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2016年08月04日16:23

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編集者の本当の仕事(その8)

 洋服屋の本当の仕事とは何だろうか。
 編集者の仕事について書くのに飽きたわけでも、もう、これ以上は書くことがない、と、ごまかそうとしているのでもない。少し寄り道がしたいだけだ。
 さて、洋服屋の本当の仕事というのは何だろうか。洋服を売って儲けることだろうか。確かに、洋服屋なんだから、それを売って儲けなければ話にならないかもしれない。しかし、売れればいいと安売り、押し売りを繰り返していたらどうだろうか。その店はやって行けるものだろうか。
 洋服屋は、本当は、お客の人生に少しのアドバイスをしているのではないだろうか。この服のデザインは太り過ぎの今のあなたには合わない。この服の色は地味なあなたには合わない。この服はあなたの暗い性格を少しは明るくしてくれるかもしれない。あるいは、その年齢のあなたがパーティに行くなら、少し贅沢なレストランにデートで誘われたのなら、リクルートなら。
 洋服屋は、お客によって、お客の用途によって、お客のニーズによって、時には、お客よりもお客のことを知りながらアドバイスをするものなのだ。それが本当の洋服屋の仕事なのだ。ところが、最近は、量販店ばかり、そうしたテーラーは、逆にやって行けない。お客のほうも、そうしたベテランのテーラーの言うことは聞かずに、自分の良いと思うがままで良い、と、そう思ってしまっている。客観的な事実に目を背けて、もう、とっくに似合わなくなった若作りとか、体型に合わない服を選んでしまっているのだ。
 そうなると、洋服屋のほうも、余計なアドバイスなどする必要もないので、安い、多様、便利と、別な価値をお客に提供しようとするようになる。
 さて、編集者にとっては、作家はお客なのだ。しかも、このお客は吊るしてある服を買うお客でもなければ、イージーオーダーで服を買うお客でもないのだ。仕立てで服を作る大切なお客なのである。
 ゆえに、編集者は知らなければならない。作家以上に作家のことを。自分を客観的に見ることの出来ない作家以上に、その作家のことを知ることは、編集者の大切な仕事なのである。
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