mixiユーザー(id:3341406)

2026年03月22日13:00

69 view

「NHKアカデミア」中村獅童(後編~2)/end

(後編1から続き)

獅童の代表作に10年以上続く演目がある。絵本『あらしのよるに』(1994-2005講談社/作 木村裕一,絵 あべ弘士)を原作とした同名の新作歌舞伎だ。

     フォト

2015年、京都南座初演、ヤギのメイ 尾上松也、オオカミのガブ 獅童。
喰う・喰われるの関係に葛藤しながら2匹は稀有な友情を深めていく。
メイの差し出した手に、照れた顔で自身の手を重ねるガブ。この表情が何とも言えない!。

フォト

古典を踏襲しながら、子供の感性の成長にとってもいい歌舞伎だ。

この作品、実は2013年に73歳で病死した母(小川陽子)との思い出が詰まっている。
「『あらしのよるに』は小さな子どもでも観られるようにしてある。何故かというと、小さな時に母や家族と観た歌舞伎はずっと憶えている。僕は小さい時、歌舞伎以外のお芝居,映画,コンサート等全て母が連れていってくれた。いくつになってもそれを忘れる事はない。
あなたは歌舞伎の役者だけど、世の中にはこれだけのエンタテイメントがあって、歌舞伎だけがえらいんじゃない。
昭和の時代に観に行った大衆演劇、幕間に裸の女性が出てきて踊る。そういうものも母は連れていってくれた。表現している人は皆同じなんだと母は教えたかったのだと思う。僕がこれだけ他ジャンルとコラボレートしてこれたというのは、幼少時の蓄積がものを言っている。小さな子供と親子連れで楽しむ事もできる歌舞伎、そういったものがあってもいい、そんな思いで作ったのが『あらしのよるに』だ。」

「『あらしのよるに』との出会いは、NHK-Eテレの「てれび絵本」(2003~レギュラー番組)での単発の朗読の仕事だった。
後日、プロデューサーの方に訊いた事がある、声の仕事は初めてだったが、何故僕を呼んでくれたんですか?。
それによると、その年の正月に『義経千本桜』の歌舞伎公演があった。そのクライマックス「四の切(しのきり)」の場、キツネの化身(忠信狐)が源義経を訪れ、そこにある鼓(「初音の鼓」)は私の母親の皮で作ったものだから返して下さいと言う。
その時のキツネの化身が素晴らしかった、と。」
下はその鼓を得て、母狐と再会を果たした忠信狐の喜び悲しみ混ざる表情。

    フォト

「このキツネを演じていたのが僕で、「てれび絵本」のプロデューサーは『あらしのよるに』のオオカミの声を獅童にやらせたら面白いのではないかと閃いた由。なるほどと頷いた次第だ。」

「その後の2015年、京都の南座、僕が座頭で、演目はどうしようって考えている時『あらしのよるに』を思い出した。ファンタジーな世界観も歌舞伎にピッタリだ、と興行主である松竹に持ち上げた。
その時母は既に亡くなっていたのだが、昔母と『あらしのよるに』について会話した事があったのを思い出した。
こうして新作歌舞伎の演目が決まり、京都南座で初日を迎える前日、松竹の方に呼ばれた。
何かなと思って出向いたところ、「てれび絵本」の放送が始まってすぐの時、僕の母が、松竹に手書きの企画書を書いて提出、いつか獅童が自分で責任興行、また出し物をやれるような立場の役者になったら、これを是非やらせて欲しいと頼みにきていたのだと言う。
僕は驚いた、自分で立ち上げた自分の企画だと思い込んでいたので…。
母はそんな事をひと言も言わずに旅立ってしまった。
随分時は経ってしまったが、また母に助けられたな、と思った。
言葉にこそ出さなかったが、いつかそういう事のできる役者になってもらいたいという母なりの思いが甦ってきた。
だから僕にとってこの物語は凄く大切だし、このストーリーに触れると、毎回、母の事、母の温もりを思い出す。群衆役しかつかず、誰にも相手にされなかったのに、あなただけは僕を見てくれていたと、『あらしのよるに』を演ずる度、自分の心に刺さるものがある。」
「僕は、これ、やがて古典になって欲しいなと思っている。普遍的なものって決して古びる事がないから、我々がこの世から去ったあと、100年後にも作品として残っていて欲しいし、続編が生まれてもいいと思っている。
僕の子供達もこの作品が大好きなので、子供達がやがて引き継いでくれるのもいいし、他の方々がやってくれてもいい。作品として育っていって欲しい」


参加者の中から一中年女性の質問。
獅童さんのお子様2人も歌舞伎界でこれからも活躍していくと思うが、どんな思いで、どんなアドバイスをしただろうか?

「アドバイスというのは、私はしていない。歌舞伎の世界には確かに足を踏み入れたが、役者になるようにと僕はひと言も言っていない。親がいくら言っても、本人にやる気がなければいい役者にはなれないし、続かない。何故続くかと言えば、歌舞伎が好きだという思いが根底にある事。幸い今のところ2人共歌舞伎が大好きみたい。
化粧するのを嫌がるお子さんを見かける事がある。小さいからしょうがない。
でも、いくらやんちゃにしていても、顔の時間となると、パタッと化粧に集中する。動くと顔が汚くなってしまうというのが、小さいながらも分かっているみたいだ。カッコいい自分を見せたいという気持ちなのかもしれないが、それって役者にとって凄く大事。だから、今のところ相当に好きなんだなと理解している。
親としては嬉しいが、これからの役者人生をどう歩んでいくかというのは彼ら次第。一生懸命稽古をして、早く俺を追い抜いてみせろって言っている。(笑)
理想を押し付けやすい職業だし、いい役者になって欲しいというのは内心あるけれども、あんまり押し付けずに、のびのびやってもらいたい。親のエゴにならないよう、自然体で子供を尊重するそんな親でありたい。」


番組から、数々の苦難を越えて掴んだ唯一無二の人生、今何を思うか?との問いに、獅童は考えながら、言葉を選びつつゆっくりと答えた。
「僕はやはり好きな事が仕事になっているって事が生きていく上での最大のエネルギー。だから、歌舞伎界に親がおらず、さぞ苦労したでしょうとインタビューされる事が多いが、そんなたいした努力もしていない。
いや、簡単に口にしてしまったけど、努力を努力と思っているうちはダメだって言われた事がある。こんなに努力しているのに何故報われないんだろうって言っている人もいるが、そう思っているうちはまだまだ。
本当に凄い人って努力を努力と思わない。なるほど、と思った。
好きな事をやらせてもらって食べさせてもらっているのに、苦しいとか努力とかってあんまり…。
ちょっとカッコつけたかもしれないけど、本当にたいした努力もしていない。
もしかしたら、生きていく事って苦しい事なのかもしれない。だからこそ、コンサートに行って感動する、演劇や歌舞伎を観て感動する、そういうちょっとした喜びってとても大事。
見せる側にいる者、表現者ってそういう事を理解してやっていく事が大事なのかなと、そんな風に思って生きている。」

「自分の普段の思い、感じている事など、こうして素の中村獅童じゃないとなかなかお伝えする事もできないので、自分にとって今回はとても有意義な時間でした。
どうもありがとうございました。」

 ディレクター 藤倉日向子
 放送日 2026.3.10&17 225
 
1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2026年03月>
日 月 火 水 木 金 土
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031