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2024年05月20日19:03

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片渕須直監督トークショー

第222回アニメスタイルイベント ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』6 【片渕さんの『調べる』とはどういう意味なのか 編】のために、先週土曜日に新宿へ行ってきた。新宿のロフトプラスワンに入ったのは、これが初めて。

わざわざ東京までトークショーを聞きに行くほどに(電車賃が入場料の20倍掛かる)、自分が片渕須直監督のファンなのかというと、まぁ『アリーテ姫』以降の映画はファーストランで観ているくらいには好きなんだけど、今回は特別な理由があった。

イベントの数日前に、Twitterの告知を見かけたのだ。曰く、「先頃、急逝した山本弘氏を偲んで、アフタートークの時間で『MM9』のことを語る。このパートはネット配信しない」と。ネット配信しないのは、『MM9』の著作権が片渕監督にないからだが、イベントで話したことをSNSに書くことは構わないとのこと。

山本弘のSF怪獣小説『MM9』を片渕須直監督がアニメ化する企画があったということは、生前山本弘本人もネットに書いていた。実写ドラマ化に苦言を呈しながら、アニメ化に関しては実現しなかったことを残念がっていてた。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887816845/episodes/1177354054892327293

片渕監督が係わったアニメは、初期の『名探偵ホームズ』、『魔女の宅急便』、『ちびまる子ちゃん』といったファミリー向けのものから、『BLACK LAGOON』のようなハードボイルド物を経て、近年注目された『この世界の片隅に』のように幅広い層の人が楽しめる映画まで、ジャンルの幅が広い。そんな監督が企画を進めてきて、怪獣マニアである原作者のお墨付きだった映像化とは、如何なるものだったのか。これはもう、直接聞きに行くしかないじゃないか。で、行ってきた。

うん。めっちゃ面白い話を聞けた。でも、メモを取ったりはしていなかったので、ここからは思い出せる範囲でざっくりと。

普段のアニメスタイルのイベントではアフタートークは5分くらいだが、この日は1時間くらいの時間を取っていた。司会者も、『MM9』の話題目当の客が多そうだなと。

『MM9』アニメ化の企画が進められたのは、『マイマイ新子と千年の魔法』がほぼ完成した2009年頃から。2010年8月頃には事情により企画中止。その代わりに進められることになったのが『この世界の片隅に』だった。

片渕監督曰く、当時は今と比べると怪獣モノの娯楽作品が少なかった。むしろ、小説『MM9』によって新しい怪獣モノの切り口が提示され、その影響が漫画なり映画なりに及び、今に至ってるのではないかとのこと。『シン・ゴジラ』や『大怪獣のあとしまつ』なんて、山本弘的発想がかなりあるんじゃないかと。言われてみればそうかもしれない。

『MM9』の物語では怪獣が昔から存在しているので、歴史上こんな場面もあり得たという例として、戦艦長門が恐竜型の怪獣と海上で戦っているイメージボードが紹介された。「最近どこかで見たような絵ですね」と笑い話にしていたが、この絵が描かれたのは15年前だ。

他にも貴重なイメージボードが紹介された。原作にも登場する重要な怪獣ヒメ(少女型巨大怪獣)の絵とか。まぁ、進撃の巨人みたいな感じでなら、すっぽんぽんの人型怪獣でもテレビ放送可能だったかもしれない。

脚本は26話分がほぼ完成済。しかも、これで原作本1冊分の映像化というから、相当に話を膨らませていた模様。原作者もアイデア出しをして、怪獣災害で大怪我をした少年が結局助からずに終わる、というエピソードもあったとか。

原作は、怪獣という自然災害に対処する気象庁職員が主人公であることから、片渕監督は気象庁にも取材したそうだ。物語の周辺情報を徹底的に調べるのは、『マイマイ新子と千年の魔法』から有名になった片渕監督のアニメ製作メソッド。この日のトークショー前半でも、新作映画製作に係る様々な調査・考察の話をしていたが、片渕監督の思考の一端を垣間見るようで面白かった。

ロケハンも各地で実施。脱出経路が少ない盆地に怪獣が出現した場合の避難誘導方法をシミュレートしていたとか。そして、『MM9』の企画が頓挫した翌年には東日本大震災が起こり、物語の中のことだったはずの非常事態と、それに政府・官僚・現場が対応する様が現実になってしまったことに言及していた。

司会者から怪獣の表現は手描きとCGのどちらを選択するつもりだったかという質問があり、片渕監督はまだそこまで具体的な作業まで進んでいなかったと。ただ、物語上で人類とは違う理(ことわり)によって存在している怪獣の描写は、手描きでは難しいのではないかという原作者の意見があったとか。

『MM9』の世界には怪獣が当たり前に存在しているが、現実の日本では、円谷英二が『ゴジラ』を作るまでは「怪獣」という言葉がなかった(もしくは一般的でなかった)。片渕監督は円谷英二や金城哲夫に関しても調査していて、そこから独自の視点で、ウルトラマンのメインライターである金城哲夫と山田正弘の怪獣という存在の捉え方が違っていると考察した、という話が面白かった。これについて、円谷プロからとてもアニマックですねと言われたそうだが、片渕監督は自身が怪獣マニアではないと考えている。

片渕監督は、昭和マニアだから『マイマイ新子と千年の魔法』や『この世界の片隅に』を作ったわけではないし、平安マニアだから『つるばみ色のなぎ子たち』を作ろうとしているわけではない。だが、ある種の知識マニアとは言えるだろう。片渕監督がスタジオジブリを去る際に、宮崎駿と対等にミリタリー話ができる人がいなくなるから、たまに遊びに来てほしいと言われた、という話を聞いたことがある。

原作『MM9』には続編が書かれているが、アニメ化では違う結末を用意していた。これに対し、原作者は「そうきたか」と言っていたらしい。最終回の脚本のタイトル「パラダイムシフト」から、オチを察することはできそう。

片渕監督も、この企画が原作者の生きている間に実現できなかったことを残念だと語った。と同時に、まだ実現を諦めていないとも。そこで客席からも拍手が起こっていた。

とまぁ、『MM9』のことばかり書いたが、トークショー前半の『つるばみ色のなぎ子たち』に関する話も、とても面白かった。片渕監督への様々な取材では、映画のために監督が色々と調べるのを「考証」と呼んだりすることが多いそうだが、果たして自分がしているのは「考証」なのか、むしろ「研究」ではないか、といった話がこの日のトークの本当のメインだった。現在進行中の映画製作でも正確な描写をするために調べ事をするというより、手当たり次第に調べまくって、調べるほど新しい発見があって、それが映画にフィードバックされるという感じらしい。そしてそれは、『MM9』の企画においてもそうだったようだ。

いずれにせよ、片渕監督の新作を楽しみに待ちつつ、できればその次の企画が『MM9』であってほしいと思う。

以上。

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