mixiユーザー(id:2938771)

2019年06月30日13:54

71 view

エロ本を作っていた、その7

 昭和が終わろうとしていた頃。筆者は都内の高級ホテルのスイートルームで夜景を眺めていた。そして、使用済みのゴムやティッシュを拾っていた。ラブホテルとは別のタイプの広さのあるバスルームにこもった排泄物の臭いと格闘していた。昭和が終わろうとしていた頃、筆者は、やっぱりエロ本を作っていた。
 マニア雑誌を作ると、その読者を集めてマニアパーティを主催する。スワップ、乱交系の雑誌はいい、ただ、セックスするだけだからだ。しかし、SМは違っていた。排泄物にまみれることになるのだ。М女を緊縛するタイプのパーティは稼ぎとしての効率が悪かった。効率よく稼げたのは女王様とМ男たちのパーティだった。女王様一人に対してМ男五人、十人ぐらいまで集めることが出来たからだ。しかも、たいていのパーティ参加費は、三万円を超えていた。女王様三人で最低でも四十五万円になる。女王様のギャランティは実は安い。女王様は営業も兼ねているので安く来てくれたのだ。その上、雑誌の読者であるところの素人女性も集まってくれる。こちらは当然だがノーギャラだ。
 一晩で十万円ぐらい残ることになるのだ。雑誌のギャラはもらえない可能性がある。この十万円がそのまま生活費となる。それでも、なんとかやっていけた。
 しかも、パーティの模様が記事になる。ページ製作費が浮くことになるのだ。そして、さらに、その記事が次のパーティの広告にもなる。効率よく稼ぐことが出来たのである。
 パーティは深夜に終わる。終電までには帰ってもらうようにしていた。そうなると、深夜十二時ぐらいから、翌朝の十時ぐらいまでは高級ホテルのスイートを独占出来ることになるのだ。しかし、いいものではない。
 ベッドメイクのやり直しなど頼めるはずもないからシーツはぐちゃぐちゃ。しかも、男たちの汗と場合によっては女王様たちの香水と淫水で汚れている。当たり前だがマニアのパーティの許可などない。むしろ、絶対にバレてはいけないのだ。慎重に臭いを消す。М男たちは、女王様がいる間は献身的だが、そうでなければ鈍重である。むしろ、こちらに協力的なのはS男たちだったりするから不思議なものだった。女にしか目がいかないのはМ男で、女よりも仲間を主催者を大事にしようとするのがS男だったのだ。多くの人はここを誤解している。S男は威張って俺様気分だと思っているのだ。しかし、違うのだ。S男を集めたパーティでは、絶対に赤字がないのだ。赤字にならないように参加したS男たちが援助してくれるからだ。何故なら、彼らは、そうすることで、次のパーティに繋げようとするからなのだ。つまり、先が見えているからなのだ。しかし、М男たちは、その夜を楽しみたい、出来れば女王様に個人的に気に入られたい、と、目先しか見えていないのだ。それでも、こちらはその場の利益を考えて女王様主体のパーティを企画することになる。そこまで貧しかったからなのだ。こちらも目先の利益を優先し、S男よりもМ男を主に考えるしかなかったというわけなのだ。マイナーのエロ本はそれがゆえに悪循環となって行ったのだ。
 高級ホテルのスイートルームで、豪華な夜景を眺めながら、自らの惨めさに涙して部屋の掃除をする。それが昭和のエロ本だったのだ。それでも、たまに、同志が集い、一人、二人の同志が、次の企画について話をはじめたりすると、また、本を作りたいと思ったものなのだ。
 牛丼も食えないほどの貧乏人が高級ホテルのスイートのベッドに眠る。そんなアンバランスこそが昭和のエロ本だったのである。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2019年06月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30