足元を這ってくる寂しさに 二人、膝の毛布をかけて寄りそう年の瀬のテレビは赤く尖っていて脳が寒いリモコンが素の世界に戻してくれると隣の建築資材が空しくふるえている「そろそろ、寝ようか」と 水場へ向かって支度をするしずかな鼓動新年を誘いこむ虎狩笛
人は飛ぶことを諦めたのだろうか。俺たちに分け与えられた細胞の集合体は、過去から未来へと無限に繋がる細胞の総体の中にあって、現在という、押し潰された薄っぺらな時の隙間で、未来を食べ、過去を排泄する役割を担っている。現在で交錯する無数の集合体と
眠りに沈むあぶくに響いたあなたの寝ごと ふと、はじけて、月あかりが描くあいまいな輪郭を夢に持ちだそうと目をつむるまぶたに残る月はやがて満月になり近づいて大きく唇にふれる「そのまま、月とたわむれ、星をかすめて、ふたたびはじけた、あぶく、わたし
オモイ、オモイ、地ノ底ニアカイ、アカイ、血ガ滾ルシノブ、モグル、人知レズ連ナル鎖ハ合ワセ鏡ノ様ニ嵩を増す流れが光を求める岩盤に遮られ行き場をなくした血は充ちる膨らむ力が限界点を越える瞬間閉ざされた岩盤を突き破る!噴き上がる、赤く、激しく解キ
傾く太陽を気にしながら近寄らないで、といばらは真っ赤なフリルをつけた腰をふるそこまで魅せておいて、と野ブタは悔しがり、やけになって穴を掘る太陽は山の尾根をなめながら色めきフリルの奥に手を伸ばす いばらは風が吹くたび羽音を探す野ブタは、なおも
書けないときは、なんとなく書けない、で、いいじゃないか書けないっていう昨日とは違う自分に会えてこんにちは書ける明日はあしたで、昨日と同じこんにちは、また会えたねまたいつか、今日に会えるならその時まで、さよなら
缶珈琲がこちらを向いて堂々とCOFFEEの文字を反らしかつて豆だった頃の他人の姿を貼られさらにカップに注がれた他人の姿までも僕はみんなと違うよ、と言ってはいるがBLEND-COFFEEお前も私と同じごちゃ混ぜの総代なのか本当に私に、飲んで、と言っているのか片
スポットライトが集まる店内にカラオケボックスが流される腰から首までの店員は音もなく寝ぼけ声がカウンターに落ちる過ぎ去った伝票の質問にうんざりしながら私は首をふる背中に受けるはずの掛け声は関係者以外立ち入り禁止押し開けたガラス戸の向こうで 深
みんなには言ってないけど僕はニュータイプだからオセロで嫌われ、五目並べで嫌われ、「汚ったねー!」の雨が降る泣いている人のそばに行って哀しみを拭ってあげると驚いた顔で笑ってくれるでも、遊んでくれない回りに人がいなくなってたくさんのカニが横歩き
目に映るそれぞれがたがいに異国の民であるかのように異教徒であるかのように外と内をへだてる皮膚を開くことなく手に掴んだ棒で気づかぬ様に相手を確かめ指先を背中のポケットに仕舞いこんでいるどこまで行っても外は外でしかありえず目には映画のストーリー
私に降りかかる雨はいつもギリギリのところで貴方が振り払ってくれる時々自慢してスーパーマンを気取って俺についてこいって手を引いてずっこける貴方に私が高笑いでつつくとごっめーんって笑ってウインクしてる本当は私の足元のくぼみを避けてたのね玄関の向
階段の下のコックピット 丸いすに腰かけたパイロット煙草とお茶のペットポトルを燃料にして携帯を操蛇しながら宇宙空間に旅立つ今夜の行き先は冷たい月を横目に青く眠る地球の夢を巡回する徹夜のデスクに伏せた戦士はそっとしてじっと静まりかえった川べりに
赤いランドセルに叩かれててるてる坊主は笑っている「かわいいね」ママがハンカチで作ってくれた雨をはらうおまじない学校への細い道でころばぬように冬のそらでも笑顔がかがやくように幸ちゃんはいつまでも手をふるてるてる坊主はママのような笑顔でずっと背
恋には幾つかの筋書があって、そこに自分が乗った際、ハッピーエンドまで漕ぎ着けるかどうか、という想定を少なからず行う。途中で燃料が切れないように、座礁しないようにと、道筋を下見しながら、伸るか反るかの行動に移す。座礁した場合、大概助け船は来な
すべて消え去るのですか注ぎ続けた愛を上がらぬ腕でハンガーに掛け、皺をのばしてソファーから眺めてみる 蛍光灯が目に沁みて 痛みにつられて涙がとまらない天井の歴史が冬のそらに見えて 底冷えの爪先がかじかむ 雪は忍び足で降りはじめる手のひらの温もりに
十字路をうごめいてあふれ出す仮面 それぞれにとり込まれる直線は互いに重なることもなく 灯台のあかりは何処を照らしているのか安堵の青が発する警告の破線にすべての直線が重なり欺かれた老婆の脳壁を叩く 温かさと冷たさの回転に戸惑いながら限界の鼓動に
もぐればもぐるほど息苦しくなる光があきらめる底に知らない世界があるのだ苦しさを抜け出たところで感覚はひっくり返され消えていく光と引きかえに得られるものは何なのか胸を浸す水にとけて 地球と交わる意識の中で 突き抜けた先に無の宇宙が限りなく広がる
春の色をなびかせて あたたかな風が去っていく 世に現れた光とともに芽生えていた兆しのほのかな匂いが運ばれる 異郷に息づく時を独りじめにするために霞んだ風景の真ん中に さくら夕陽にとけだした念が 幹のたもとから沁み入る色づいた花びらは 瞳をうめる
新しさを求めて バッタは足を固め、勢いよく弾くトンボのように自由に空をつかまえたいが体が重い 羽根は広がっているが 踏んばる石頭が木の幹をとらえるパタ、と草むらに墜ちてむきなおるぎこちない足をそろえて 真正面を見る発った草が青々としているのが見
太陽が轟轟と騒ぎたてるが俺のそばで滝にのまれ消え去り凍りついた耳には電子音が響いている導線を潜ってくる体温は 入道雲のてっぺんから重力の罠にかかりアスファルトで弾けるモノトーンの光が俺の目を焦がす 寄りかかる黒髪が風になびいた頃楠の木洩れ日は
鳥のはばたきは空を鳴らし木枯らしは和歌をうたう ヴァイオリンが泣く 雨の行く先は果てしない さよなら、とかけ足で遠ざかる夕陽が別れをおしみ 月は青ざめる 冷たい空の真ん中で小川の波におぼれながら 涙であふれる海の波と青空の雲と 白い世界であなたは
君が発するすべてが煙のように俺を燻して (出てこい、高台に晒してやる) とでも言うように 全身の細胞のすき間を抜けて攻め入ってくる痺れた脳がおかしなことを口走る(溶け合いたい)脳が?古い命が新しい命を求めて叫ぶ心臓がはみ出て君を喰らおうと狙う君は
助平な生命力が俺の奥で爆発する 赤い血はたぎる肌の紅潮は細胞の生きる意志吐き気をもよおすほどにおもい、興奮が連鎖する壁と壁の狭い隙間を走る視野は開かれず 後戻りはあり得ない 噴き出した往来で むごたらしく踏み砕かれるか受けとめられるか勢いよく飛
紅くふくれた果実に閉ざされ 燃える息吹はふるえながら途惑う 肌ざむい風が陽を拒ませて 緑は遠くかすんでいる 沈んでしまう 陽は背を向け今日を消し去るが 隠された炎は消えない 暗くなっていく東の空に 明日は必ず陽がのぼる 紅い果実が開くとき 輝く光に照
いつもは S字を引っかけて ぴったり 凸と凹が合わさって 気を抜くと 凸が出っぱり 過ぎてたり は痛いけど 凹が引っこみ 過ぎてたり いつもはなれず嵌まる しあわせ 時をわかち合うふたり
あの方の情熱がわたくしを動かすこの方の傍で はたらくわたくしを あの方はいつも見ていてくださる 懸命に近づいては はなれ 時のいたずらに ちから尽き果て 消え失せる身なれど あの方の情熱をうけたこの方の血流にわたくしは ゆるやかに脈をあたえ貴く
蠢くもの 地にかくれやめることなく喰いつづけ芯にむかい水をもとめ 掻きわけやみの中をつき進み約束もなく *捻じまがる 頭をうたれやむをえず逃げるように這いまわり光をもとめ 隙間をぬってやわらかく導かれる道を信じて
昼が去る夜が入る教会の鐘が鳴る 青に黒が沁み入り 青が黒に隠され昼のなごりの月影は寒く雪の光にわけられた白は消えかかる街の輪郭をうかばせる昼が顔を出すまえに白く昨日を塗りかえていく