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2026年08月05日11:00

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ルーシー・リー展/庭園美術館��/end

(続き)

◆第4章「自らのスタイルへ~陶芸家ルーシー・リー」
1967年、アーツ・カウンシルによる個展が開催されると、ルーシー・リーの名声はイギリスを飛び出し広く世界の陶芸界で知られるようになった。
1970年を過ぎる頃には、ウィーン工房や東洋の焼き物のエッセンスを取り込みつつも、フォルムや色彩の面で明らかに独自の展開を見せ、バーナード・リーチらのスタイルと一線を画すようになる。それは釉薬と形態、装飾が一体となって一層洗練された、まさに現在私達が認識しているルーシー・リー様式である。
当初リーの作品を酷評したリーチだが、後年には「これらの作品は彼女だけがなしえた優美さだ」と、その薄さを含めて評価するようになった。

先に触れたが、日本でリーの受容を考える時にメルクマールとなるのは、1989年に草月会館で開催された「現代イギリス陶芸家 ルゥーシー・リィー展」(原文ママ)である。
1984年、ロンドンで偶然見かけた本の表紙に掲載されていたリーの作品に三宅は魅了され、すぐに彼女の工房を訪ねた。リーこの年歳82歳。
三宅はまず彼女のボタンを使った服を1989-90秋コレクションで発表。その1989年、自身の企画・監修で早くも前掲の展覧会を開催してしまう。展示総数96。三宅のエネルギーには驚かされる。草月ギャラリーの水上展示の空間は安藤忠雄がデザインした。
この時、日本でのルーシー・リー人気が確立したのである。

こちらは写真家サム・ハスキンス(1926-2009)が撮影した晩年のリー。データはなく、詳細は分からない。
フォト

ハスキンスのサインが左下隅にある。
リーはカメラを全く意識せず、掻き落としをした鉢の内底に釉薬を塗っている(ように見える)。

草月会館展の翌1990年、リーは脳梗塞で倒れ記憶の殆どを失い、作陶人生の終焉を迎える事を余儀なくされた。
そして1995年、アルビオン・ミューズの自宅で亡くなる。93歳だった。

第4章はリーが自身の作風を確たるものとした1970年以降に制作された作品を紹介している。
いずれもミニマムなフォルムに、高い装飾技術、計算され尽くした釉薬の効果が見てとれる。
1970年代からは殊に鮮やかな色使いとなっていった。

・黄釉線文鉢(1972頃)
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美しく発光する黄色の鉢、内底に掻き落としと象嵌の技法が見える。

・鉢(1975頃)
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掻き落としと象嵌を極限迄駆使した鉢。マンガン釉の茶の上にピンク、光るターコイズブルー、金を施して実に華やか。
第2章の楚々とした茶釉線文鉢(1960-70年代頃)の発展形として、両者を見比べるのも面白い。

・青釉鉢(1980頃)
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高めの高台の上、口縁に向けて薄く大きく広がる薄い鉢。全体に青釉を施し、口縁にブロンズ釉を垂らして一層ブルーを引き立てている。
これぞルーシー・リーという一品。
冒頭に貼付した本展チラシもこの鉢の部分を使っている。

・スパイラル文花瓶(1980頃)
フォト

濃淡のある茶と緑を混ぜた文様が首から口縁部にかけて上昇するように渦を巻いている。この螺旋文様を「スパイラル文」とリーは名付けた。
リーはスパイラルの手法を1960年代後半に開発し、様々な土と釉薬の組み合わせを試みた。
ここでは本体におそらく溶岩釉を施し、小穴の多数開いた素地にスパイラル文を乗せている。口は柔らかにたわみ自由に広がっている。
背景には庭園美術館新館のアールデコ風に細工されたガラス扉が見える。


NHK-Eテレ「日曜美術館」のルーシー・リー特集(7/26放送)で、ビデオに収められた晩年の本人の声を聴く事ができた。
「大切なのは全ての材料が正確なバランスで組み合わさる事なのです。」
まるで科学者の発言のようでもある。彼女は決して思いつきで制作する人ではない。

同番組にビデオ出演した陶芸家小山耕一は、国内の研究会の求めで、リーの技法を15年以上研究している。
ルーシー・リーがしたためたノートのコピーを小山は預かっている。大学ノート「10何冊」にもなるもの。
以下はそれらのノートを読みこんだ小山の発言の意訳。
「これらのノートは誰かに何かを伝えようとしたものではなく、自分の制作の日々のメモとして綴ったもの。全くストイックなもので、焼き物の事しか書いていない。
幾多の素材の組み合わせ自体は順列組み合わせの世界であるから何万通りにもなる。(数式がいっぱい書かれたページもある。)
ノートには、閃いて試した事も逐次メモしている。(制作を続けるためには)やればいい事だとは分かっていても、生涯に亘ってここ迄できる事ではない、私にはとてもできない。
何かをやろうとした時、この10何冊かのノートからリーはスタートし、技法やデータなどを引っ張り出せた。だからいつも一からやっているのではない、都度積み上げ、幾重にも重ねている。それがあの形と色に出ている。余計なものはひとつもない。
彼女はおそらく他人の言う事は聴かなかった人だと思う。自分が実際にやってきた事しか信用していない。自分の美意識しか信用していない。」

小山はノートの通りに複数の釉薬を配合し、リー作品の再現をチャレンジしてみせた。


〈参考資料〉
NHK-Eテレ「日曜美術館」『陶芸家ルーシー・リー~繊細でたくましい器』
 解説 深澤直人(プロダクトデザイナー,日本民藝館館長)
    勝田琴絵(庭園美術館学芸員)
    宮川典子(国立工芸館研究員)…ビデオ出演
    小山耕一(陶芸家) …ビデオ出演
 ディレクター 篠田龍之介
 放送 7/26(日)
 
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