1月10日の読売新聞に掲載された，論理的文章の教育と文学教育とするなとの社説にObjection!。わたくしの主張は，日本においては，論理的文章の教育と文学教育を分離すべきだと主張してきた。具体的には以下のとおり。
論理的文章の教育…米国流の文章のレトリック教育 topic sentence, pyramid principle など。
文学教育…起承転結などの従来の情緒感情的日本文学の教育
極端な例を挙げる。川端康成の「伊豆の踊子」の問題において
「問：学生が踊り子の旅芸人一向と同行しようとした動機について述べよ」がありました。私は，論理的（日本語の論理とは違うかもしれません）に推察し，以下のような答案を書きました。
好奇心および将来に向けた下情視察。その理由は以下のとおり。明治期の階級社会において，一高の学生は，エリート中のエリート。将来は，高級官僚か法曹関係を目指した可能性が高い（実際，一高ではなかったが，祖父/元農林技官/は五高→東大で今日いうところのテクノクラートをめざし，祖父の兄/元東京高裁判事/は五高→東大で法曹関係を目指した）。他方，旅芸人は，当時，社会の最下層。特に，踊り子は，娼婦に近い存在とみなされていた。高級官僚になってからは，旅芸人などの下層階級とアクセスするわけにはいかない。以上の観点から，この学生は，今のうちに下層階級とアクセスし，将来に備えようとしたものと推測される。
結果は，見事の×点。正解は，
踊り子に対する恋心
としなければなりませんでした。虚構と言ってしまえばそれまでですが，現実にはありそうもありません。現実にはありそうにもないから，後世，文学作品とし残ったに違いありません。逆に言うと，下情視察という現実に近いことを書くと文学になりません。
日本文学の情緒感情性や起承転結などの情緒形式は，日本文化の伝統でしょうから，否定するつもりはありません。問題は，論理的文章にまで，その特殊な日本文化の伝統を持ち込むことにあります。英語の文献（Technical Writing and Professional Communication for Nonnative Speakers of English pp. 406-406）にすら，日本人の書く文章は，特殊だと指摘されているほどです。
少し長くなりますが，上記文等による国際的な文章規範の原則は，以下のとおりです。
１．論点(issue) の決定/ 問題の切り出し
・分り易さ ＝： 論理の構造化＋再現性
・論点は，主題から問題を疑問文の形で切り出す。
⇒主題が大きすぎる，または，漠然としている場合には，絞込み（下位概念への特化）を徹底して行なう。
・論点は，技術上（作業）の目的と伝達の目的から構成される場合が多い。
⇒技術上の目的に頻出する動詞： 〜を調べる。〜を検証する。〜を解決する。etc
⇒伝達の目的に頻出する動詞： 〜を依頼する。〜を勧める。〜の許可を求める。〜に答える。etc
・メインメッセージは，疑問文の形で切り出された問題に対する回答/主張とする。
．アウトライン
・文章は，原則としてピラミッド型の階層構造で，パラグラフおよび文章を構成する。
・アウトラインの基本構造は，序論（問題提起/論点の記述），本論（分析/比較/論証），結論の３構成。
×論点から外れたことは，記述しないこと。起承転結を幼いころから金科玉条のごとく刷り込まれている日本人は，無意識に，転（論点から外れたこと）を入れる人が多いので，注意を要する。
３．パラグラフ
3.1 トピックセンテンス
・ひとつのパラグラフは，一つの話題（topic）を記述する（１段1義：One paragraph/ One topicの原則）。
⇒パラグラフ内の文章は，例外なくトピックセンテンスとつながりを持たなくてはならない。
×トピックセンテンスに関係しないセンテンスを挿入しないこと。起承転結は不可。
・トピックセンテンスは，そのパラグラフの結論または総論。
・総論を構成するには，パラグラフ内の各センテンスに共通する上位概念に登る。
3.２ パラグラフの基本形式
以下の� 銑い隆靄楫舛鯀箸濆腓錣擦襦�
� …称鷏� ⇒各文の主語が直前の文のキーワードからなる形式（動作，行動，展開）
�◆（体鷏� ⇒各文が同じ主語and/or同じ内容の主語ではじまる形式
�� 分析直列型 ⇒冒頭のキーワード(s)を各論で直列的に説明する形式
�ぁ（�析並列型 ⇒冒頭のキーワード(s)を各論で並列的に説明する形式
3.3 パラグラフ内のセンテンスの繋ぎ方
同一パラグラフ内では，� 銑�について可能な限り同じつなぎ方を行うこと。
� 〇�間的順序 ⇒直列型and/or分析直列型
�◆ゞ�間的順序[注] ⇒並列型and/or分析並列型
�� 重用さの順序 ⇒並列型and/or分析並列型（重要なものから記述）
�ぁヾ�知から未知への順序 ⇒並列型and/or分析並列型
�ァ￣蜈菘�順序（一般から特殊へ） ⇒直列型and/or分析直列型
�Αゝ�納的順序（特殊から一般へ） ⇒並列型and/or分析並列型
�А‖弍�均衡構造 ⇒並列型
�─‘瑛佑聞佑─て盈犖譴侶�り返し ⇒直列型and/or並列型
�� 接続詞による繋ぎ ⇒all型
[注]：平面・空間の走査を首尾一貫したルールで行う
3.4 パラグラフの展開/つなぎ
�…樵阿離僖薀哀薀佞亮舁弩譟�主要語句・内容を繰返す ⇒直列型
�∀静世亮舁弩譟�主要語句・内容を繰返す ⇒並列型
��接続詞による繋ぎ
4.文
・一つの文には，一つの事項について述べる（One sentence / One ideaの原則）
⇒文が長くなると，一つの文に複数の事項が混入しやすい。
⇒長文を分割するときも，上位概念に登り，最初に総論を追加するとよい。同じ上位概念とならない場合には分割。
・長い修飾句を被修飾語から遠くに，短い修飾語を被修飾語の近くに配置
・自分（自分が属する組織）が行った事項については，受身を用いない。
⇒受身は，自分（自分が属する組織）の行為とそれ以外の人（組織）による行為との区別に用いたほうが無難。
・語句の重複をさける（ex. 馬から落馬）。
5.語彙
5.1 One word / One meaningの原則
・複数の意味に解釈可能な用語（情緒的・感情的な用語）を避ける。
・用語（term）の意味が複数の意味に解釈される恐れがある場合には，用語を再定義する。
・同じ物や同じ事を，類似した用語（term）で言い換えない。
⇒別の用語を用いるのは，異なった物や異なった事をさす場合に限る。
5.2 明瞭化
・曖昧な名詞，曖昧な動詞は，再現可能なレベルまで具体化する。
(ex.機械を動かす →機械を稼動する。操作する。移動する)
・形容詞および副詞を用いるときには，その程度を表す再現可能なレベルの具体的な記述を追加する。
(ex. 少量の塩と胡椒を加え → 1〜２振りの塩と胡椒を加え)
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