだろう。

姉のアルマの死後記念写真には、そのソファの後ろに2人の大人の女性が映り込んでおり、動いたせいか、2人は影か幽霊のように見える。
生きている方のアルマは、不穏な空気と伴に、日常に溶け込んでいる死を実感する。だが幼いアルマがそれを言葉にできる訳もなく、そうした空気が彼女の胸の内に埃のように蓄積されていく。

アルマの一番上の兄フリッツは、片脚がなく、たいてい一日中ベッドにいる。
「幻肢痛」というのだろうか、時々、切断された脚が酷く痛んで泣き喚く。
母親エマと女中のトゥルーディが順番に彼の「世話」をする。
ずっとあとで分かる事だが、フリッツに片脚がないのには、実は両親が関わっている。驚くべき事だが、一人息子が召集されるのを防ぐため、両親は彼を傷つける事を企んだ。いやがるフリッツを追い駆け回すうち、彼は納屋の2階から落ちて大怪我を負い、切断せざるを得なくなった。親の思惑より大きな怪我となってしまった。
妹達はこの様子を物陰から見ていた。

後日、憲兵が調査にやってきて、これを「労災」と誤った認定を下す。

若いフリッツの「世話」の中には、持て余す性の処理も含まれている。その役をやらされているのは専ら女中のトゥールディだ。
世話をしている彼女の背中、その向こうに横たわるフリッツの裸の上半身、妹達はそれを鍵穴から覗いた。トゥールディはそれに気づき、彼女達を追い払う。
フリッツの部屋から出てきた母親エマは、廊下で吐きそうに唸る。

ずっとあとの事だが、妹達の中で一番上のリアが、よそに女中奉公に出される事が決まった。
リアは暗い顔をして父マックスの命令を聞いているが、拒絶する事はできない。
リアに対して父はこう言う、「女としての務めを果たせ」。
女中が、奉公先の主人の性の捌け口になる事は常識的だったに違いない。
幼いアルマは、荷馬車のうず高い麦わらの上に乗せられていくリアに微笑んで手を振った。
リアは目を伏せ、そして、麦わらの上から荷車の前へ頭から滑り落ちていった。
母親らが慌てて駆け寄ってきたが、リアは轢かれて死んでしまう。

葬儀の前、例によってリアを含めた家族写真を撮らねばならない。
リアの眼は既に半開きになっている。年嵩の女中のベルタは慣れた手つきで、リアの眼が閉じてしまうのを防ぐため、彼女の上瞼に糸を通した針を何ヶ所か刺して引っぱり上げ、無理やり眼を開けさせた。
それを捉えるクローズアップ映像の恐ろしさ!
リアをソファに座らせ、家族が両脇に腰を下ろして支えたところを、写真屋が合図してシャッターを切った。

アルマの胸中には、女という事、そして死の理不尽が、否応なしに積み重なっていく。

この時も、やってきた憲兵は事故を「労災」と認定する。つまり、仕方のない事故として、歴史の中ではいつか埋もれ、遂にはなかった事にされてしまう。

その後、母親のエマは病にとりつかれ、歩けなくなる。熱もなく、往診した医者は原因不明としてさじを投げた。

(続く)
 
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