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2016年04月01日20:47

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《2016瀬戸内4》小説:天使の散歩道、出逢い

トンボロ現象えんぴつ
普段は海によって隔てられている陸地と島が、干潮時に干上がった海底で繋がる現象。
有名なところではフランスの紋さん、ミッシェルさん。
まだフランスには行けそうもないので、国内で済ませてきた。

いつの頃からなのか。
『この道の真ん中で手をつないだカップルは結ばれる』と口コミで噂が広がり、恋人の聖地・縁結びスポットとして小豆島のパンフレットにも載る観光地となった。

経路は小豆島『前島』から、余島の『中余島』(なかよし・ま)を経て『大余島』までの500m走る人
そんなに長かったことを今、初めて知ったなう。

島を行き交う人々の多くはカップルであり、手のつなぎ方は指を絡めて“恋人つなぎ”ハート達(複数ハート)
中余島の小さな鳥居には、ハート型の絵馬が数多く掛けられていて「2人がこれからも幸せに仲良くありますように」みたいなことを、それぞれの想いを込めて書き綴っている。

いかにもまだ10歳程度の少年少女2人が通り過ぎて行ったので、口笛を鳴らして冷やかしてやった。ただの兄妹だったらどうしようげっそり
手前の前島には、小高い丘の上に『恋人の聖地』なるスポットがある。
校長先生がつまらないスピーチをするためだけに校庭に置かれた朝礼台程度のステージが、そこにはあって、マジックアワーに暮れなずむ景色を背に2人仲良く幸せの鐘を鳴らす。
これが、この地において恋人たちのルーティン。
ここにもハート型の絵馬が、瀬戸内からの澄風に揺れている。

蟹座「こいつら、ちゃんと続いているのかね?」
我ら同年代でも4組のうち3組は、すきま風ただよう夫婦生活を送っているのが実情。
絵馬に記していたころの熱気を保つのさえ、現実はなかなか難しいようだ。

エンジェルロードが現れるトンボロ現象は、干潮時の前後3時間程度。
浣腸は1日に3回。
否、干潮は1日に2回あるから、1日のうち12時間はエンジェルロードが恋人たちをいざなっているわけだ。
蟹座「それほど有難いものではないな」
ラブラブカップルたちに当てられて、どうやらこの日のおいらは恋のひねくれ者になってしまったようだ。

干潮から3時間1分経ったら、ほんとうにこの道は消えてしまうのか。
翌日、その時間を見計らって小高い丘を登ってみた。
恋のひねくれ者が観たものは、こんな情景だったような気がする。

本
【小説:天使の散歩道、出逢い】
フォト
少しだけ息を切らして階段をあがってきた僕たちの眼前に、コンビニ弁当をひろげて憩う2人の姿が現れた。
恋人の聖地と呼ばれる丘の上、校長先生御用達のようなステージに腰掛ける老カップル。

潮は満ち、天使の散歩道も消えている。
ゆえに、カップルたちはどこか別の小豆島へ消え去って、土産物屋すら閑古鳥が鳴いている午後のひと時。
猫「あら、ごめんなさい。私たちがいたら鐘を叩けないわね。」
蟹座「いや、大丈夫です。海を見に来ただけなんで。」

ひよこ「なんか、良いですね。とっても良い雰囲気です。自然すぎて、このロケーションに溶け込んで、ちっとも邪魔だなんて感じない。」
笑顔で返事を返す老婦人。
蟹座「船が出るまで時間があるんです。少し、ぼくたちにも素敵な老い方の勉強をさせてくれませんか。」

顔を見合わせる老カップル、女性は“とんでもない”という仕草で、男性は“まんざらでもない”という顔つきだ。
犬「この島の、目の前のホテルで働いてたんだ。当時は旅館だったかな。そこで彼女に出会ってね。」
印象どおり、この2人は夫婦ではない。
でも、そんなこと大したことではない。
週刊文春が騒ぎすぎているだけのことなのだ。

まだ、エンジェルロードの伝説が産まれるずっと前のころだった。
彼は、とにかく船に乗ってやってきた。
おそらく、住民票にも縁のない、悔いを残す旅立ちだったであろう。
職場を離島のホテルに求め、静かに、やがて空気となって暮らしていた。

旅行客のひとりとして現れた彼女は、大勢の友人たちと瀬戸内を旅していた。
不幸にも事故で息子を失ってから、頑丈だと思っていた精神は乱れ、マイホームだったはずの棲家には苦しみだけが残った。
諍いが起きるのは自分の責任なんだと、伴侶に別れを切り出したけれど、ご主人は「一生支えるから」と誓って守ってくれた。
ご主人をはじめ、多くの友人たちが支え励ましてくれたのは、彼女がこれまで施してきた無償の優しさの積み立てがあったから。

自らよりも他人のことに誠意を尽くす正義の女性だった。
弱い人を見ると、放ってはおけない性格だったのに、ある日、弱い人になってしまった彼女。
これからの人生に、まだまだ誇るべき財産が残されている。
友人たちに向けられた笑顔が、そう語っている。

彼は、ものの見事に無口だった。
レストランのウェイターとして、彼の待ち前の性格は良い方向に発揮される。
寸分の狂いもないナイフとフォーク、そしてスープスプーンのセットが見事だった。
オーダーを間違えることなく厨房に伝え、厨房からのメニューを間違えることなく多くのゲストに配膳する。
帝国ホテルのウエイターが10人のオーダーをこなせるというなら、彼は20人のオーダーを正しく捌くだろう。

そんな彼が間違えた。そして、大きなミスをした。
なぜ?
彼女の容姿が、おそらく思い出したくない過去をフラッシュバックさせたから?

周りの友人たちが彼のミスをなじり、無分別なサービスを求めている。
でも、彼の平身低頭、詫びを入れた姿などは、優しい彼女には必要なかった。
汚れてしまった洋装をそのままに、彼にふと問いかける。
猫「それよりも、あの島と島との間。道があるようですけど、あれは?」

彼は、十年も前から静かに眺めていた余島の一部始終を彼女たちに、だけど、できるだけ彼女へと伝えてみる。
まだ『天使の散歩道』なんていうスイーツな名前などついていない時期の物語。

翌朝、まるで干潮を測っていたかのように一人、レストランにやってきた彼女は、まかないの食事を摂っていた彼を見つけ出し、大胆に話しかける。
猫「昨夜のお詫びに、っていうわけじゃないけど、あの道を一緒に歩いてくださいな。お話したいことがあるの。」
驚いた顔つきの彼に、いつものように笑顔で応える彼女。

その頃は、前島と中余島との間に、もうひとつの離れ島があったという。
名前を「弁天島」波
のちに、潮干狩り観光客誘致のために埋め立てられて繋がった前島と弁天島。
彼女と彼の初めての散歩は、だからエンジェル・ロードがもう少し長かった。
その長さが、2人の距離を縮めたのかもしれない。

絶対に他人に漏らすことのなかった彼の郷里は、彼女の記憶通りに同郷だったし、さらに聞き出した小学校も同じだった。もちろん、担任の名前だってわかっている。
“面影を遺すのは、いつも男子。”という言い伝えは、ここでも真実だった。

蟹座「同級生だったんですか?」
猫「私はね、なんとなく、そうかなと思って誘い出したんだけどね。」
犬「まるでわからなかった。島へ渡るときは過去を言うまいと頑なだったけど、向こうに行ったらどうでもよくなってね。彼女の誘導が上手かったのかな。」

郷里でのこと、悔やんでも悔やみきれない人生最大の失敗のこと、そして、名前も戸籍もなくして「結婚」とか「年金」なんていう当たり前の生活を捨てたこと。

猫「私だって、笑顔ではいたけど内心では自暴自棄だった。主人の優しさが窮屈だなんて思う自分が嫌だった。あの時、彼のことが、あっという間にね、気になってどうしようもなくなった。」

彼が30年前の出来事を、昨日のことかのように噛み締めながら教えてくれたそうだ。
犬「実はね、お互いにね、これまで話すことができなかった色々なことを語り合っていたらさ、気がついたら潮が満ちてしまってさ。」

彼女も笑い出す。
猫「潮が引くまでの5時間、島に取り残されて帰れなかった!」
ホテルでは従業員の失踪と、観光客1名の神隠し。
携帯電話なんてなかった時代だから、警察沙汰の大騒ぎ。

潮が引き始めて細い道が見つかると、2人は手をつないでくるぶしを濡らしながら、韋駄天の如くホテルへ戻ってきた。
足元がおぼつかないから、指と指を絡め合って帰ってきた。
犬「それからさ。この道を手をつないで渡ると、幸せになれるなんて言われ始めたのは。」
ひよこ「え〜あせあせ(飛び散る汗)」
犬「韋駄天の散歩道じゃ流行らないからって、天使の散歩道ってね。」

10年前に『恋人の聖地』プロジェクトが日本全国でスタートして、この地はいの一番で選出された。
日本語じゃあれだから、と英語になってエンジェル・ロード。

犬「今では70歳を過ぎた老いぼれの2人さ。」
蟹座「ご結婚は?」
犬「だから言ったろ。自分は40年も前に、まともな人間じゃなくなった。後ろめたさと申し訳なさで、幸せから遠ざかってきた。」
猫「私にはね、私が一番弱かった頃に支えてくれた主人がいるの。もう喜寿を迎えて、私よりもドクターや看護師さんが大切になってるけどね。」

2人は、あの時、取り残された中余島で誓ったそうだ。
『毎年ではダメになる。せめて4年に一度、あの弁天島の丘で、10歳の頃の思い出と、4年間の思い出を語り合おう。それだけでいいから。』

彼の働いていた旅館のロビーでは、涙にくれて表彰台に立つ山下泰裕の姿がテレビに映し出されていたそうだ。
離れて同じテレビを眺めていた彼女は、山下選手の右に立つエジプト人に対して「ありがとう」なんて、声に出せない感謝の言葉を贈っていた。

犬「ちょうど、ロス五輪だったんだ。だから、4年ごとに、夏のオリンピックが開催される年にここで再会しようってぴかぴか(新しい)」

2016年3月。
島まで行くほどの体力はないからと、恋人の聖地でコンビニ弁当を頬張る2人。
蟹座「次は東京オリンピックですね指でOK」
犬「そうだね。次回はちょっと長いかな。」
猫「この人のお腹に悪いできものができちゃってね。」
犬「へっ、病気になれば毎年逢ってもらえるかな、なんてさ。」

唐揚げをつまみながら、照れ笑いするおじいちゃん。
まるで、頭の上に輪っかを浮かべた天使のように見えてきた。
エンジェルロードの迷信は、どうやら本物のようだ。
(終/fiction)



■地球の海フォトコン受賞作決定 最優秀に「王様の晩餐」
(朝日新聞デジタル - 04月01日 13:26)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=3926302
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