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2024年05月21日15:19

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日陰の達人、闇夜の天才、その22

性を遊ぶ女、その2

「緊縛とか出来るんですか」
「仕事ですから」
「見せてもらえますか」
「かまいませんよ」
「漫画家さんで体験したいという人がいたら、体験させてもらえますか」
「ボクが相手でいいなら大丈夫ですよ。もっと素敵な男性に縛られたいとか、女王様に縛られたいとなると、多少のギャランティが発生すると思いますが、それも可能ですよ。いくらでも紹介出来ます」
 彼女は、自分が編集長であるところのコミック雑誌を見せてくれた。それは、劇画タッチのエロではなく、いかにも少年漫画というタッチだが、しかし、内容は劇画タッチのエロ漫画よりも少しばかり過激なエロ漫画のように筆者には思えた。彼女は、そこにSMやアブノーマル、性犯罪や猟奇を入れたいのだと言っていた。
 筆者は、トイレ覗き男、露出痴漢男、公園での露出カップルなどの話を彼女に聞かせた。もちろん、SMの話もした。彼女は原作を書いて欲しいと言ったが、貧乏なくせに忙しかった筆者には、その余裕はなかった。エロ本屋とはそんな仕事だったのだ。暇なくせに裕福なこともあれば、忙しいくせに貧乏ということもある不思議な仕事だったのだ。
 そこで、筆者は、話を聞かせるだけなら、ギャランティはいらない、逆に、ギャラティがあっても原作を書く余裕はない、と、彼女に伝えた。実際に、それほど忙しかったし、そもそも、メジャーの漫画ではないのだ。エロ漫画に原作まで付ける必要が筆者には分からなかった。それでも、結果として、筆者は何本かの原作を書くことになる。より儲かるエロの仕事をせずに、彼女の漫画の原作を書くことになったのは、彼女のたった一言に共感したからだった。
「あのね。私の仕事は編集者じゃないの。私の仕事は、この指とまれ、なの」
 漫画原作や、エロ漫画のためのSM体験や講習会をやりたいという彼女に、そこまでする必要があるのか疑問だった筆者が「それって、もう、編集者の仕事じゃないですよね」と、言ったことに答えて彼女が言った言葉だった。
「この指とまれ、やりましたよねえ」
 それはやった。
「鬼こっごするもの、この指とまれ」「縄跳びするもの、この指とまれ」「ままごとする人、この指とまれ」
 自分の作っているものは雑誌ではなく「この指とまれ」だ、と、彼女が言うのが筆者には面白かったのだ。
「とりあえず、今、縛って欲しいのは男の人なんだけど大丈夫」
「問題ありません」
「それから、女の漫画家さんで、ソフトなSをしたいと言う人がいるんだけど、その相手も大丈夫。ソフトと言っても、浣腸はしたいし、オシッコをかけたいって言うんだけど」
「ボクが相手でいいなら、問題ありません。ただ、相手はボクですよ」
「あなたでいいんじゃない。逆に、言っておくけど、その人、若くないわよ」
「問題ありません」
 店に筆者たち以外のお客がいなくなり、店のママが彼女に「あなたも体験すればいいじゃない。Mも、Sも、体験したらいいじゃない」と、言ったところで、SMクラブのママが店に戻って来た。
「ママ、紙袋は」
 自分のセカンドバックしか持っていないママに、さすがに、筆者は少し慌てて尋ねた。
「アーちゃんの店に忘れて来ちゃった。だいたい、アーちゃん、ちっとも来ないって怒ってたよ。取に行くついでに顔出してあげたら」
 全裸なのだ。その店は数軒先だが、全裸なのだ。たとえ数軒とは言え、一度は店の外に出るのだ。全裸のままで。そんなことが出来たのだ。別にそれが許されていたわけではないのだろうが、そんなことが出来てしまったのだ。
 仕方なく、筆者は、編集者の名刺と自分の携帯電話だけを持って店を出た。後ろから、SMクラブのママが追いかけるように出て来てくれた。どうやら、支払いはママの分まで含めて編集者の女が持ってくれたらしいので、清算する必要がなくなったらしいのだ。
 しかし、その分、筆者は次の店に入るときに、ママに両手を持たれ、その部分を隠すことも出来ないことになるのだった。店の中には男しかいない。その店のアーちゃんというのも男なのだ。なんともバカバカしい世の中だったのだ。
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