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2026年02月09日11:00

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名古屋フィル~豊田市コンサートホールシリーズVol.19 ��

(続き)

2)ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲ニ短調、ソロは金川真弓(1994-)。
私は彼女の演奏を生で初めて聴くし、それ程メジャーなネームでもないので、少し紹介しておこう。
1994年ドイツ・フランクフルト生まれというので、計算上31歳くらいだろうか。豊潤で深い音色、演奏の堂々たる様から、もっと歳上かと思っていたのだが、意外に若い。
4歳から日本でヴァイオリンを学び始め、ニューヨーク、その後12歳でロサンゼルスへ移る。米国籍取得の経緯は分からないが、両親はともに日本人らしい。
ベルリンのハンス・アイスラー音大でコリヤ・ブラッハーに師事。
現在はドイツを拠点とし、ブレーメン国立芸術大では教鞭もとっているとの事。
最近の受賞歴では、一昨年2024年ジョルジュ・エネスク国際コンクールのヴァイオリン部門での優勝とエネスク・ソナタ賞受賞。このコンクールは課題がヘビーで且つ第3次予選はエネスク作品が必須となっているため日本人は良い成績を上げてこなかったから、金川の優勝は特筆すべき快挙である。ピアノ部門でも日本人の優勝はこれ迄なし。2024年はチェロの北村陽も優勝、これから日本人演奏家の間でもこのコンクールの名は知られていくだろう。
これ以前に2018年のロン=ティボー国際音楽コンクールで第2位、及び最優秀協奏曲賞を受賞しており、共演した指揮者やオーケストラは既に数多い。
今回使用したヴァイオリンは笹川音楽財団(旧日本音楽財団)貸与のストラディヴァリウス「ウィルヘルミ」(1725)。
(ドイツ演奏家財団の国家楽器基金からペトラス・グァルネリウス(17世紀後半/マントヴァ)を貸与されているとの情報もあるが、使い分けているか、それとも情報が古いのか、よくは分からない。)

2023年からは、エル・システマジャパンと連携し児童養護施設でのヴァイオリン教育を実施をしているボランティア団体「弦楽りぼん」で、主に家庭の事情から社会的養護下にある子どもたちに豊かな芸術環境を提供する活動にスペシャルサポーターとして寄与している。
こうした幅広い視野と活動は、彼女の音楽に必ずや何かしら良い影響を与えるに違いない。

第1楽章はオーケストラの短い導入のあと、ソロヴァイオリンがアレグロで聴衆の胸先に鋭く切り込んでくるが、金川のG線の主題は慌てず落ち着いていて、多用する重音にも力がありフレージングが明確だ。
しばらくしてジョージアの土俗的な歌謡が切々と唄われる。
再現部前のカデンツァは使われたモチーフを自由に展開して音域を広く飛び跳ねる。
金川は時おり指揮者や弦奏者と視線を見交わし、笑みを見せる。

第2楽章はアンダンテ・ソステヌートの歌謡による三部形式。
ハチャトゥリアン自身も多民族が共生した南コーカサス地方、帝政ロシア時代のジョージア(旧グルジア)の首都トビリシ近郊で生まれたアルメニア人という複雑な経歴を持つが、そうした環境下、殊に下層民に生まれたであろう悲歌が切々と歌われる。
しかし、金川のそれは感傷に溺れず、暗くもくっきりしている。

第3楽章は第1楽章よりも更に早いアレグロ・ヴィバーチェによるロンド形式。
ファンファーレのようなリズムの元気のいい長調のオーケストラ導入。
そのあと、飛び跳ねるような民族的な踊りの如きソロが繰り返される。そのリズムを楽しむような、金川の表情。
一旦短調の歌も現れるが、再び現れるロンド主題。ヴァイオリンソロは一時も休むことなく、主題を様々に修飾して最低音から最高音迄駆け抜ける。
オーケストラの経過句でフォルテッシモを築き、一気になだれ込むようにエンド。

指揮の出口大地(1989- )は2021年のハチャトゥリアン国際コンクールの指揮部門で日本人初の優勝を遂げているだけに、このオーケストラの扱い、民族的な歌わせ方と山谷の作り方は実に堂に入っている。

大きな拍手と喝采が途切れず、金川が応じたアンコールは、バッハの無伴奏ソナタ第2番BWV1003から第3楽章のアンダンテ。
金川の静謐なバッハの音楽はホールの熱くなった聴衆を鎮めるかのようだった。

20分の休憩の後、続く3)はムソルグスキー/ラヴェル編の組曲《展覧会の絵》。
ハチャトゥリアンをムソルグスキー2曲で挟む、分かりやすいロシアプログラム。
今さら《展覧会の絵》の解説も要らないだろう。

当夜の指揮者 出口大地のエピソードを1つだけ紹介してレポートを終える事にしよう。
実は出口は左利きである。
世界の統計では左利きの構成比率は10%前後、日本より欧米の方が多少高いらしいがそれ程大きな開きはない。
しかし、野球等でメリットも言われるせいか、左利きは増える傾向にあるらしい。左利きを差別するような事もなくなってきているから、右利きに変えようと苦悩する左利きも減ってきているだろう。
統計的な検証は一切していないけれども、左利きは指揮者にも結構いると思うが、それでもタクトは大概右手で持って振っているのではなかろうか。
伝統を背負った指揮法は右手が指揮棒を持つようになっているから、習得しようとする若い指揮者も、見て演奏するオーケストラのプレーヤー達も、それに慣れている。
一般的に右手はアインザッツとリズム中心、左手は表情中心。
でも、伝統と慣れだけの問題だから、左手でタクトを持ってもまったく構わない。

ちなみに本コンサートを一緒に鑑賞した友人に、帰りがけ、出口は左手でタクトを振っていたね、と言ったら、えーホント?と驚いていた。
気がつかなかった人も案外たくさんいそうだ。

当夜は珍しくオーケストラにもアンコールのサービスがあった。
やはりハチャトゥリアンの組曲《仮面舞踏会》から第1曲ワルツ。
1941年、劇付属音楽として作られたが、1944年、作曲家によって組曲とされた。
フィギュアスケートの浅田真央が2008~10年に使用して、日本人には一層親しい曲となった。


[付記]
席は1階第4列15番。
ソリスト金川真弓の表情や息使いを間近で見る事ができた。

[参考資料]
プログラム「名古屋フィルハーモニー交響楽団 2025~26SEASON」
 執筆 奥田佳通
 発行 2026.2.7 名古屋フィルハーモニー交響楽団

YouTube
交響詩《はげ山の一夜》(ムソルグスキー/リムスキー=コルサコフ編)
 指揮 サー・コリン・デイヴィス
 演奏 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
 収録 1979.11
ヴァイオリン協奏曲(ハチャトゥリアン)
 指揮 エフゲニー・スヴェトラーノフ
 独奏 フレリー・クリモフ
 演奏 ソビエト国立交響楽団
 収録 1980.12
 
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