1953年製作、サミュエル・フラーのフィルム・ノワールの傑作だ。面白い。第14回ヴェネツィア国際映画祭で銅獅子賞を受賞。サミュエル・フラーと言えば、ジャン=リュック・ゴダールの『気狂いピエロ』(1965)に出演し、「映画とは何か?」との質問に「映画とは、戦場のようなものだ。愛、憎しみ、アクション、暴力、そして死。要するに、エモーションだ」と答えたことは有名。『最前線物語』(1980)など男たちの戦いのアクション映画が多い。
オープニングから緊張感のあるサスペンスが展開する。地下鉄の混んだ車内で、一人の女を見つめる二人の男のアップが交互に映し出される。そのうちの一人の男が女に近づき、新聞を読みながら女のバックに手を伸ばす。スリだ。手元と男と女のアップが切り返され、それを見たもう一人の男が表情を変える。スリは財布を盗んで列車から降り、もう一人の男が追いかけようとするが扉が閉まる。財布には極秘の政府の機密情報を写したマイクロフィルムが入っていた。元カレで弁護士のジョーイ(リチャード・カイリー)の最後の頼みを聞いて、キャンディ(ジーン・ピータース)はマイクロフィルムが入った封筒を届けるところだったのだ。ジョーイは企業の特許情報だと言うが、共産主義のスパイ組織で政府の情報を幹部に渡そうとしていたのだ。その動きを知っていたFBIの捜査官ザラ(ウィリス・バウチイ)が車内で女を見張っていたのだ。
機密情報のことなど何も知らないで財布を盗んだスリのスキップ(リチャード・ウィドマーク)、赤色スパイ活動だと知らされずに機密情報を運ばされていた女・キャンディ(ジーン・ピータース)が、赤色スパイを摘発しようとする警察やFBIと、ジョーイたちの共産主義スパイとの攻防に巻き込まれていく。スリの情報屋の婆さんモー(セルマ・リッター)がいい味を出している。「無縁墓地に埋葬されるなんて、死んでも死にきれない。いい墓を買うんだ。」と言って男たちにネクタイを売り歩き、鉛筆をナメながらメモをし、スリの情報を提供して金を稼ぐ。警察からスキップのことを聞かれて金をもらい、キャンディからも聞かれて金を得るのだが、赤色スパイのジョーイが聞きに来たときは、「アカ(共産主義者)に教えるのだけはご免だね」と言って、撃たれて死んでしまう。遺体となって無縁墓地に埋葬されそうになるのを、スキップが金を出して引き取って、葬式を出してやるのだ。
掏られた女と掏った男が恋仲になるのも面白い。海辺の小屋にいるスキップの居場所を聞き出して、単身で財布を取り返しに来たキャンディはスキップに殴られるのだが、スキップはキャンディの痛めた頬をさすりながら顔を近づけてキスをする。敵対関係にありながら、お互いに惹かれあう二人。さらなる金を要求するスキップと依頼主であるジョーイから金をもらって再び会いに来るキャンディ。二人の距離が近づいては、敵対関係になって冷たく突き放すアクションの繰り返し。最後に、マイクロフィルムを持ってジョーイから金を得ようとしたスキップを、今度はキャンディが瓶で殴り倒し、マイクロフィルムを奪って警察に渡す。金の実益と愛との微妙なバランスが二人の間で揺れ動く。
あくまでも組織の幹部を捕まえたい警察とFBIは、キャンディにマイクロフィルムをジョーイに渡すよう指示する。警察に利用されるのだ。ジョーイのもとに戻ったキャンディだが、マイクロフィルムの一枚がなくなていることが分かり、ジョーイからスキップの居場所を教えろと、彼女の殴る。居所を教えないキャンディを殴り続け、逃げようとする彼女をジョーイは拳銃で撃つ。この暴力シーンがなかなか凄い。男同士の殴り合いではなく、男が女を殴り、撃ち殺そうとするのだ。キャンディは命を取り留め、スキップが病院に見舞いに来て、痣だらけの顔のキャンディとキスをする。キャンディを撃って、荷物用の小さなエレベーターに隠れるジョーイと警察との追跡のやり取りも見せ場だ。
スキップの居場所となった海の上の小屋も効果的に使われている。大事なものは、海に沈めたビールケースの底に隠してあり、紐で引っ張り上げて取り出すのだ。小屋に入るときは渡した板の上を歩き、その足音を聞いてスキップは誰が来たか判断する。最後は再び、地下鉄の車内。スキップがジョーイのポケットからスリで拳銃を盗み、マイクロフィルムの受け渡しを阻止する。そしてジョーイとスキップの殴り合いとなり、地下鉄のホームから線路に降りてまで続けられる。走る地下鉄と暗い地下の線路での男たちの殴り合いは、なかなか壮絶だ。サミュエル・フラー演出の真骨頂だろう。
反共産主義的な映画であり、あらためてサミュエル・フラーの思想信条を調べてみると、「ジェファーソン的民主主義者を自任するリベラリストであったフラーは、右翼からは「親共産主義的」と批判される一方、左翼からは「共産主義者を悪人として描いている」と非難されるなど、特定の政治思想に染まらない複雑な人間描写を貫いた」とある。この『拾った女』は、赤狩りの嵐が吹き荒れる中で製作され、当時の世相が反映されているといえるのだろう。本作では、共産主義を敵とする社会を描いているが、主役のリチャード・ウィドマークは、政治や国のためではなく、それらの政治抗争に巻き込まれながら、個人的な金や女のために生きている男として描かれており、女のジーン・ピータースも敵か味方かではなく、敵対する男を好きになる世俗的な女として描かれており、そこに人間としての生々しさがある。
1953年製作/アメリカ
原題または英題:Pickpocket
配給:20世紀フォックス極東会社
監督・脚色:サミュエル・フラー
原作:ドワイト・テイラー
製作:ジュールス・シャーマー
撮影:ジョー・マクドナルド
美術:ライル・ウィーラー、ジョージ・パトリック
音楽:リー・ハーライン
録音:ウィンストン・H・レヴェレット、ハリー・M・レオナルド
キャスト:リチャード・ウィドマーク、ジーン・ピータース、リチャード・カイリー、セルマ・リッター、マービン・バイ、ウィリス・バウチイ、iミルバーン・ストーン、ヘンリー・スレイト、ハリー・カーター、ジョージ・E・ストーン、ジョージ・エルドリッジ、スチュアート・ランドール
☆☆☆☆4
ログインしてコメントを確認・投稿する