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2026年10月17日18:45

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「極楽特急」エルンスト・ルビッチ〜泥棒カップルの傑作ロマンティック・コメディ〜

エルンスト・ルビッチの監督作品にはハズレがないような気もするが、この1932年製作の『極楽特急』もまぎれもない傑作ロマンティック・コメディである。なんで邦題に「特急」がついているかは不明。列車も出てこないのに。思えばハワード・ホークスの『特急二十世紀(Twentieth Century)』(1934)やヒッチコックの『バルカン超特急(The Lady Vanishes)』(1938)という「特急」を邦題に付けた映画もあったが、どちらも列車が舞台になっているから、このタイトルは納得。でも本作は謎。当時日本では「特急」という列車に、何か幸せな世界に連れて行ってくれるゴージャスな憧れのようなものがあったのかもしれない.。それで夢のような「特急」と邦題に付けるケースが多かったのか?原題は「Trouble in Paradise」。うまくいっているカップル(楽園)の予期せぬトラブル…といった感じか。本作は泥棒カップルの話である。

男爵になりすました泥棒のガストン・モネスク(ハーバート・マーシャル)は、伯爵夫人を装う美しいスリのリリー(ミリアム・ホプキンス)とヴェニスで出会う。医師に扮するガストンは、パリの富豪フランソア・フィリバ(エドワード・エヴェレット・ホートン)に近づき、扁桃腺を診ると偽り、2万リラ入った彼の財布を盗む。その盗んだ財布を今度はリリーが盗み、アクセサリーや懐中時計をお互いが盗み合い、お互いの正体を知ったガストンとリリー、二人は、意気投合して恋に落ち、コンビを組んでパリに向かう。

そしてパリの大きな香水会社「コレ」の未亡人マリエット・コレ(ケイ・フランシス)から12万5千フラン相当のダイヤがちりばめられたバッグを盗み出す。ケイ・フランシスがエレガントで美しい。マリエットが高額な報酬を出すことを知ったリリーは、ガストンにそれを知らせて、2人はバッグを返して2万フランを受け取ろうとする。そして、マリエットに取り入り、秘書とその助手として入り込む…。マリエットがガストンと親密になることを心配する、コレ社の最高責任者アドルフ・J・ジロン(C・オーブリー・スミス)は、素性の知れない彼のことを警戒する。そんなジロンの忠告も聞かないマリエットの心を捉えたガストンは、彼女にさらに大金を金庫に保管するよう指示し、リリーと共に強盗計画を実行するのだが・・・。

マリエットは真面目にお金の管理の仕事をするガストンを気に入り、ガストンもマリエットの美しさに惹かれていく。そんな二人にヤキモチを妬くリリー。泥棒カップルと金を盗むターゲットとなっている美しき未亡人との三角関係。ストーリーは単純なものだ。それでも“ルビッチ・タッチ”と言われるシャレた演出は随所に見られる。楽譜をめくるショットで演奏の時間経過を見せたり、針が動く時計を映しながら、時間経過とガストンとマリエットの会話だけを聞かせ、二人の親密さの進行ぶりを想像させる。省略と想像だ。そして各部屋の扉の使い方が上手い。「おやすみなさい」とそれぞれの部屋に入る扉の鍵を閉める音の時間差で、待っている恋の気持ちを表現する。ニクイ演出だ。

ベニスで財布を盗まれたフィリバがガストンの前に現れて、正体がバレそうになって逃げだそうとする二人。リリーと本音を話せる部屋へとガストンは階段を何度も駆け上がる。マリエットがガストンの部屋を訪れ、逃げ出すと決めたガストンに恋心を示す。マリエットは「明日の予定は?」と聞いて、これからの二人の恋に心をときめかせる。二人の口が触れそうな至近距離での会話がセクシーだ。招かれている夜の食事会に行くかどうかで揺れるマリエットとガストンのやり取り。迎えの車が来たと告げに来る執事に、扉を開けて、「食事会に行く」「行かない」と、二人の言うことがそれぞれ違う。部屋にいるのに電話に出ない二人。旅支度をしながら心配するリリー。至近距離だった二人の顔はマリエットの「キスして」の一言で、接し合う。キスする二人の姿を鏡に映し、影でも見せる。

正体がバレて、最後に捨てゼリフを吐いて去っていくリリー。それを追いかけるガストン。扉を開けずに階段を降りていく音だけを聞いているマリエット。そしてまた階段を駆け上がってくる音が聞こえてガストンが現れる。そこでガストンの別れの言葉。扉や部屋を上手く使いながら、全部を描かない。扉の向こうの映像を想像させる演出がオシャレなのだ。ラストはお互いから盗み合ったものを披露しあうガストンとリリーが車の中で抱き合う場面で映画は終わる。泥棒カップルのヴェニスで出会ったときの反復である。省略と反復、そして扉の向こうを見せずに想像させる演出。「ルビッチ・タッチ」を堪能できる傑作である。


1932年製作/アメリカ/83分
原題または英題:Trouble in Paradise
配給:パラマウント支社輸入

監督:エルンスト・ルビッチ
脚本:グローバー・ジョーンズ
脚色:サムソン・ラファエルソン
原作戯曲:ラスロ・アラダール
撮影:ビクター・ミルナー
キャスト:ミリアム・ホプキンス、ケイ・フランシス、ハーバート・マーシャル、チャールズ・ラグルス、エドワード・エベレット・ホートン、C・オーブリー・スミス、ロバート・グレイグ
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