2.6 ヒトラとチャーチル：比較---ドイツ側からのチャーチル論
(訳者序)
勝者側である米英の”勝てば官軍まくれば賊”の論理に注目してほしい。
＜日本語訳＞
ウィスントン・チャーチルは，参謀総長（陸軍，海軍，空軍）たちの働き方を回顧録で暴露したが，ヒトラを羨ましくく思っていたことを表明している。彼が，何等慮ることなく，かつ，偏狭なプロ軍人をバラバラにすることなく，参謀総長に自分の決断に従って実行させることができたからである。実際に，これがイギリスを救い，戦争に勝利させたのである。チャーチルは，まさにヒトラと同様に，軍事に容喙する煩わしい素人のなかの一人である。両者とも，政治的などん底から這い上がって権力の座についた。両者とも，大多数を揺り動かす雄弁に主に依存していた。両者とも，どことなく，その国の国民の精神を表し，それゆえ，多くの失敗，敗退，災難に粘り勝つという忠誠心に勝っていた。両者とも，壮大な事を考えるが，実経済や兵站の実情を殆ど知らなく，注意力が散漫であった。両者とも，敗退に対しては，鉄のごとき人間であった。とりわけ，両者とも，彼らが放している間，合理的な反対意見を黙らせるほどの圧倒的な人間性をもっていた。この奇妙な現象については，私は，ヒトラで嫌と言うほど経験した。決定的な違いは，最後には，チャーチルは専門家の意見をきかなければならなかったが，その一方で，ドイツ国民は，致命的な総統原理に自身をゆだねた。
もし，チャーチルが，アドルフ・ヒトラが横取りして私物化しようと策謀した権力をもっていたならば，連合軍は，バルカン半島に侵攻した1944年に出血死したであろう。バルカン半島は，チャーチルが枢軸国の柔らかな下腹と呼んでいたが，そこには，恐ろしい山岳や湖沼や河川による障害物があったためである。そこでは，我々は，彼らを屠殺したであろう。イタリアでの会戦がこれを証明している。ノルマンディの平原のみが，フォード生産方式によるアメリカの戦闘形態，劣ってはいるが安価に製造された機械類の巨大な塊を用いるものが，うまく機能する機会があった。バルカンは，防御側が勝利した巨大なサーモピュリーとなったであろう。それは，ガリポリですらスクールボーイのピクニックでしかないようなチャーチルの大敗北となったであろう。
総統の権威があれば，チャーチルも，ギリシャの島々を奪還することや，ローデス諸島を大軍で奇襲するという無分別な試みにおいて，常に補給について危機的であった上陸用舟艇を浪費しただろう。1944年に，アイゼンハワーとルーズベルトの両者が彼への話をやめるまで，彼は，これらの粗野な愚行を万難を排して実行するように両者にしつこくせまっていた。チャーチルは，民主主義によって抑制されたヒトラであった。もし，ドイツが以前のように再び勃興するならば，これら２人の異なる結果を忘れてはいけない。私ガチョウのような国会議員のまくしたてを論じていない。確信をもって，私は，保守的な君主制論者である。しかし，文民の体制が何であれ，我が国民に，今後，軍事を訓練された将軍に信任させ，政治屋は，戦争の遂行から手を引くように主張させるようにすべきである。
[英訳者（ビクター・ヘンリー：架空の人物）によるコメント]-----アメリカ人の平均的な見解これは，耳障りで，歪められた ヒトラとチャーチルの比較には，当然，重要な違いが省かれている。歴史家に共通した評決によれば，最もドイツ寄りのものでさえ，ヒトラは，征服と略奪に夢中となっている無慈悲な冒険家であり，チャーチルは，人類の自由，尊厳，法の偉大な守護者であった。チャーチルが軍事に干渉する傾向があったのは，事実である。政治屋には，逆らい難い誘惑である。
イギリスのノルウェーに上陸する計画に関するルーンの主張は，真実である。彼の結論は，再び，別の話で，ニュールンベルグでの論点から非常にずれたものとなっている。英国は，デンマークやノルウェーのような小さな中立国の唯一の保護であり望みでもあった。イギリスの上陸の目的は，占領や支配を目的としたものではなく，ノルウェーを守るためのものであった。戦争においては，双方が戦略的な理由により，同じ中立の目標の占領を試みることがある。だからといって，双方が等しく侵略に対して有罪となるわけではない。これが，ルーンの議論の誤りである。しかしながら，私は，このことついてドイツの参謀将校の説得を試みることを勧める気にはなれない。
-----ビクター・ヘンリー
[訳者によるコメント]-----個人的見解
筆者のチャーチルとヒトラとの比較は，ある程度正鵠を得ている。実際，チャーチルがヒトラと同様に軍事に干渉し過ぎることは，イギリスの陸軍参謀総長であるアラン・ブルック元帥からひどく批判されている。ブルック参謀総長は，”彼は，自己の直観と衝動によって行動し，自分が今行っている事柄の内容や結果を正しく考えようとはしない”とさえ言っている。米国のアルバート・ウェルデマイヤ将軍に至っては，さらに辛辣で，”戦争は政治目的を達成するために行われるべきものであるにもかかわらず，チャーチルは，戦争の勝利を自己目的化し，意味のない人殺しを行った”とさえ批判している。さらに，”チャーチ利は自分が犯した過ちを認識する聡明さを欠いているのか，過ちを認めるだけの度量を欠いている”と続けている。また，ウェルデマイヤ将軍は，チャーチルの戦争下手で，本来は，ノルマンディ上陸作戦は，１年前倒しできたはずで，チャーチルが干渉するから戦争が１年伸びたと主張している。
日本人からすれば，”チャーチルを人類の自由，尊厳，法の偉大な守護者というアメリカ人の平均的な見解には，本当か？”と異議を言わざるを得ない。アジア・アフリカにおける広大な植民地支配を行っていたことを棚にあげて，よく言えたものだと非難せざるを得ない。チャーチルは，せいぜい，白人による既得権の保護者でしかない。ヒトラの侵略行為を弁護する気にはなれないが，既得権に挑戦するためには，ある程度手荒な手段を取らざるをえない。やはりこれも，勝者側である米英の”勝てば官軍まくれば賊”の論理にしかすぎない
”連合国が中立の目標の占領は善で，枢軸国の占領は悪”というのは，勝者側である米英の”勝てば官軍まくれば賊”の論理の展開である。鉄と石油は，近代国家は，腕ずくでも確保せざるを得ないので，理由はどうであれ，イギリスがノルウェーに上陸を意図した時点で，ドイツ側は反撃せざるをえない。”ドイツの参謀将校の説得を試みることを勧める気にはなれない”という記述があるところからして，米国側でも，ノルウェー占領をドイツの謀略と決めつけるのは無理があることを暗に認識しているのかもしれない。
さらに，戦略的な理由により中立の目標の占領を試みることが許されるのであれば，日本人としても言いたいことがある。日本のアセアン諸国の占領は，決して肯定できないが，英，仏，蘭に日本のことをとやかくいわれる筋合いはない。帝国主義と帝国主義が衝突しただけ話。資源確保という戦略的な理由により占領を試みただけの話である。戦闘終了後も，日本が撤退せずに占領を継続した理由は，英，仏，蘭に奪還されることを防止するという戦略的な理由によるものである。征服と略奪の側面が100%無かったとはいわないが。事実，日本の敗戦の後，日本軍が撤退した後，英，仏，蘭は，アセアン諸国に上陸し，再占領を試みたではないか。これも，戦略的な理由よる中立の目標の占領と言い張るのであろうか？
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