そもそもピアノソロリサイタル。
これまでの常識ならできるだけ少人数で、空間音響効果の整ったホールで鮮やかな演奏を聴きたいもの。これが、安くはないチケットを買って生演奏を聴く動機となる。これが自然。
Kアリーナでのピアノコンサートがギネス級動員記録というのは、やはり常識外れであり、求めているベクトルの違いを感じるのが必然。
角野隼人を知ったのは税理士先生のイチオシコメントが初めてだった。
こちらはバイオリニストHIMARIのリサイタルを、軽井沢の名門《大賀ホール》で聴いて調子に乗っていた時期。
『角野を知らないのか?』と問われて、
『幸楽のマスターでしょ。あそこのラーメンは美味い』と、定例的な返事をしておいた。
そののち、今度は音楽に造詣の深い別の先生から、
『音大を出ていないのにすごいピアニストがいる。裸足になって鍵盤に足を乗せて、軍隊ポロネーズを弾いてやがる』という情報が舞い込んだ。
もちろん答えは『柔道一直線か』の一点縛り。桜木健一じゃない方の人が、確か同じことをやっていた。
これだけのオススメ情報を得て、アンテナが伸びないわけがない←伸びる。
みなとみらいに吊り下がっていた、やたらと大きな太鼓幕の告知に釣られて、その場でチケットゲット。
世界一チケットを取れないラーメン屋のはずなのに意外とあっさりと、しかも意外とリーズナブルにチケットをゲットする。
あとで先生から聞いたけど、
『そのチケットはKアリーナ最上席。だから、相場の半額になっている』ということ。
最上位のアリーナではなく一番てっぺん、Kアリーナ7階建の7階部分の最高峰、いな、最後方席が割り当てられていた。
別に構わない。
ちゃんとしたフィルでもあるまいし、ラーメン屋の大将の演奏姿勢を観るのが今回の目的の一つだから。
退場に2時間掛かるという大設計ミスとアプローチの工事遅延が騒がれたのは、今年の春あたりまで。
今では、リバーサイドのアプローチ橋が整備され、それなりに捌きは良くなっている様子。
最終工事は来春まで掛かり、これが完了すれば曰くありのSOGOまでショートカットが実現するようだ。
初めてのKアリーナ。
5階まではエスカレーターで上がれたけれど、7階までは階段のみがアクセスとなる。
若者を想定したライブ会場ゆえ、高齢者にはかなりキツいバベルの塔。
杖をついたご老人が息を切らせて階段を上がっていく。
もちろん、車椅子用のプライオリティエレベーターは連絡すれば使用できるようだけれど、圧倒的に優しくないハコモノが、かなり業績もよくケン・コーポレーションを支えている。
場内に入ると、オーディエンス目線で国内では珍しいほど《見やすい》設計が徹底されていた。前後の高さが確保され、席の配置も頭の気にならない格子列。
ただ、僕が10年後にこのアリーナにやってくるかといえばNOである。
見やすい分、階段の段差はキツく、とにかく高齢者にとっては北アルプスを目指すかのような哀しい表情で登るしかない。
10分押しでスタートしたソロリサイタル。
ショパン、バッハとクラシカルにセトリをこなしていくけれど、誰もが知っている曲が選曲されることはない。
さらには、かなりジャジーな角野隼人オリジナル。まるで、坂本龍一のライブフィルムを観ているようだ。
音響はドームのような割れもディレイもなく、7階に辿り着く音は、きっとアリーナと同レベル。PAの実力が光っている。
さらにバックスクリーンには鍵盤とシンクロしたデジタルアート。
これが、今回、自分にとってのヒットのひとつ。
映像プロデュースに起用されたのが真鍋大度と知って、一同納得。このエフェクトがなかったら、果たしてずっと起きていられたかどうか。
実は目をつぶるとやってくる睡魔は、セットリストの不気味さに起因する。
自分にとってNGな不協和音。
ステージに用意されたグランドピアノに並び鎮座するプリペアド・ピアノ。
これが、どうしても僕にとっては納豆のような存在として君臨し続けていた。
なぜ88の鍵盤がありながら、美しさを求めないのか。いや、それが現代アート的なのだから、受け入れてしまいなさい。
自問自答の中、アンコールを2つこなし、大天才ピアニスト・角野隼人のフィナーレを迎えた。
ギネスブック、おめでとう。
まだ30歳。
ボレロを生で聴きたかったけれど、これはYouTubeに委ねよう。
若者をクラシックに惹きつけるカリスマ。
ぼくは、もう観ることはないと思うけど、この経験はプライス以上の経験になった。
あ〜あ、良いホールで素晴らしいフィルを聴きたい。
タクトを下ろしたら、思い切り『BRAVO』と叫びたい。
ホールを出る頃には、そんな欲求が沸々と湧き立った。
とりあえず、明日は横浜高島屋へ行かなくては。
角野隼斗、Kアリーナ横浜公演がギネス世界記録 屋内ソロピアノ最多1万8546枚を完売
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=54&from=diary&id=8575806
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