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2026年11月02日14:28

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「椿なきシニョーラ」ミケランジェロ・アントニオーニ〜空っぽな新進女優の惑い〜

ミケランジェロ・アントニオーニの初期作品。『愛と殺意』(1950)で見出した女優ルチア・ボゼーを使って、再びアントニオーニ自身がオリジナル脚本で、映画業界を舞台にした新進女優の愛と苦悩の物語を作った。

ルチア・ボゼーは確かに美しいが、後のアントニオーニのミューズとなったモニカ・ヴィッティに比べるとそれほど魅力は感じられなかった。この映画でも顔が美しいだけでもてはやされる新人女優の苦悩を描いていて、彼女自身が最初から空っぽなのだ。ミラノの店員だったところを映画監督ジャンニ(アンドレア・チェッキ)にスカウトされて映画デビューしたクララ(ルチア・ボゼー)。テスト撮影された試写の評判も上々で、撮影進行中の『運命なき女』の脚本は急遽修正されることになる。相手役のロディ(アラン・キュニー)の出番は削られ、夫婦から恋人役になったクララには、キスシーンが加えられる。彼女をスターにしようとプロデューサー(ジーノ・チェルヴィ)も躍起だ。クララはベッドでロディと濃密なキスシーンを演じて見せる。ジャンニにセット裏でキスをされ、彼から求婚を迫られるクララ。結婚する気がなかったが、ジャンニは両親を呼んで強引に彼女に結婚を承諾させる。そして撮影中なのに二人で新婚旅行に出かけ、撮影は混乱。宣伝材料に使っている濃厚なキスシーンに嫉妬し、ジャンヌはクララを途中降板させてしまうのだ。

ジャンニとの豪邸での結婚生活が始まったクララだったが、仕事を奪われて時間を持て余す。新しい脚本を夫に見せても、夫のジャンニは「娼婦の話」だということでクララを出演させない。「椿姫」ならどうだ?というプロデューサーの提案に、「また、娼婦か」と拒否し、自ら「ジャンヌ・ダルク」の映画を彼女の主演で作ると言いだす。プロデューサーは恋愛のない宗教と政治だけの映画には出資しないと言って、ジャンニは自ら資金を出して映画を製作する。しかし、「ジャンヌ・ダルク」はベネチアの映画祭でも大失敗。興行的にもコケて、ジャンニは借金に悩まされることになる。

上映途中で自分の映画を見ていられなくて劇場から出てきたクララ。その劇場出口のコンクリートの人工的で無機質な空間で、クララはかつて撮影中に会った外交官の領事ナルド(イヴァン・デスニー)と再会する。そして二人は船に乗り、クララは泣き出す。海上には霧が立ち込めている。アントニオーニ得意の無機的で閉ざされた空間の心象風景だ。今度は女好きのナルドにクララは口説かれる。列車の中で夫のジャンニに、「あなたを愛してなかった」と本音を初めて語り、「スカウトした時も、結婚も映画製作も強引だった」と言うと、ジャンニはクララの頬を叩く。長いワンカットが多い作品だが、この列車の二人の喧嘩のシーンも長回しのワンカットだ。

郊外のだだっ広い空間に領事ナルドはクララを車で誘い出す。アントニオーニらしい空が茫漠と広がっているロケ地だ。その場所でのデートを拒否したクララだったが、帰ってきた領事を階段の途中で待っている。二人がキスする印象的な階段のシーンだ。そんな風に二人が情事をした日に、夫ジャンニが部屋で睡眠薬を飲んで自殺未遂する。照明を落とした暗く広い屋敷と2階の階段から見下ろす部屋などのセットの使い方が面白い。そしてナルドとクララが映画セットの裏手の空間で愛を確かめ合おうとする。このシーンも移動しながらの長回しワンカットだ。のらりくらりとした二人の愛の言葉とキスの向こうでは、セットで映画が撮影されている。二重となった愛の虚構の空間演出。

途中降板した映画を最後まで完成させて公開された映画がヒットして、ジャンニの借金返済の目途が立つ。経済的な責任をジャンニに感じなくて済むようになったクララは、ナルドと新たな人生を踏み出そうと決意する。しかし、ナルドの方はただの女遊びの一つに過ぎなかった。クララはショックを受け、ナルドに別れを告げて、キスの競演相手だったロディと会うが、彼からは「君は美しいから容姿だけを求められる」。演技を勉強することを諭される。しかし、演技の勉強をしても出たいような映画の話は来ない。そして監督として成功したジャンニの大きな作品に出たいと申し出るが、「アメリカの女優に出演交渉中なんだ」と言われ、断られてしまう。そして「若さは永遠に続くものではない」と忠告までされる。この場面も広い空があり、遠くに工場が見えるような何もない殺伐とした空間だ。エキストラが大勢集まるロケ地で、噂話をされ、空虚さを抱えるクララは、一度断った露出の多い衣装を着てハーレムの女を演じる映画に出ると決める。断った領事ナルドの誘いに、「また会いたい」などと電話して、映画出演が決まって記者たちに写真を撮られながら、笑顔を繕うが涙が出てくるクララだった。

映画にスカウトされ、チヤホヤされて映画女優になったクララは、自分の意思を示せないまま、流れに任せるように結婚し、映画を降板し、また別の男に口説かれ、新たな恋や人生を踏み出そうとするも、恋も仕事もどちらもうまくいかない虚ろな存在だ。アントニオーニはそんな女優の空っぽな姿を、アップの表情などを使って劇的に心理描写しない。男とくっついたり離れたりする曖昧な関係を長回しのショットで、見つめるように状況的に描いていく。後のアントニオーニ映画は、登場人物たちをもっと空漠とした空間の中に突き放していく。そんな冷めた眼差しが、常にアントニオーニの映画にはある。


製作:イタリア・フランス/1953年/101分
原題:La signora senza camelie

監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
脚本:ミケランジェロ・アントニオーニ、スーゾ・チェッキ・ダミーコ、フランチェスコ・マセッリ、ピエル・マリア・パシネッティ
撮影:エンツォ・セラフィン
編集:エラルド・ダ・ローマ
音楽:ジョヴァンニ・フスコ
キャスト:ルチア・ボゼー、ジーノ・チェルヴィ、アンドレア・チェッキ、イヴァン・デスニー、アラン・キュニー
☆☆☆3
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