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2026年10月30日21:35

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「mentor」𠮷田恵輔〜「物語」の呪縛に囚われる人間の気持ち悪さ〜

吉田恵輔監督は、ダメ人間で不器用で、痛々しいほどに傷ついた人間の弱さを描くのが得意だ。忘れられない強烈な印象だったのは『愛しのアイリーン』(2018)だ。『純喫茶磯辺』(2008)から見始めて、『さんかく』(2010)、初期の『メリちん』(2006)、『ばしゃ馬さんとビッグマウス』(2013)、『BLUEブルー』(2021)、『空白』(2021)、『神は見返りを求める』(2022)などなど、彼の映画には、ダメダメで傷つく孤独な人間ばかりが出てくる。そして最新作である本作もまた同じだ。少年時代の罪のトラウマを抱えた二人の男と、被害者家族で憎しみと喪失を乗り越えようとしている奇妙な男の3人の傷や弱さを抱えた人間たちの物語だ。

傷や弱さを抱えた人間には「物語」が必要となる。生きていくための「物語」。自らの罪を抱えて引きこもってきた拓海(末澤誠也)には、「謝罪することで、罪を許してもらうという物語」が必要だったし、アーチェリーのオリンピック日本代表を目指している龍之介(磯村勇斗)は、すべてを考えないようにして「封印するという物語」で何とか自分を保とうとしていた。そして被害者家族で妻を火事で失い自らも全身火傷を負った埜本(綾野剛)もまた、妻の記憶を封印し、「加害者少年を許し、過去ではなく未来を向いて人生を前向きに生きるという物語」で、「いい人」を演じようとした。しかし、その物語が突然、瓦解したとき、人間はどうしていいか分からなくなる。拓海は「謝罪する」という役割が必要なくなり、龍之介は封印が解かれて呪縛から自由になった時、心の安定を失う。そして、「許す」という物語が意味をなさなくなった埜本は、無理して「いい人」を演じてきた自分が崩壊し、妻の喪失感の哀しみが押し寄せ、真犯人への憎しみの暴力が噴き出してくる。吉田恵輔は、なんと皮肉で残酷な運命を男たちに課すのだろう。

綾野剛の妻役を演じた木南晴夏が、とてもチャーミングで魅力的に撮られている。前提であった物語が瓦解し、梯子を外されてからの展開に、本当の人間そのものが現れてくる。前半の過剰に謝罪する拓海は自己陶酔的で気持ち悪いし、拓海のメンターとして前向きな言葉ばかりを語る埜本はもっと気持ち悪い。綾野剛が淡々と演じていて不気味だ。突然歌い出すカラオケのシーンが上手い。森の中の3人のアーチェリーのシーンは、何かが起こりそうでサスペンスに満ちている。拓海が埜本に向けて弓を引くかのようなショットは、ドキッとさせられる。さらにハンマーを持って埜本が老人施設に向かう場面も、恐ろしき惨劇を予感させる。しかし、映画は暴力を押しとどめ、奇妙な終わり方をする。前向きなハッピーエンドではなく、またしても「物語」の呪縛にはまっていく拓海の気持ち悪い姿が描かれて終わる。

傷を受け止めて前向きに克服して生きる「正しき物語」も、正義や倫理や法やイデオロギーや宗教は、みんなみんな作られた「物語」である。弱き人間は、その「物語」に支えられて良くも悪くも生きていくしかない。生きていく指針となるような「物語」がないと人は混乱する。本音をどこかで押し殺して、あるいは感情を封印して、人は理性的であろうとする。しかし、その「正しき物語」に依存しすぎると、人間は恐ろしい存在にもなる。迷いがないことは、考えないことでもある。迷いつつ、彷徨いつつ、右往左往しつつ、ジタバタしながら、生きていくしかないのだ。「物語」に呪縛される人間の弱く愚かで気持ちの悪い姿が描かれた映画だった。


2026年製作/115分/G/日本
配給:エイベックス・フィルムレーベルズ、スターサンズ

監督・脚本:𠮷田恵輔
製作:勝股英夫、四宮隆史、駒井有紀子、東城祐司、中村浩子、五十嵐淳之、古賀奏一郎
エグゼクティブプロデューサー:前野展啓
ゼネラルプロデューサー:西山剛史
プロデューサー:大森美希 長井龍 古賀奏一郎
撮影:志田貴之
照明:常谷良男
編集:下田悠
音楽:茂野雅道
キャスト:磯村勇斗、末澤誠也、綾野剛、木南晴夏、酒井若菜、川上麻衣子、二村仁弥、黒沢あすか、田村泰二郎
☆☆☆☆4
写真引用コピーライト2026「mentor」製作委員会

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