３月１０日が来るたびに

ライト兄弟の頼りなげな初飛行から、たった４０年の間に航空機は驚くまでに発達した。
より沢山のものをより遠くへ、より高くへと運べるようになった。
６５年前の今日、３月１０日、サイパン島、テニアン島およびグアム島から飛び立った３００機を越えるＢ-２９爆撃機が、大量の焼夷弾を積んで、遥か「東京」の上空へと襲来した。投下された焼夷弾によって、東京の家々は焼き尽くされ、１０万人とも言われる市民が死んだ。

一夜にして、ひとつの都市が「焼失」したのだ。
この破壊力は恐るべきものだが、真に恐るべきものは、破壊力を進化させていく人間の能力と意志の方かも知れない。東京大空襲の５か月後には、ひとつの都市を「消失」させるのに、１機の飛行機と１個の爆弾さえあれば充分なまでに、「道具」は「進化」した。

その後も、進化は進む。爆弾は「弾頭」と呼ばれるようになり、その運搬のためには、もはや「乗員」は必要ではなくなった。その飛翔距離は地球の全周を遥かに超えるまでに至った。必要であれば、巨大な破壊力を他の惑星に届けることさえ、技術的には何の困難もないまでになった。

この驚くべき進化に比べたら、人間が平和を構築する能力は、この１世紀の間に、いったいどれだけ進歩しただろうか？

核ミサイルは、もはや大国だけの独占物ではなくなってしまった。

我々は、どこにいるのか。
我々は、どこから来たのか。
我々は、どこへと向かっているのか。

そんなことについて、一年に一夜だけ考えるのも、悪くはないと想う。

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あの夜が、今夜のように雪の空であったならば、あの夜に１０万人の人々が死ぬことは、なかったのかも知れない。

【２００６年】
＜３月１０日が来るたびに（２００６年）＞
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