丸善の丸の内本店に行く用事があったので、霞ヶ関まで足を伸ばして東京地裁で裁判を傍聴してきた。これで裁判傍聴は七度目となる。
時間の余裕がなかったので傍聴できたのは一件だけだった。「常習累犯窃盗」という罪状の審理だった。被告は三十代後半と思しき太った男性。
新件ではないので事件の経緯は詳しくは分らないが、法廷内でのやり取りで少しずつ分ってきた。被告の母親が証人となり、検察官と弁護士から質問を受け、証言していたからだ。
被告は本件の前にも罪を犯しており、府中刑務所に服役していたようだ。しかし出所したその足でまた罪を犯して逮捕されたらしい。一緒に住んでいた母親は刑務所からまっすぐ帰ってくるものだと思っていたので裏切られた気持ちだと語っていた。
これだけ聞くと情状酌量の余地なしの印象を受けるが、そんな簡単な話ではなかった。被告はどうやら精神病を患っているようで、まず十五歳のときに飛び降り自殺を計っている。一命は取りとめたものの、それ以来メンタルクリニックに通い続けているらしい。「歯が痛い」と言って正露丸を一箱丸々飲んでしまったり、「誰かの声が聞こえる」と言ってベランダにマットを持って行ってそこで寝たりしたこともあると語っていた。母親が証言台に立って証言しているあいだ、被告の手はずっと震えていた。
これで結審するわけではないので、今後どう展開するのかはぼくには分らない。ただ裁判を傍聴していつも感じるのは、映画やドラマと違って、現実の重みがあるということである。
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