暴風雨の中ではありましたが、気合を入れて、葡萄の繊細な意匠の江戸小紋で出かけました。
きっちりと雨ゴートを着れば、多少の雨なら平気、とはいえ、この日は本当に風速25メートル、というまさに春の嵐。
ピアニストであり、クラヴィコード演奏家でもある、長いお付き合いの砂原 悟さんよりご案内いただいた、サロンコンサートは、個人のお宅に作られた、素敵なサロンでの開催でした。
何故、この江戸小紋の着物にこだわったかというかというと、
知り合い限定の50名、という贅沢な、今回のコンサートは、いわば個人のお宅への訪問と同じだったので礼を尽くしたかったのがまず第一。
あとは、後半には砂原さんがCDも出していらっしゃる『植物文様』という作曲家・藤枝守さんによる作品を演奏されるから。
この葡萄の模様の江戸小紋は、いわば、日本の伝統的意匠である植物文様。
絶対、これ、と決めていた。
帯は螺鈿の綴れの袋帯を予定していたのですが、実際に合わせてみると、ちょっとがんばりすぎの感もあったので、金糸にこれまた唐草模様の「植物文様」の洒落名古屋帯にして、少し風通しをよくする。
大きな会場なら袋帯だけれど、個人のサロンであれば、むしろ名古屋帯。
会場に到着したとたんに、
「まあ、この大雨の中をよく・・」
と主催されているHさんの奥様がねぎらってくださる。
エレベーターでご一緒に乗り合わせた初老の男性からも「いやあ、心意気が素晴らしいです!」と大絶賛。
悪天候の中の着物ということがが話題のきっかけとなり、そのお蔭で、初対面の方達ともすぐに
打ち解けることができました。
やはり着物の効用は凄い。
・・・・
砂原さんのクラヴィコードの演奏は、本当に素晴らしいものでした。
前半はロクヴィル、ダウランド、ギボンズ、そしてバッハと西洋の古い音楽。
そして後半は藤枝守さんの作品、「植物文様」から10曲ほど。
植物が発している葉の表面の電位変化のデータをメロディックなパターンに読み替えた、というユニークな作品です。
古い楽器、クラヴィコードのための現代の作品。
これが実は最近のお気に入りで、昨年東慶寺コンサートの折に購入してからよく聞いているのですが、なんとなく、空気が浄化されるような気がしています。
本来の自然な人の心身の在り様にも通じているような気もする。
ということで、この日は念願かなっての生演奏。
会場の響きも素晴らしかった。
繊細で音量はないクラヴィコードの音なのですが、その響きの多層性が虹の様に様々な方向から伝わってくる。結果、私には、とてもゴージャスで濃厚な響きにすら聞こえた。
特筆すべきは、前半も本当に素晴らしかったのですが、後半のこの「植物文様」になると、部屋の空気が急に大きく流れ出した感じがしたこと。
静かな曲なのですが、何故かわくわくする律動感がわく。
定まったベースの上で繰り広げられる短いフレーズの繰り返しは、その都度微細に変化し、「制約の中の多様性」の妙を見せている。
これは砂原さんの表現力、音楽力に負うところも大きいのだろうけれど、本当に素晴らしい体験でした。
終演後のパーティーも素敵なものとなりました。
このお部屋を設計された建築家のHさんは、いくつもの大きなコンサートホールもてがけられたプロフェッショナル。
この会場での様々な工夫をうかがうたびにうならされる。
どんなジャンルでも究めた方の話は面白い。
後半になって空気が大きく動き始めた、という感想をこのHさんも持たれたらしく、こうした感覚を共有できる方と出逢えたというのも嬉しいことでした。
まあ、それだけ、砂原さんの演奏とこの作品がフィットしていたということかもしれませんが。
そして、作曲家の藤枝守さんもいらしていて、音律や響きに関しての貴重なお話をうかがうことができました。
響きに関して、真摯に考え追及されている先達。もちろん業界の中での評価は高く、成功されている著名な作曲家のお一人といってもよい方ではあるけれど、この方もまた、おそらく普通のクラッシック業界の中では異端なのだろうな、と思う。
私の研究実践は身体と心の調律かもしれないなと、ちょっと格好良すぎますが、そんなことも思った。
あと偶然お隣に腰かけた方がフルーティスト。それも砂原さん関係者ではなく、なんとクラヴィコード製作者の知人とのこと。こんなマニアックな場での出会いというのも嬉しいものです。それに、笛吹仲間のNさん夫妻を見つけたのも嬉しい驚きでした。
素晴らしい演奏、上質な響きの空間、集った方達の開かれた構え、主催のご夫妻のお人柄、美味しいお酒とお料理、と全てが美しく共振した、素晴らしいひとときでした。
あの暴風雨までがよく取り計らわれた舞台装置に感じられるほど。
上質な大人の時間でした。
「音楽とはコミュニケーションだ」
という師、植村泰一先生からお教えいただいた師の師であるニコレの言葉をかみしめつつ、すっかりお天気になった夕刻に帰宅。
竜宮城から戻った浦島太郎よろしく、しばらくは放心状態でした。
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