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2026年10月15日20:37

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「快楽」マックス・オフュルス〜人間の欲望と愛の矛盾を俯瞰的に〜

フランス映画らしい優雅で欲望に忠実で人間喜劇的に人生を俯瞰的にみる視点が面白い。ギイ・ド・モーパッサンの短篇三つ『仮面』『メゾン・テリエ』『モデル』を映画化したオムニバス作品で、1952年のマックス・オフュルス監督の傑作。マックス・オフュルスは、ドイツ生まれのユダヤ人。ドイツで何本か映画を製作した後、ナチスの台頭でフランスに亡命。その後、第二次世界大戦中の1941年に渡米し、戦後に『忘れじの面影』(1948)などを製作。1950年フランスに帰国。以後、『輪舞』(1950)、本作『快楽』(1952)、『たそがれの女心』(1953)、『歴史は女で作られる』(1955)と後期の代表作を発表した。

「夜と闇を愛する者には、暗がりで語るのが無上の喜び。あなたと隣りにいるような気がするでしょう」と、真っ黒な画面とナレーションで映画は始まる。「語りは作者である私自身」と宣言し、俯瞰的な作者(モーパッサンであり、マックス・オフュルス)の位置から3つの物語を進行していく。

第一話は「仮面の男」。夜の煌びやかンダンスホールが舞台。オーケストラの音楽が響き渡り、着飾った男女が享楽を求めて集まってくる。その中の一人の若い男が小走りでやって来る。ろう人形を思わせる「まるで風俗画の青年のパロディだ」と語りが入り、男はダンスホールでグルグルと回りながら女性と勢いよく踊り始める。長回しのカメラでその踊る様子を映し出す。踊りが最高潮に達し、その華やかさのなかで男が突然倒れる。倒れて運ばれた男は、仮面を被った老人だった。医者(クロード・ドーファン)が彼を家に運ぶと、そこには老いた妻(ギャビー・モルレー)がいて、若い頃から女にモテて遊び続けた夫は、その思いが忘れられず、若い男の仮面をつけてダンスホールに通っているのだと言う。そんな女好きの夫を今でも愛している老妻と、若さへの思いを捨てられない哀しき男の人生が、短いエピソードながら沁みてくる。

第二話は、「メゾン・テリエ」。男たちが遊びに来る娼婦の館の女たちの物語だ。娼婦の館を説明するのに、カメラは窓の外からクレーンショットでそれぞれの部屋を映しながら、語りとともに女たちを紹介していく。そんな人気の館メゾン・テリエがある夜、閉まっていた。男たちが次々とやって来るが、店が閉まっているのを知って残念がる。せっかくの「土曜の夜なのに」と愚痴を言いつつ、常連客の男たちは帰る気になれず、公園を散歩して港で「夜の海がきれいじゃないか」とみんなで椅子に座って語らうのだ。男たちの連帯といった感じがなんとも可笑しい。ところが次第に男たち同士の喧嘩が始まり、それぞれ文句を言いながら帰っていく。諦めきれずに館に戻ってきた一人の男が、マダム(マドレーヌ・ルノー)が名付親になっている弟の娘の初聖礼拝受式に出るため、田舎へ帰るという貼り紙を見つける。

汽車で田舎へと行く館の女たち。その派手な服装の女たちの雰囲気に、汽車に乗り込んだ老夫婦も眉を顰め、ガーターベルトを売りつけようとする好色な商人と汽車の中でひと悶着。マダムの弟役にジャン・ギャバン。村の教会は突然の美しい華やかな都会の女たちの出現で、空気が一変。弟のジャン・ギャバンも鼻高々。初聖礼拝受式が始まり、清楚な少女の姿を見た娼婦達は、過ぎし日を思い起して次々と泣き出す。その涙は教会全体に波及し、異様な感動につつまれる。女性たちに感謝を伝え、上機嫌のジャン・ギャバンは、酔っぱらって娼婦の一人に夢中になるが、マダム一行は2日も館を休めないと言って、さっさと帰っていく。帰りの草原で女たちは花を摘み、走って汽車を見送るジャン・ギャバン。彼の帽子の花と花で飾られた馬車が物悲しい。そしてその夜、メゾン・テリエの館はいつものように男たちで賑わっていた。前夜に残念そうに家に帰った男も、嬉々として館へと出かけていくのだった。女たちと遊ぶのが大好きな男たちの無邪気な欲望と、娼婦となって失ってしまった女たちの無垢なる心が田舎で露わになる人生の機微。田舎道の野山を女たちを乗せて走る馬車が美しい。都会の男たちの欲望と華やかな女たちと田舎の素朴さが、彼女たちが摘んだ花とともに描かれる。

第三話は「モデル」。無名の画家ジャン(ダニエル・ジェラン)は、偶然モデルのジョゼフィーヌ(シモーヌ・シモン)を使って立派な画を完成したことから、一躍有名になった。愛し合って一緒に暮らしはじめたジャンとジョゼフィーヌだったが、次第に喧嘩が始まる。ジャンは家を出て友人の家に居候することにする。愛を諦めきれないジョゼフィーヌは、ようやくジャンの居所を探し当てる。友人は彼女に彼をあきらめさせようと、ジャンは結婚するのだと話した。ジョゼフィーヌは結婚するなら死ぬと脅したが、ジャンは信じなかった。女は窓から飛び下り、死にきれずに両足を折った。数年後、ある海岸に車椅子に乗ったジョゼフィーヌを押して行くジャンの姿があった。「愛と名声と富を手に入れたのに」、「幸福とは悲しいものなのさ」と友人は語る。

快楽と愛の対立、快楽と純潔の出会い、そして快楽と精神的な死。快楽を求めつつ、愛の持続も幸福もままならない。愛とは?快楽とは?人間という存在の矛盾と皮肉を俯瞰的に描き出す手腕は見事だ。


1952年製作/フランス
原題または英題:Le Plaisir
配給:東宝

監督:マックス・オフュルス
脚本:ジャック・ナタンソン、マックス・オフュルス
原作:ギイ・ド・モーパッサン
台詞:ジャック・ナタンソン
撮影:クリスチャン・マトラ、 フィリップ・アゴスティニ
美術:ジャン・ドーボンヌ
音楽:ジョー・エイオ
キャスト:クロード・ドーファン、ギャビー・モルレー、ジャン・ギャラン、マドレーヌ・ルノー、ジネット・ルクレール、ミラ・パレリ、ダニエル・ダリュー、ピエール・ブラッスール、ジャン・ギャバン、ポーレット・デュボスト、ジャン・セル、ダニエル・ジェラン、シモーヌ・シモン、ジャン・セルベ
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