mixiユーザー(id:3341406)

2026年01月14日13:00

112 view

鈴木愛美ピアノリサイタル/アクトシティ浜松��

(続き)

今回のリサイタルのプログラムノートは鈴木愛美本人が書いている。
その中でシューベルトについて書かれた文章は一番長く、力と感情が籠っていた。
以下に是非それを紹介したい。

・・・

フランツ・ペーター・シューベルト(1797-1828)は、私の音楽人生において特別な存在である。最初に心を奪われたのは、フィッシャー=ディースカウの歌うリートであった。
「歌曲王」として知られるように、シューベルトのリートは、今も昔も愛され続けている。
一方で、シューベルトはピアノを内面的な表現に最適な楽器と考えていた。19世紀の作曲家たちがヴィルトゥオーゾな作品を競って書いたのに対し、シューベルトはあえて聴衆に派手なテクニックをみせつけるようなパッセージは書かなかった。私は初めてこのピアノ・ソナタを聴いた時、永遠を感じるような美しい世界と深い内面性に衝撃を受けた。その時の、時が止まったような感覚は今でも思い出す事ができる。当時の私にとって、この作品は、演奏会でしばしば採り挙げられる最期の3曲のソナタよりも、むしろ強く惹きつけるものだった。
1822年末、あるいは23年始めに、シューベルトは彼の死の遠因となる病気、梅毒を発病した。発病から1年以上たった1824年春になって、ようやく平常に近い生活ができるようにはなった。しかし、当時、梅毒は不治の病と考えられており、たとえ一時体調が良くともそれは完治したことを示す訳ではなく、シューベルトにとっても深刻な事態だったと思われる。彼自身、1824年3月27日の日記に「誰も他人の苦しみを理解せず、誰も他人の喜びを理解しない! 人はいつも互いに向かいあっていると信じているが、並んでよそを見ているに過ぎない。おお、この事が分かっている者の苦しみよ!」と記している。この孤独の告白は胸が詰まる程率直だ。しかし、その2年後の1826年に書かれたこのソナタには、それでも信じたかった美しい世界、手放せなかった光を感じる。孤独を知らない者には書けない種類の光。私はこの作品を弾き始める瞬間、全てのノイズが消えていくのを感じる。
私は彼の音楽に矛盾性のようなものを感じる。その矛盾こそが、人間味であり、彼の魅力でもあるのだろう。シューベルトの友人の詩人マイルホーファーは「彼は虚偽や嫉妬とは全く無縁だった。彼の性格の中では、繊細さと粗雑さが、遊び好きな心と誠実さが、社交性と憂鬱症とが混ざり合っていた」と言う。
そして、シューマンは、のちこの作品を「全てが有機的且つ生命に満ちている。……形式と精神に関して最も完全な作品である」と評した。

・・・

彼女から本格的に現代曲を聴けるチャンスはしばらくなさそうだ。しかし、シマノフスキの《メトープ》(1915)は間違いなく20世紀に足を突っ込んだ作品であって、古代ギリシアのホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の登場人物や場面を題材にしながら、印象主義的で神秘な傾向を見事に表現していた。ヴィルトゥオージティは好まない鈴木ではあるが、相当に高い難易度を、これ見よがしの派手さはないけれども、精緻にして自由に弾ききっていた。
また、前述の通り、シューベルトにピアノ協奏曲はないものの、歌曲、歌曲のトランスクリプション、室内楽曲はたくさんあるので、やれる事はまだまだたくさんある。是非仲間をつくって挑戦してもらいたいと思う。

アフタートークでは、好きな演奏家は?と訊かれて、ラドゥ・ルプー(1945-2022)、そしてディヌ・リパッティ(1917-50)と答えていた。たまたま2人共ルーマニア出身だが、その事は彼女の好みとは関係なかろう。
前者は2002年生まれの彼女が生で聴いた可能性はなくはないがどうか? ルプーの最後の来日は2013年で、計算上、彼女の年齢は11歳。その時シューベルトのピアノ・ソナタ第20番を演奏したという記録はある。
後者は生で聴いた可能性はあり得ないので、CDで聴いたのだろう。シューマンのピアノ協奏曲の名盤がある。
現役で活躍中のピアニストの名前は出なかったように思うが、聴き取りにくかったのではっきりしない。

アフタートーク終了後、ロビーでサイン会が催された。私は並ばなかったが、長い列ができていた。

その後彼女は、浜松に来たら必ず寄ると言っていた「Sわやか」に行ってハンバーグを食べたのだろうか?


〈付記〉
私の席は1階第5列13番。いい席だった。

〈参考資料〉
YouTube
第47回ピティナ・ピアノコンペティションにおける鈴木愛美の演奏。
・特級二次予選
バッハ 平均律クラヴィーア曲集第2巻 第22番
シマノフスキ《メトープ》より〈セイレーンの島〉
 収録 2023.7.29/J:COM浦安音楽ホール
・特級セミファイナル
ハイドン ピアノ・ソナタ第13番
シマノフスキ《メトープ》より〈ナウシカー〉
シューベルト ピアノ・ソナタ第18番《幻想》
 収録 2023.8.18/第一生命ホール

フォーレ《ヴァルス・カプリス》第2番 ピエール=アラン・ヴォロンダ
 収録時期/場所 不明
 
2 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2026年01月>
日 月 火 水 木 金 土
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031