さて、５回にわたって、以下のように何種類かの自殺（自死）あるいは死について見てきた。
Ａ．若者の決意に基づく死（アヌイの描くアンチゴーヌ）
Ｂ．自己愛的な少女の自殺（渡辺淳一の描く時任純子）
Ｃ．正当な自殺の主張（三原順の描くボブの自殺観）
Ｄ．行方不明となった老いた経済学者（岡崎次郎）
こんなことを試みてみたのは、現時点での僕自身の生死観あるいは自死観についてまとめてみようと思ったからだ。もとより、議論としては中途半端なものに過ぎない。しかし、逆に言えば、このような議論に中途半端ではない「充分なもの」などというのがあり得るだろうか。
「学は長く、人生は短い」という言葉もあるが、「生とは」「死とは」という問題について、一応の納得がいく結論にたどり着くことが出来るだけ、充分に人生が長い（長生きが出来る）などという保証はない。人生において大切（重大）なことは、えてして暫定的なままであるものだ。
あまり豊富とはいえない僕の人生経験の中でも、「生」と「死」について深刻に考える機会は何度かあった。僕が個人的に存じ上げている方で、自殺された方もいる。（ただし、この日記の中では触れない。）手首に切り傷のある女性とお話をしたこともある。父親が自死された方のお話を伺ったこともある。自殺ではないが、十歳代、二十歳代、三十歳代のそれぞれの葬儀に参列したこともある。
そうした断片的な経験に基づきながら、ありうべき人生の終幕として、自殺（自死）というものを肯定できるかどうかについて、現時点での僕の暫定的な考え方を簡単に記してみたい。
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一般論として、自殺そのものは否定されるべきものではないと考える。
自殺を行うことは、個人に許されるべき権利であると考える。
ただ、その権利は濫用されてはならない。
そのため、「自殺する権利」を行使するにあたっては、従うべき「準則」があると僕は考える。その準則は、次のふたつだ。
【準則-�機杰討茲蠅眄茲忙爐鵑任呂覆蕕覆ぁ�
【準則-�供曖僑虻舒焚爾任亮�殺は、犯罪である。
この準則に従う限り、つまり、両親が既に亡くなられた６０歳を超えた人間が自殺することについては、本人に許された行為として是認し、与えられた権利として行使されて差し支えないと僕は考える。
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それぞれの準則について、簡単に説明しておこう。
前にも記したことがあるが、人間にとっての最大の悲劇のひとつは、子どもを失うことであると想う。
＜耐え難きを耐える（幼い子供を喪うこと）＞
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=448212001&owner_id=2312860
であるならば、少なくとも自発的な意志で親よりも先に死ぬことは、許されないこととして禁じられてもよいと考える。これが【準則-�機曚澄�
そして、余りにも若い死は、誰にとっても痛ましいものだ。ある年齢以下の自殺は、一種の「罪」であると言ってもよいのではないかと想う。その「ある年齢」を僕は「６０歳」とした。なぜ「６０歳」なのか。あまり深い意味はない。ただ、いくつかの「こじつけ」はある。
ひとつは、「還暦」という言葉だ。暦を一巡したということは、「ある程度は生きた」と見做してもよいのではないだろうか。還暦を過ぎたら、本人が望むのであれば、「生きる」という義務から解放してもよいように想われる。更に言えば、古い基準ではあるが、「人生五十年」という言葉もある。「６０年」という長さは、日本人の伝統的な（古い）人生観からすれば、「充分に生きた」とも言えるはずだ。
もし、６０歳以下で自殺する人がいたとしたならば、彼（彼女）は、それを「罪」として自覚し、確信犯として死ぬべきであると思う。
「そもそも、自死（自殺）などというものは許されない」という意見については、ここでは取り合わないことにする。僕は、昨日紹介した岡崎次郎のような生き方（逝き方、あるいは消え方）を否定できるような論理も倫理も道徳も哲学も持たない。賞賛するわけではないにせよ、許されるべき自死というものもあり得るのではないかというのが、僕の暫定的な見解だ。
しかし、時任純子の例のような、若くて傲慢な自死までを無条件に許容しようという気にもなれない。上に記した【準則】は、そのような矛盾した考えに折り合いをつけるための一種の「方便」にしか過ぎない。より高いレベルでの道徳律や倫理観、「自殺の哲学」とでも呼ばれるものが考え出されるのであれば、その方が望ましいと考えている。
「６０歳なんてのは、まだ若造だ」とか「４５歳くらいで充分ではないか」とか「子どもが成人するまで」とか、人生観としては色々なバリエーションがあるかも知れない。「６０歳」というのは、あくまでも僕の感覚に基づくものでしかない。
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キリスト教的伝統が強い欧米に比べると、非キリスト教徒である日本人は、自殺について相対的に寛容であると思う。「切腹（ハラキリ）」、「特別攻撃隊（カミカゼ）」という様式化された自殺の伝統もある。日本文化の伝統的な価値観の中では、僕が定めた準則よりも、より緩やかな基準で「自殺」を許容してきたのではないかと思われる。この点については、未読であるが、モーリス・パンゲの『自死の日本史』（ちくま学芸文庫）などが参考となるかも知れない。
あるいは、デュルケームの『自殺論』を再読しながら、毎年３万人を超えるといわれている我が国で実際に行われている自殺について、統計的な観点から分析してみることも必要かも知れない。
しかし、それらのことは先々の課題としておこう。この一週間、僕は「死」について考えることによって、大いなる慰安を得た。あと一回だけ、一人の自死実行者のことを書いたら、来週は、「死」以外のことを考えてみたいと思っている（笑）。
（とりあえず、あと一回だけ続く）
余談：自死（自殺）の可否に関する判断が、人間の理性のどのような能力によるべきかも、いずれ考えてみたい問題だ。カントの哲学を引き合いに出すと、それは、
(1)道徳律に基づく「実践理性」の課題
(2)趣味的ないし審美的という意味で「判断力」の課題
のいずれであろうか。自殺を否定するカントは、(1)の問題として考えているだろう。しかし、果たしてそうだろうか。その結論は、カントの特殊な「人間学」に基づくものであり、一般性を持たないのではないか。そんな問題意識を持ちながら、いずれカントの『判断力批判』を読んでみたい。
＜自殺と哲学（英文ＨＰ）＞
http://comp.uark.edu/~mpianal/suicide.htm
Matthew Pianalto氏によるサイト。自殺を予防するためではなく、自殺について哲学的に研究するための材料を提供してくれています。
＜アメリカ自殺学協会（The American Association of Suicidology）＞
http://www.suicidology.org/
自殺を理解し、予防することを目指している学会（専門家）のＨＰです。
＜生と死に関する日記の目次＞
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=515589683&owner_id=2312860
＜自死論＞
（１）
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=716538318&owner_id=2312860
（２）
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=719505955&owner_id=2312860
（３）
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=720539038&owner_id=2312860
（４）
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=721561764&owner_id=2312860
（５）
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=722551780&owner_id=2312860
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