（訳者序）
この部分は，ベルサイユ条約に対するドイツ側の見解と，アメリカ側の見解の相違に注目すべきと判断する。外交関係においては，日本人にとっていかに理不尽と思えても，アメリカ人にはどう見えているかを考慮すべきである。
第１章 作戦コード：ホワイト
1.1 ヒトラの責任
私は，ドイツ兵士の名誉を守らんがために，この文献を著わす。第二次世界大戦における我らの指導者であるアドルフ・ヒトラの台頭の跡をたどることは，ここでは，必要ではない。
20世紀よりも，よりよく知られている歴史は存在しない（注：著わされたのは20世紀）。1919年に勝ち誇った連合国は，気違いじみたベルサイユ条約をつくり，それゆえ，彼らは，ヒトラをも生み出した。1918年にドイツは，米国大統領ウィルソンの十四か条の平和原則を信頼し，鉾をおさめた。連合国は，この十四か条を紙屑のように扱い，ドイツを分断する条約（ベルサイユ条約をさす）とし，経済的かつ政治的な無法地帯と化した。かくて，未熟な米大統領を出し抜き，地図を台無し（注：領土割譲はしないことを指す）にする過程において，英仏の政治家たちは，おそらくドイツ永遠に麻痺させることをもくろんだのであろう。皮肉なことに，この政策は，ブーメランとして跳ね返ってきた。ウィンストンチャーチルは，ベルサイユ体制を”悲しむべき倒錯した愚かさ(sad and complicted idiocy)”と呼んだ（くらいである）。ベルサイユ体制への反発は，元強なドイツ国民の間に活火山のごとき憎悪が積み重なり，ついに爆発し，アドルフ・ヒトラは，その噴火の頂点の力に乗っかっていた。
ナチ党は，過激派と保守派および富める者と落ちぶれた者との奇妙な同盟であるが，これは，ドイツの再興，および，不幸にも中欧の政治的スローガンである不満反ユダヤ主義によってのみ，一つに統合されている。俗悪なろくでなしの扇動者，哲学的なイデオロギ主義者，狂信者，日和見主義者，いじめっ子，冒険野郎，これらの一部の者は，非常に有能でエネルギッシュであったが，ヒトラとともに権力の座になだれ込んできた。我ら参謀本部の大部分の者は，これらの握った政治的な事件を，苦々しい思いと不吉な予感を感じながら見つめていた。我々の忠誠は，統治者により統制を受けていると言えども，国家に対するものである。しかし，我らは，弱められた社会的な変革の波を恐れていた。
ヒトラは，我々を驚愕させたということが公平であろう。速やかに，流血を見ることなく，この鮮やかでかきたてられるよう政治屋は，次々とベルサイユ条約で理不尽な押し付けを解消していった。彼の方法は，直接的で力強かった。ワイマール体制は，別の方法を試みたが，英仏の嘲笑を受けたのみであった。ヒトラの方法は，有効であった。ドイツ内部でも，彼は，必要とあらば，厳格かつ過酷であった。ここでも，その方法は有効であった。歴史家は，今や彼の体制を恐怖政治の体制と呼んでいるとしても，それは，人気のある恐怖政治の体制であったことを，しぶしぶ認めざるを得ない。ヒトラは，繁栄をもたらし，我らに再び武力をもたらした。彼は，使命感のある人間であった。彼の内面および使命感での燃えたぎる信念は，ドイツの大衆をゆり動かした。彼は，多くの権力を簒奪したが，大衆は，彼の意のままにその権力を行使することを認めたのであった。
[英訳者によるコメント]-----アメリカ人の平均的な見解
歴史的な事象に対する見解は，専門的でよくまとめられていると言えども，額面どおりに受け散ることができない。彼は，徹頭徹尾ドイツ人である。概して，私は，極力フォンルーン将軍による戦争記述をそのまま維持するようにつとめた。しかしながら，私はいくつかの記述に対して異議を申し立てることなく翻訳することができなかった。それゆえ，コメントを付した。
たとえば，ルーンは，冒頭から，ベルサイユ条約を気違いじみた連合国によって名誉あり信頼にたるドイツ国民に強要された理不尽な押し付けとして非難することから初めている。これは，まさにアドルフ・ヒトラの全演説と同じである。彼は，歴史的な問題点に言及していない。ドイツ人は，殆どしていない。1917年，レーニンがケレンスキー政権を転覆し，東部戦線で単独講和を交渉した。ブレスト・リトブスク条約は，ベルサイユ条約の１年ほど前にドイツによって指図されたのであるが，英仏を合わせ以上の領地，，600万の人口，殆どの重工業を奪ったた。これは，ベルサイユ条約よりもはるかに酷い。
私は，ベルリンで任務についている祭に，この殆ど知られていない事実を話題にしたものだった。ドイツの友人たちは，この比較に不可避的に困惑した。彼らは，結局，その比較はナンセンスであると考えた。ベルサイユ条約は，自分の身に振りかかったことであり，ブレスト・リトブスク条約は他人事であった。この反応において，彼らは，誠実であった。私は，ドイツ人の国民的な奇妙な性癖を説明できない。しかし，世界帝国の消失を読むにあたっては，これを失念すべきではない。
[訳者によるコメント]-----個人的見解
ベルサイユ条約を押し付けられたことに対して，ブレスト・リトブスク条約をソ連に押し付けたので，不平を言う資格がないと試聴するのは，日本人の私から見ても無理がある。その理由は以下のとおり。
�．疋ぅ弔漏箴�した土地は，ドイツ軍が軍事的に占領した領域であり，広大なソ連の領地からみたらほんの一部の領域でしかない。しかも，これらの土地は，歴史的に視て，ドイツの勢力圏になったり，ロシアの勢力圏になった地域で，大部分は，ポーランドの ように当時，ロシアから被征された民族の土地である。
�▲屮譽好函Ε螢肇屮好�条約は，ベルサイユ条約とは異なり，19世紀的な国境線線の変更と賠償の延長線にある条約であり，ロシア を永久的に再起不能となることを意図した条約ではない。
�Ｏ�合国は，ドイツから条約の成果を取り上げ，この条約を無効化したと言いつつも，ソ連に土地と人民を返還したのではなく，民族自決の大義名分として，自分たちが都合がいいように牛耳った。つまり，連合国は，ドイツの敗戦後，ブレスト・リトブスク条約をソ連に押し付けている。
似たようなナンセンスな押し付けが日本に対しても行われている。米国は，広島長崎の原爆投下により，民間人を多数殺戮している。これ以外にも，東京大空襲のように，軍事施設ではなく，民間人を意図的に殺戮するような都市無差別爆撃を行っている。これに対して米国人がも打ち出すのが真珠湾奇襲である。真珠湾奇襲は，あくまでも軍事施設を攻撃したものであり，（ドバッチリをうけた民間人はいるかもしれないが）民間人の意図的な殺戮を意図した攻撃ではない。この観点から，原爆投下と真珠湾奇襲を比較するのはナンセンスと言わざるをえない。このようなナンセンスとしか思えない比較を，米国人たちは，他国民に押し付つける傾向がある。
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