師匠・植村泰一先生が奏でられる初代ロットの音は、この世のものとは思えないほどで、形容するのが難しいけれど、とにかく深く深く、心身に染み入る響きです。
何かしら、人智を超えたものが潜んでいるのではないか?と思えるほどです。
レッスンの折、「吹いてみる?」と手渡してくださることが何度かあったのですが、全く歯が立たなかった・・
なので、自分がロットはおろか、ビンテージフルートを吹くとは、全く考えてもみませんでしたし、当時使っていた某国産の古い14金のフルートに愛着もあり、もう、これが自分にとっての最後の、ベストの楽器、と思っていました。
自分で自分を決めつけていたともいえます。
私には吹ける訳がない、と。
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最初のCDが出た2003年の秋、銀座に出たついでに、置いてくださっている山野楽器に挨拶に行ったところ、そこには、同門のHさんが。
なんと、ビンテージ楽器のケノンを購入した、とのこと。
「え〜〜〜!凄い!」
「だって、せっかく植村先生に教えていただけるのだから、本番では吹けなくても、練習してみようと思って。」
とのこと。
真面目で勉強熱心なのは知っていたけれど・・・
その心掛けがまず違う・・
とちょっと先を越された悔しい思いもよぎる。
私は最初から「もう、私には、これで十分。これでいいや、」と決めつけてしまっていた、というのに。
用事がある、とかで、先に帰ったHさんを見送り、
「先生もいかがですか?」
と、冗談半分で山野楽器の皆様から勧められるままに、私も色々と試奏したところ、初めての感覚があったのが、洋白のルブレ。これを吹いた瞬間に、そのフロアーに居た人たちがみな、こちらを振り返った・・・ような気がした。
お店の皆様も、「・・いいですね!この楽器、本当は倍の値段で出していたんですけど、あまりに鳴らないので半額にしたところなんですよ〜。先ほどの音、本当に、よく響いていらっしゃいましたね。」
とおだてられ、値段をうかがうと、持っている国産の銀の楽器を下取りしていただければ、なんとかなりそうだったので、その場で購入。
衝動買い、というか、つられ買いです。
これで、しばらくお稽古していると、やはり大きく吹き方も変化してきて、ピッチが低いのでピアノとの合わせは難しいですが、本番でも時々使うように。
その半年後、とある方から電話。
「先生、とても良い状態のロットが出てきたんですが、いかがですか?」
「あ、無理無理。お金もないし、それに吹きこなせないですよ。本番じゃ使えないだろうし。稽古相手ならルブレがもう居るので、大丈夫。」
「いや、買われなくても、ぜひ、一度、吹きにきてくださいよ。見てやってください。」
「いや、買わないのに、吹いてもしょうがないじゃないですか。なので、行かない。それにそんなに良いロットだったら、欲しい方は、きっと沢山いらっしゃると思いますよ。捜してさしあげましょうか?」
「・・・いや、実は、先生に吹いて欲しい、と個人的に思ったんです。」
「何故?私は全くビンテージ、疎いですよ。」
「まず、植村先生のお弟子であること、そして、私は、あの本を読ませていただいて、とても感動したのです。だから、まず先生にお声掛けしました。買わなくてもいいので、ぜひ一度吹いてやってください。」
あの本、とは2004年の春に新潮社から出版された甲野先生とライター・田中聡さんによる『身体から革命を起こす』。
この本では、私の事も沢山取り上げてくださっていて、最初は演奏や音楽以外のことで注目を集めるのも本意ではなく、悩んだ末の承諾ではあったのですが、こうして、感動してくださった方がいらした、というのは、とても嬉しいことでした。
とはいえ。銀のロットというと、お値段もそれなり。金の楽器ほどではないにしても、本番で使えるかどうかもわからない高額な楽器を買うゆとりは残念ながらない。
私立中学に入ったばかりの息子の教育費だって、これからが大変なのに・・
「ごめんね。お気持ちはとても嬉しいけれど、やっぱり無理。それに本番前で忙しいので、東京まで出ていく日もないし・・」
「では、ご都合のよい日に、お邪魔してもいいですか?ご自宅までお持ちしますよ!」
「え〜〜〜!!?」
着物好きだった母や伯母たちは、困ったように、でも嬉しそうに、良く言っていた。
「呉服屋さんと親しくなっちゃ絶対だめねよ。好みを覚えられたら、おしまいよ。」
「そうそう。それに来なくてもいいのに、お近くまで来たので、って挨拶しにくるのよね。これ、きっとお好きだろうと思って、とか言っちゃってさ。」
子供の頃に聞きかじっていた大人の会話が、頭をよぎる。
「あんたはんは、呉服屋さんどすか?」と何故か妙な京都弁モドキのスイッチが入り脳内で独り言ちる。
そこまで仰ってくださるのなら、と結局、拙宅に出向いていただき、ロットは我が家に滞在することに。
これが、面白いくらい鳴らない。
左手の音が微かにするくらいで、最低音のCはウンともスンとも鳴らない。
とはいえ、最初から良くなるビンテージは整形美人疑惑が、というのは知っていたので、むしろ一安心。
レッスンの折、師匠に吹いていただいたところ、
「ふ〜〜〜ん・・・・・・悪くない!」
これはかなりの褒め言葉。
ということで、これも出会い、ということでローンを組んでの購入となりました。
これが確か2004年の出来事です。
植村先生、甲野先生とのご縁があったからこそ、ロットも我が家にやってきてくれたのだと。
今はもう楽器店の仕事から退かれ、故郷に帰られたというTさん。
今はどうされていらっしゃるのか・・・
実際、良い状態のロットは年々少なくなっており、当時でも、おそらく、すぐに他でも売れたのではないかと思います。
それをこうして、熱心に勧めてくださり、自宅まで持参してくださった。
Tさん、本当に、ありがとうございました。
そうそう。最近、フルートの生徒さんK君が、このTさんの大学の後輩で、吹奏楽部で一緒だったことが判明。
こちらもご縁です。
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