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2019年04月22日16:37

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遠い記憶のエロ小説、その3

 町工場の社長の娘がいた。中学一年の時だった。筆者はその工場に通っていた。その娘のところに通っていたというよりも、工場に通っていたのだ。工場には仕事があった。それが何の部品だったかは分からなかったが、同じ形の物を同じ数だけケースに入れるという細かい仕事だった。古いソファーの置かれた工場裏の汚い部屋でそれを行った。アルバイトではない。お金は出ないのだ。筆者は、ただ、その社長の娘とその弟の仕事を手伝っていたのだ。国語が得意だった筆者はその娘と弟に勉強を教えたりもしていた。
 仕事を手伝い、勉強も教えるので、娘の両親にはずいぶんと気に入られていた。今から思えば、共稼ぎで夜の遅い筆者の両親と親同士の話し合いがあって、彼らは無料で筆者を預かってくれていたのかもしれない。
 工場の仕事には、娘はすぐに飽きてしまう。集中力のない娘だったのだ。一つ下の弟にも懐かれていたが、彼も、また、すぐに飽きてしまい、二人でいなくなる。二人がいなくなっても、筆者はコツコツと仕事を続けていた。効率良くその仕事をする方法を自分なりに工夫したりもしていた。そこまでして、その仕事に拘るのには理由があった。それは、その仕事場の部屋の棚に筆者の好みの本があったからなのだ。本には全てブックカバーがかけてあった。金儲けの方法のような胡散臭いビジネス啓蒙本も多くあったように記憶するが、それらに混ざって、かなり際どいエロ小説が並んでいたのだ。
 娘と弟がいなくなると、そのスキに筆者は本を替える。同じような大きさの本を持って来ておいて、読みたい本のカバーを取って、持って来た本に替えて、元の場所にもどし、そして、カバーを取ったその本を借りて帰るのだ。しばらくして、再び、その本のカバーを替え、元にもどしておけば気づかれないのだ。
 どんな本がそこにあって、どれぐらい借りていたのか、その記憶は定かではないのだが、一つだけ、そのストーリーをしっかりと記憶しているものがあるのだ。
 女三人の奴隷になった女の話だった。女が女を奴隷にするのだ。レズビアンのようなシーンもあったし、緊縛などもあったのかもしれないが、そうしたシーンの記憶はない。記憶に残っているのは、女三人が男のお客をとって、三人の見ている前で奴隷の女とセックスさせるというシーンだった。
 女たちは、そこにいる男はお客さんのはずなのに、そのセックスを見て言いたい放題していた。
「今日のお客さんはアソコが小さいから、お前も楽でいいねえ」
「え、俺の小さいのか」
「小さいわよ。でも、大丈夫よ。この娘は淫乱だから、小さいのも嫌いじゃないのよ。ねえ、そうでしょ」
 その逆のこともあった。
「まあ、大変。こんなに大きいなら特別料金を頂くべきだったわ」
「商売女相手でも、よく断られるんだよ」
「でも、大丈夫よ。この娘は私たちには逆らえないから、アソコが裂けたって我慢するんだから。ねえ、そうよね」
 確か、この本だけは、一度返して、しばらくして、また、同じものを借りて帰って読んだりしていた。何度そうしたことを繰り返したのかは覚えていない。
 娘の親の家で夕食をご馳走になることは少なくなかった。その夜も、筆者は娘の家族と食事をしていた。
「もっと、勉強をきちんと教わらないとな」
 と、社長が言った。それに対して「本当に、頭いいものね。この前なんか、私にも読めない漢字を読んでもらったのよ」と、奥さんが言った。忘れもしないその漢字とは「譲渡」だった。それに対して社長がこんなことを言ったのだ。
「何しろ、大人が読むような本をすでに、たくさん読んでるんだからなあ」
 本は確かにたくさん読んでいた。中学生にしては難しい本も読んでいた。その時には、単純にそのことだろうと思ったのだが、その時の筆者のカバンには、あの小説が入っていたのだ。もしかしたら、娘の父親であるところの社長は、知っていたのかもしれない。こっそりと危ない本を借りて筆者が読んでいたことを。しかし、そうだとすれば、彼はそんな筆者に娘を近づけることを危険だとは思わなかったのだろうか。
 いや、もしかしたら、彼は、もっと恐ろしい妄想に捉われて筆者をそこに置いていたのかもしれない。いずれにしても、娘のことも、社長のことも、そして、そこにあった小説のことも、遠い記憶の底のエロでしかないのだ。
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