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2026年03月18日16:44

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映画『センチメンタル・バリュー』~2/end

(続き)

グスタフの映画制作への思い、その核にあるのは彼が7歳の時に家で自死した母カリンだった。自身老いを迎え、何故母は死を選んだのか、それについて正面から向き合い、喪失を乗り越えたい。
かつて長女ノーラにも自死の危険が迫った事があった。最後の映画でカリンを演ずる事ができるのはノーラしかいない、そして、世代を超えて遺された痛みを、通い合わせたい、と。

大学時代歴史を専攻していた次女アグネスは、国立公文書館で、祖母カリンについて調査をする事にした。
第2次大戦時、ナチスに屈服したノルウェー政府はドイツの傀儡となった。そのため、国内でレジスタンス運動が展開された。
カリンは反政府運動の疑いで強制収容所に収監され、執拗な拷問を受けた。
アグネスは、国立公文書館で類似する案件の残酷な写真資料も見る事となった。
何とか生き延びたカリンだが、戦後、幼い息子グスタフを残して自殺する。拷問が心身に与えた傷が影響したのかどうか、映画は説明しない。

何故?という思いは、グスタフの胸に一生くすぶりけた。
部屋のドアが開いていて、中央に木製のイスが置かれている。中には誰もいない。
ドアが閉じられると、椅子が倒れる音がする。
幼いグスタフが脳内で勝手に作り上げたシーンか?

アグネスは、父の書いた脚本を読み、姉ノーラに、出演はしないとしても、少なくとも読んでみたらどうかと話す。
ノーラは妹に従ってみる事とした。

一方、レイチェルは、例の家で繰り返し行われる本読みの段階で既に苦悩していた。
彼女のセリフを聴き、グスタヴの反応を表情から見極めようとするレイチェル。
グスタヴは具体的な指導はしない。
個人的色彩の極めて強い物語、それを第三者の視点から具体化するのが俳優の仕事である。
金髪のレイチェルは、グスタヴの母カリンと同じブラウンの髪色に染めてみる。だが、次第にアメリカ人である自分に、この仕事ができるのだろうかと思い始める。ノルウェー語訛りの習得とか、小手先の問題ではない。

ある休日、レイチェルはあの家へグスタヴを訪ね、この役から降りたいと泣きながら懇願した。先に進んで大きな迷惑をかけるよりも、今のうちに、と。

あの特徴のある様式の家を改装する工事の短いシーンが時々挿入される。
何を意味するのか、説明は一切ない。単なる心象風景か。
古い梁は壊され、赤い壁、黒い柱は白く塗りかえられ、あちこちに入っているひびは見えなくなる。

例の家のキッチン、ある朝、アグネスの息子エリックがバタバタと学校に出て行こうとしている。それを手伝うノーラ(アグネスではない)。勝手口から出ていくエリック。内側からドアのカギを閉めるノーラ。
キッチンから見える別の部屋。白いドアは開いていて、白壁の室内の中央に木製のイスがある。
ノーラは部屋に入り、ロープを取り出し、イスに近づこうとすると、キッチンのドアを激しく叩く音がする。
慌ててノーラがキッチンに戻れば、エリックがドアの向こうにいる。
ドアを開けると、スマホを忘れたと言うエリック。キッチンのテーブルの上に置かれていたスマホを掴み、ノーラの顔を真っ直ぐ見つめて、また出ていく。
ノーラは再び先程の別室に入り、イスに腰かける。その表情。

そこへ「はいカット」というグスタヴの声がする。「完璧だ」と。
ノーラは笑顔になる。
エリックが駆け寄ってきて、ノーラと抱き合う。
カメラが引くと、そこは例の家を部分的に再現した室内セットで、劇中劇が行われていた事が分かる。
グスタヴが作ろうとしていた最後の映画がこれだったのだろう。


最後に、タイトル「センチメンタル・バリュー」の意味を明かしておきたい。
ノルウェー語では「Affeksjonsverdi」という由。
母の追悼の会が終わったあと、遺品を整理するノーラとアグネスの会話。

ノーラ「大事な物以外、捨てよう。」
アグネス「愛着がある物ばかり。」
アグネスの、こう訳されたセリフが「Affeksjonsverdi」だった。


監督・脚本 ヨアキム・トリアー
脚本 エスキル・フォクト(共同)
撮影監督 キャスパー・タクセン・アンドレセン
美術 ヨルゲン・スタンゲビー・ラーセン
衣装 エレン・ダーリ・イステヘーデ
編集 オリビエ・ブッゲ・クエット
音楽 ハニャ・ラニ

出演 レナーテ・レインスヴェ,ステラン・スカルスガルド,インガ・イブスドッテル・リッレオース,エル・ファニング

受賞 カンヌ国際映画祭グランプリ,ゴールデン・グローブ賞助演男優賞 他

2025/ノルウェー,フランス,デンマーク,ドイツ
 
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