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2024年04月13日09:30

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ぼくたちの北陸旅行

計画編
 北陸旅行は一昨年の秋に妻と二人で計画していた。それは出発一週間前に妻が体調を崩したために中止になっていた。そのときは「いつか仕切り直して行こう」と励まし合った。
 それから月日が経ったこの二月、ぼくは思った。「いつか」っていつだ? 年明け早々の能登地震によりキャンセル続きで北陸が困っている今こそ少しでも協力すべきではないのか? ぼくにできることってそれぐらいしかないんじゃないか? 地震直後、富山の宇奈月で女将をしている学生時代の後輩に連絡したところ、彼女のところはご家族も宿も大きな被害はなかったとわかった。だったら彼女の宿と金沢を巡る二泊三日の旅行でもしようじゃないか。ごく自然に妻とそういう話になった。
 そうと決まれば善は急げ。さっそく行程表を作り、宿の予約をした。直後に政府から「北陸応援割」の発表があった。ぼくたちの旅行も適用されるといいなあと心より願ったが、適用されなくても旅行には行くつもりなので、あまり気にしないで計画をどんどん具体的に決めていき、レンタカーや飲食店の予約などを進めた(結局適用されなかった)。

旅行編
 四月十日。大宮駅近くの駐車場に車を停め、大宮から新幹線で親高岡に向かった。そこでレンタカーを借りた。ホンダのフィットである。そこからは二日後に金沢駅で新幹線に乗るときまでずっと車の旅だ。現地でレンタカーを借りるというのぼくたちの旅行ではスタンダードである。
 さっそく白川郷に向かった。北陸自動車道を使ったのだが、城端サービスエリアから白川郷インターチェンジまでの約三十五キロは断続的にトンネルが続いた。というより、ほとんどがトンネルだった。走っているあいだ、これだけの距離のトンネルを掘った労力に呆然とした。
 途中のレストラン「てんから」で飛騨牛を味わい、それからお待ちかねの合掌造りの集落を散策。暖冬だったこの冬、四月ともなれば雪などまったくなく、青空の白川郷を楽しんだ。集落全体が絵のようだった。そして平日なのになかなかの人出だったのだが、それは外国人観光客だった。おそらく日本人は一割もいなかったと思う。世界中の言語にたじろいだ。
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 それから二時間弱、雪をいただいた立山連山に圧倒されながらドライブし、宇奈月温泉の宿にチェックイン。
 泉質が素晴らしく肌がツルツルしたが、そうしたことより後輩と三十年以上ぶりに再会できたことが嬉しかった。後輩は女将とはいえ宿とは離れた場所で小学校の教師をしていると聞いていた。なので無理に会おうとは思っていなかった。地震以来いろいろ大変だろうから無理してほしくないとも思っていた。しかし彼女はぼくたちが夕食を取っている席に現れた。三十分ほど互いの近況報告などを話しただけなのだが、とても親密なひと時に胸がいっぱいになった。
 四月十一日。朝食後にチェックアウトし、ゆっくりとしたドライブで金沢の兼六園に向かった。前日にテレビニュースが兼六園の桜が満開になったと報じていたが、その通りだった。兼六園は日本を代表する名勝地の一つだが、堂々たるというより心がなごむような景観だった。白川郷同様、日本人率一割程度の園内をゆっくり散策した。続いて隣にある加賀藩の金沢城跡地である金沢城公園も散策。さらにひがし茶屋街まで歩き、ランチを取ったりタイムスリップしたような街を散策した。ひがし茶屋街も外人だらけで、ランチを取った「ビストロ金沢とどろき亭」に至っては外人しかいなかった。
 それから石田漆器店に行って輪島塗りの夫婦箸を購入。「輪島塗の漆器を購入する」というのはこの旅行のメインの一つだった。自分にできる北陸支援として、そしてもちろん自宅で使える伝統工芸品を産地で買いたくて。
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 ホテルフォルツァ金沢にチェックインし、部屋で一休みしてから近江町市場をねり歩き、夕食に「赤玉 本店」で名物の金沢おでんを堪能した。そして倫敦屋酒場へ行った。
 倫敦屋酒場。今回の旅行で絶対にはずせないバーだった。これもメインの一つだった。海老沢泰久さんはエッセイ集『暗黙のルール』で、金沢を旅行して「倫敦屋酒場」を訪ねたときのことを書いている。だからぼくにとっては聖地巡礼の意味があるのだ。
 海老沢さんは倫敦屋酒場の居心地のよさについてこう書いている。
「ぼくはすわったとたんにここのカウンターがすっかり気に入ってしまった。すわるとカウンターがちょうど胸の位置になり、だらしなく頬杖をついて飲むにも、酔っぱらってそのまま突っ伏すにも、じつにぴったりの高さだったからだ。おまけに胸を押しつけても痛くならないように、カウンターにはレザーのクッションがはりめぐらしてあった。(中略)心地のよいカウンターに体をあずけ、だらしなく頬杖をついて、じつにいい気持で飲んだ」
 ぼくもカウンターにすわり、カウンターのレザーのクッションの感触を味わった。店内に飾ってある海老沢さんのサイン色紙もしっかり確認した。
 それからライトアップされた夜桜を見に兼六園を再訪した。日本人と外国人の割合は昼夜で逆転した。外国人はツアーが多いからではないだろうか。
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 四月十二日。予定は石川県立図書館を見学し、併設されているカフェで能登ミルクのジェラートを食べることだけだったので、ホテルフォルツァ金沢での朝食ビュッフェものんびり楽しんだ。
 石川県立図書館。入ったとたん、感動で卒倒しそうなほど驚くべき図書館だった。吹き抜けの天井が桁違いに広い空間を作っており、全体的に円形劇場のようだった。
 館内のあちこちにいろんなタイプの椅子や机が設置され、居心地良いことこの上ない。個室感のある自習机も多数あった。こんな図書館が地元にあったら、ぼくは毎日来て心ゆくまで過ごすことだろう。周辺住民がうらやましくなった。ぼくにとっての100パーセントの図書館は金沢にあったのだ。
 感激でドキドキしながら館内のを散策し、予定どおりカフェ「ハムアンドゴー」で能登ミルクのジェラートを楽しんだ。
 余談だが、先日ある文学賞を受賞したぼくの小説は、新所沢パルコの地下にUFOが埋まっているという設定の物語だった。この図書館は小説のとおり直径約五十メートルほどのアダムスキー型で、そのことが愉快だった。
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 ぼくたちの旅行はあちこち訪ねるものの、いつも一つひとつにたっぷり時間をとっているので慌ただしくない。今回もそのように過ごせた。
 飛騨牛や能登豚、ホタルイカ、金沢おでん、ます寿司といった名物だけでなく、天気に恵まれ、満開の桜でもお腹いっぱいになった旅だった。そして実感した。金沢は金沢駅から兼六園にかけてを中心に、驚くほど栄えており活気がある。金沢は北陸の東京である。
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