都内・楽器店の練習室で、ついにハーモニック・モノコードを体験することができました。
感動のレビューを一気に書いてしまいました。
今まで、こうしたことに無関心すぎたことが悔やまれますが、これも「時期」というものかもしれません。全ては、良いタイミングで運ばれているのかもしれません。
そんな流れを感じているこの頃でもあります。
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《 響きを求めて 〜藤枝 守先生 と ハーモニック・モノコード〜 》
2016年4月17日(日) 藤枝 守先生との出会い
(文責:フルート奏者、古武術奏法研究家:白川真理)
筆者は砂原悟氏(ピアニスト、クラヴィコード奏者、京都市立芸術大学准教授、東京藝術大学非常勤講師)によるクラヴィコードのコンサートを聴くため自由が丘の閑静なサロンに行った。
この日は強い雨と共に風速25メートルの春の嵐が吹き荒れたのだが、薄青の植物文様である江戸小紋の着物で出かけたのだった。
というのも、この日、砂原氏が演奏する曲の名前は『植物文様』。
それはハリー・バーチ、ルー・ハリソンに影響されながら純正調によるあらたな音律の方向を模索している作曲家・藤枝 守先生(九州大学大学院芸術工学研究院教授)によって、植物の電位変化のデータからメロディーを見出す作業の中で生まれた作品である。
そこでの経験は春の嵐以上に、心身をゆさぶられるものとなった。
クラヴィコードの音量は、とても小さい。人が傍で会話すると聴こえなくなってしまう程である。
しかしクラヴィコードによる『植物文様』の演奏が始まったとたん、会場の空気が動き始め、身体全身がその響きに共振したのだった。小さな音のクラヴィコードの持つ豊饒な響きを体感したのである。
作品が持つ力、純正調による調律、クラヴィコードの音色、名手・砂原氏の音楽性、音響効果の高い上質な会場、50名程の意識の高い聴衆、これら全ての条件が整ったからこその稀有な時間が流れた。
懇親会では嵐の中を着物で来た、ということで初対面の方々との会話も弾み、作曲者である藤枝先生は筆者にも判り易く、純正調による音律の話をしてくださった。
筆者にしても、ある程度の純正調に関する知識と知見はあったものの、そのお話は、筆者の常識を遥かに超えたものであった。
「平均律は響かない」
言われてみれば、人工的に1オクターブを12等分した音が響かないのは当たり前のことである。だからこそ長3和音の第3音を純正調的に少し下げ、また導音は少し高めに演奏する。
しかし、それ以外の♭、♯などに関しては、「違う」という知識はあっても、同じ指使いであることもあり異名同音の鈍感な感覚のままやり過ごしていることも多かった。
また異国情緒溢れる無伴奏のペンタトニックの作品(例:3つの小品/フェルー)にしても平均律のままの味気ないペンタトニックで吹いていた、と猛反省したのであった。
絶対音感ならぬ大体音感?などと日頃うそぶいている筆者にしても、楽譜を読んだ時に浮かぶ音は、幼い頃から馴れ親しんだピアノによる平均律の音だったのである。
全ては藤枝先生曰く『平均律の牢獄』の中での音の聴こえ方であり、感じ方だったのだ。
その後、砂原氏に教えてもらった藤枝先生の著書『響きの考古学』(平凡社)を取り寄せ、貪るように読んだ筆者は、すぐにメールをした。
「藤枝先生が御本の中で紹介されているハーモニック・モノコードによるワークショップをぜひ私も体験してみたいです。」
数字で示された純正調の表を見ても頭が痛くなるだけだった。数学は苦手分野だ。
また、パソコンや電子楽器でも様々な純正調の音律を聴くことも出来るが、これらの音は全く美しいとは感じられず、音律以前に身体が拒否してしまう。
結果、頭を通過するだけで、血肉にはならないと感じていた。
しかし、この藤枝先生のハーモニック・モノコードによる試みは、実際に自分の耳と手を使って純正音程を聴きとり音律を創り出していくという作業であり、それは、その著書にあるように、まさに「全身の血液を入れ替えるような」実体験となる確信があった。
そして、身体を通して純正調の響きを感じることは、2003年以来、筆者が武術研究家である甲野善紀先生の下取り組んできた、『楽器演奏における自然本来の身体の使い方とそれに伴う響きの探求』にも通ずるものであることだと感じていた。
甲野先生との出会いで「身体と頭の踏ん張り」を解く旅が始まった。そして今回、藤枝先生との出会いで新たに「耳の踏ん張り」を解く旅が始まったのである。
また、筆者はすぐに、参加しているビンテージフルート3本によるアンサンブル『トロワ・パルファン』のメンバーである日比野久美子女史、小関めぐみ女史にも藤枝先生の著作と取り組みの話をした。
アンサンブルの仲間同志でこの純正調の感覚を共有したいと願ったのだ。デリケイトな話題であることでもあり恐る恐る切り出したのだが、日比野女史は以前から藤枝先生に関心を持っていて著作も読んでいることが判明。
小関女史も関心を示し、とにかく一度体験してみよう、と話はまとまった。
2016年5月14日(土)
『トロワ・パルファン』と 藤枝 守先生、ハーモニック・モノコードの出会い
個々の演奏ではもちろんだが、アンサンブル『トロワ・パルファン』としても、藤枝先生の提唱する純正調の音律の世界を体験したいという筆者らの願いを、藤枝先生は快諾してくださった。
「いぜんはモノコードのワークショップを開催していましたが、
この機会に、また、再開できればと思っています。
じっさいに演奏活動をされている方々に、音律の起源とも
いえるモノコードを活用していくなかで、近代の音感から
解放できる方向を探っていければと思います。」
初めての出会いの日とは打って変った爽やかな五月晴れの都内。協力してくださったとある楽器店の一室に藤枝先生はハーモニック・モノコードを包んだエスニック模様の風呂敷包みを大事そうに抱えて、いらしてくださった。
まずは、実際に体験してみてください、との有難いお申し出に、メンバー一同、恐縮し感謝しつつ、トロワ・パルファンのためのミニワークショップを御願いしたのであった。
モノコードのモノとは単一の、という意味である。本来のモノコードは1本の弦である。
しかし藤枝先生の考案したモノコードは8本(著作では6本)の弦が張られており、これによって様々な音律を作ることが可能になっている。
藤枝先生はこれを「ハーモニック・モノコード」と命名したのだった。
このハーモニック・モノコードはギター製作者となった藤枝先生の教え子による美しい作品で、60�僉�25�僉�25�冂�の直方体の木箱にギターの弦が張られたものである。
「体験してみなければわからないことがある。」
これが、トロワ・パルファン一同の一番の感想である。
まず自分の耳だけを頼りに8本の弦の音程を揃える。その後は音程を聴きながら駒を使って弦を2分割なり、3分割なりにしていく作業となる。
弦をつま弾いても音は出るのだが、その折のテンションがどうしても弦を拡張してしまう要因となることから、藤枝先生は弦をスティックで軽く叩くという方法を編み出した。そのスティックはインドネシア製の彫刻された木材の箸であった。
スティックで弦を叩き、音程を聴きながら駒の位置を調整する。
これが中々難しいのだが、醍醐味はピタっと音程があった瞬間だ。その瞬間まるで「イエス!」とでも言う様にモノコードの弦が共振し響きあい、周辺の空気感までもが澄んだものに変質するのだ。
さらにはスティックを持つ手にもその振動が伝わり、響きが身体の中に逆流してくるのが感じられるのであった。
これは、パソコンや電子楽器から出る音律を耳で聴くだけでは、絶対に得ることの出来ない貴重な経験であった。
音は自然本来の関係性の中でこそ響くのだった。
藤枝先生はその著作の中で語っている。
『現代では、音の高さや音程は、演奏の都合や音楽の種類に応じてある程度、自由に変えられる。
このような音に対する自由な扱いは、言い換えると、音がもつ秩序に対して配慮が欠如していることを意味している。
音のなかにある力は、その音が自由に扱えると思っている時に消滅する。
音という存在は、古代人が畏怖した自然や宇宙と照合したとき、はじめてその力が現れてくる。』
(『響きの考古学』平凡社より)
平均律にしても、決してそれが悪い、という訳ではないだろう。
平均律だからこその音楽の発展、隆盛があったことは否めないし、平均律ならではの良さもあるだろう。
問題は、産業革命以降の利益と効率優先の社会の中で「平均律以外を知らずに育つ環境になってしまったこと」「平均律しかないと思い込まされてしまったこと」なのだ。
筆者は各小学校等にグランドピアノだけでなく、ハーモニック・モノコードを置き、子供達が、これにより自分達の身体を通して響きを感じる経験が出来ると良いのに、と思う。
トロワ・パルファンのメンバーと、藤枝先生の4人で一台のハーモニック・モノコードを一緒に叩き、即興演奏をしたのだが、自然の摂理に則った響きあう音のアンサンブルは、部屋全体と演奏者を包み込む響きとなって、よりお互いのコミュニケイションを高めてくれた。
アンサンブル力即ちコミュニケイション力であり、人間力である。
音楽以前の、人間形成においてもこのハーモニック・モノコードは大きな役割を果たすのではないだろうか。
生まれた時から平均律に馴染んでしまった耳の体質改善には、時間もかかるだろうし苦労も伴うだろう。
しかし、それを経ずして先に進むことは、もう出来ないと感じている。
これからするであろう苦労を上回る大きな喜びがあることを、既に予感しているからだ。
実際、様々な音律を知った後、楽譜を読むだけでも、聴こえてくる響きは変化し、世界はモノクロームからカラーに変化する。
まだ場所・日取り共に未定であるが、いずれは、藤枝 守先生をお迎えして、このハーモニック・モノコードによるワークショップを開催したいと、考えているところである。
興味、関心を持たれた方、ご案内をご希望の方は、どうぞ、白川までご連絡を。
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