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2024年05月22日16:36

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日陰の達人、闇夜の天才その23

性を遊ぶ女、その3

 筆者は人の輪に入ることが苦手だ。輪に入ることでさえ苦手なのに、輪を作るなど、まったく無理な話なのだ。ところが、彼女は、輪を作る天才だった。
 最初は、緊縛体験をしたいという若い男性の漫画家を連れて来た。緊縛体験をしたいならSMクラブに行けばいいように思うが、そうもいかないのだ。そこではプレイは出来ても漫画の材料は出来ないからだった。彼は、ここぞとばかりに、いろいろな要望を出して来た。まずはラブラブな彼女との、ちょっと危ないセックスのための緊縛。次は、誘拐されて本格的に尋問されるときの緊縛。たくさんの人の前に羞恥を晒すことになる緊縛。
 それを行ったのは、貧乏なくせに、そこそこに広い部屋を借りていた筆者のマンション。編集長である彼女は、知り合いの漫画家が全裸で縛られるのを見ることに抵抗があるのではないかと思ったが、全く、それはなかった。だからといって、それを楽しんでいる様子もなかった。むしろ、漫画家も彼女も、真剣に緊縛と変態を研究しているようだった。その真剣さは、当時のマニア雑誌編集者たちが忘れていたものだったように筆者には思えた。それが嬉しくて、筆者も、翌日に筋肉痛を残すほどに真剣に縛った。
 次に連れて来たのは、四十歳を過ぎているだろう女流漫画家だった。経験したいのは、鞭、顔面騎乗、聖水、そして、浣腸をする方だった。緊縛も出来るようになりたい、教えてほしいと言っていたのだが、女編集長を縛るというわけにもいかなかったので、その日は、教えられなかった。
 それがきっかけで、その女編集長は、緊縛体験サークルを作った。参加しているのは漫画家だけでなく、編集者、カメラマン、デザイナー、と、さまざまな上に、ただの主婦まで混ざっていた。開催場所も筆者のマンションでは手狭となり、都内のホテルを借りるようになっていった。
 女王様体験会には、どこで募集したのか、お金を払ったM男たちが参加していた。参加費用は一人三万円だった。参加人数は十数人。けっこうな利益になっている。何しろ、それを体験したいところの素人女王様にはギャラティがないのだから、儲かったことだろう。
 SMを離れ、スワッピングパーティを主催する頃には、すでに筆者は呼ばれなくなっていた。どこで知り合ったのか、ビデオ男優などを呼べるようになっていたからだ。
 しばらく、筆者が彼女の会に呼ばれることがないまま、久しぶりに呼ばれた時には、開催場所がライブハウスになっていた。新宿の地下にある、そこそこに大きなライブハウス。そこでロックの音響の中、希望する男や女たちを全裸で緊縛した。暗くて分からないが五十人以上が参加していたように思う。もしかしたら百人近くいたかもしれない。
 SM、フェティッシュ、スワッピング、乱交、露出、覗き、あらゆる性を彼女はイベントにしていった。やがてそれらのいくつかは店舗となり、いくつかはビデオになった。
 商才というのもあるのだろうが、何よりも彼女は人を集める天才なのだ、と、筆者はそう思った。
 コミックの世界は、たとえ、それがエロであっても、近いようで遠い世界だったので、詳しいことは分からないが、彼女の作るコミック雑誌も売れているとは聞いていたのだが、彼女は、出版業務から手を引いてしまう。儲けというところから見るなら、それは当たり前だった。その頃には、彼女が主催する一回のイベントで、彼女がもらっていたであろう月給分ぐらいにはなっていたのだろうから。その他に、ビデオの監督をして、性風俗店も経営していたのだから、出版など、やっている場合ではなかったのだろう。
 その頃には、筆者との付き合いは、ほとんどなくなっていた。ゴールデン街では飲んでいたのかもしれないが、筆者がそこに行かなくなっていたのだ。出版と離れ、性風俗店といってもSMではなかったので、そこでも筆者には関わりがなくなっていた。
 ゆえに、その電話をもらったのは、彼女と電話もしなくなってから数年が過ぎた頃だった。
「私、全部、辞めたから、お店も売ったし、もう、エロは終わり、ねえ、明日の夜、新宿に来れない、泊まりで、ホテルとってあるから、スイートじゃないけどね」
「ゴールデン街ですか」
「ああ、私、お酒止めたから。ホテルで食事して、日本の最後の夜を一緒に過ごすの。いいでしょ。一人は嫌なんだけど、男を呼ぶと面倒だし、女というのもね、ちょっと、違う気がして」
 男というほど面倒ではなく、女というほど寂しくもない、何だか、貶められ、バカにされているような気がしたが、それでもハイハイと返事してしまう。モテない貧乏なエロ本編集者とは、その程度のものなのだ。そして、だからこそ、あの日、彼女は筆者を呼んだのかもしれない。作家でも読者でもない、毒にも薬にもならない、それが編集者だと彼女は知っていたのだから。
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