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2025年12月23日13:00

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演劇『狩場の悲劇』チェーホフ/永井愛~2

(続き)

物語を簡単過ぎる程簡単にまとめると、裕福なアレクセイ伯爵の田舎の領地を舞台に、森番(クリミア戦争に従軍したせいで精神に異常をきたしてしまった)の美しい娘オーレニカを巡り、呑んだくれの伯爵、元予審判事のセルゲイ、そして年甲斐もなく彼女に惚れこんでしまった執事(元は貴族だった)ウルベーニンの3人が恋のさや当てをする、というもの。
19歳のオーレニカは真面目な執事ウルベーニンと結婚したにも関わらず、充足できず、伯爵にもセルゲイにも秋波を送る。日替わりのように言う事がコロコロと変わり、結果として周囲の多くの人達を振り回し、傷つけ、恨みを買うのだが、自身それには気づかない。

階級に雁字搦めの時代、領主や貴族に用いられなかった青年らは自己実現を諦めざるを得ない。
一方、女性達は更に選択肢が少なく、幸福になるためには誰と結婚するかしか手はない。
オーレニカは、そうした考えに捉われ、日々手練手管を使う。
セルゲイが森で最初に見た可憐な少女(赤いワンピースをまとい、湖畔でロシアの名詩に歌を付けて唄っていた)は何処へ行ってしまったやら。
彼女の衣裳は、まるで内心を表すかのように、赤、白、青、黄、黒と変わっていく。

オーレニカは遂に伯爵邸の深い森(狩場)にて刺され、命を落とす事となる。犯人は誰か?
元予審判事のセルゲイは、慣れた仕事柄、容疑者を炙りだし、次々まな板の上に乗せ、手記に記録していく。


小説の登場人物は14人もいるが、まだ5人しか紹介していない。
殺人犯割り出しを急ぐ前に、ある一場によって重要人物をもう少しだけピックアップしておきたい。

祭りの日、セルゲイは前からの友人ドクトルと出会う。
彼は地域医療を担当し、また治安判事を務めるカリーニンの主治医でもある。カリーニンは娘ナージェニカを連れて祭りに来ていた。
ナージェニカを見かけたドクトルは、彼女をセルゲイのところに引っ張っていく。

実はセルゲイとナージェニカは過去に付き合っていた事がある。だが、彼はある日突然彼女と会うのを避けるようになった。
教育を受け、知的で自立を目指そうとするナージェニカは、感情に流される事なく、セルゲイの態度の急変の訳を知っておきたいと思っていた。
ドクトルは、ナージェニカを密かに恋していたが、これ迄の経緯を知っていたため、彼女をセルゲイに合わせ、自分は敢て深入りせず、他所へと去った。

ナージェニカは、一番訊きたい事柄は措いて、セルゲイにこう話しかけた。
今私はある女性の仕事を手伝っている。彼女は災害に遭った人達のために寄付を集めたり、貧しい子供達に字を教えたり、村に診療所を作ろうと働きかけたりしている。

ところが、乱暴にもセルゲイは診療所など不要だと主張する。診療所も学校も、人々を奴隷にする役割しか果たしていない。奴隷がつながれた鎖を断ち切るのではなく、新たな鎖を付け加えているだけだ。過酷な労働で病み衰えている人は、飢えた我が子の心配をし、パンの事だけ考え続けて死んでいく。僅かな援助を与えても混乱を生みだすだけだ。

ナージェニカは反論する、では何もするなと言うの?
セルゲイは、善意だけでは農民の無知も死亡率も減らせない、大事なのは人々を過酷な労働から解放するという根本だ。

それでも彼女は静かに言う、確かに私達は人類を救っている訳ではない、でも、困っている人が目の前にいたらできる限り手を差し伸べたい、と。

セルゲイがそれを自己満足だと批判すると、彼女は言葉に力を籠めた。
あなたこそ自身の無関心を正当化しているではなくって?  本当は何も行動できずにいる事を恥じているのでしょう? 昔のあなたは世の中を改革しようとしていた。自分が現実に負けたからといって、私達を侮辱するのはあんまりだ!

このくだりは、先に述べたデカブリストの乱と知識人の態度を見事に表象している。

これを脇で見ていた編集長は、大いに笑い、拍手をした。セルゲイは編集長を睨む。
ナージェニカは言い過ぎた事を自覚し、去っていく。

(続く)
 
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