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2026年09月22日16:07

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テレビドラマ『Tシャツが乾くまで』のユニークさ

少し時間が経ってしまったが、2026年7月クールのTBS金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』(脚本・生方美久)は、ユニークなドラマだった。2026年1月クールの今泉力哉の『冬のなんかさ、春のなんかね』(日テレ)が、一人の女性の過去の恋愛遍歴も含めて、現在進行中の恋に真面目に向き合えない女性・杉咲花の葛藤が描かれたユニークなドラマだったのに続いて、『Tシャツが乾くまで』は、結婚という形にとらわれない男女のあり方が描かれた現代的なドラマだった。恋は夢中になるものであり、幸せに結びつくとされ、その先に「結婚」というゴールが設定され、これまで多くのドラマ・映画が製作されてきた。ハリウッド映画のほとんどは、「恋愛」=「結婚」=「家族」=「幸福」という図式が維持され、その唯一無二の幸せの根拠となる「守るべき家族のために」に、戦い、奮闘し、家族を壊す邪悪なるものを叩き潰し、勝利を収めてきた。

他者に対して恋愛感情や性的欲求を抱かないアセクシュアル(Asexual)やアロマンティックなどのセクシュリティが描かれることも最近増えてきたが、今でも多くの人々が、制約や病気や運命に抗い、「究極に燃え上がる愛」や「純粋なる恋愛」を求めて、映画やドラマを見る。『冬のなんかさ、春のなんかね』のように、多くの男性に恋心を感じてしまう主人公の杉咲花は、視聴者の共感を得られないし、『Tシャツが乾くまで』は、結婚というあり方そのものへの問いかけのドラマだった。不倫という結婚から外れた恋愛に邁進する男女を描くことすらも、ドラマは視聴者を裏切っていた。不倫という結婚している男女の愛は、これまでも多くの題材になってきた。そこには結婚という形そのものが不純なものになり果てており、不倫にこそ純粋な愛が描かれる場合が多かった。しかし、不倫ドラマのようなほのめかしで始まった『Tシャツが乾くまで』の松山ケンイチと夏帆の毎週のコインランドリーでの逢引きとバス旅行の旅は、早々にして「不倫ドラマ」を否定していった。つまりこれは、「大切な人だからこそ言えない秘密」、「大切な人を失いたくないからこそ言えないこと」を、「他人だから話せる気楽さ、話しやすい相手」というスタンスで男女が友達のように出会い、親しみを感じ、仲良くなるという関係が描かれていた。男と女が仲良くなれば、必ず恋に発展するというセオリーが裏切られていくのだ。一般の人々や世間が、「恋愛関係でなく、いつも一緒にいる既婚者の親しき男女」を「不倫」という色眼鏡で見てしまう現実を批評的に描いていた。

そしてこのドラマは、人間多面的な意外性を描いた。妻や夫という身近にいる存在が、かならずしも自分が知ってる「夫」や「妻」ではないということを知るドラマでもあった。知ったつもりになっていた身近な存在が、裏切られていくこと。他人はそう簡単にわかることができないというテーマだ。一方で、詐欺師でもない限り、すべてが「嘘」であるわけではない。瀬尾充(松山ケンイチ)の前で過ごした瀬尾咲子(蒼井優)は、まぎれもなく瀬尾咲子であるし、充の前では見せない瀬尾咲子がいたとしても、それもすべてひっくるめて、瀬尾咲子という人物なのだ。自分の前で見せている「顔」が、すべてではないことを知ったうえで、一緒にいるしかないのだ。人間はそれぞれ、相対する関係によって「顔」を変える。そんな多面的な存在であることを、ドラマ的な意外性をもって描いていった。充(松山ケンイチ)が、妻の瀬尾咲子(蒼井優)のことをわからなくなって、仕事、友人関係など一同に集めて、彼女をことを聞くシーンがあった。仕事の上司で古くからの知り合い 臼田あさ美、古書店店主のリリー・フランキー、親しき相談相手の中島歩、カフェ従業員の 高橋文哉などを集めて、それぞれから瀬尾咲子像を聞く場面が演劇的で面白かった。関係の数だけ瀬尾咲子はいるのだし、不自然なことでも何でもない。いろんな「顔」を持つことそのものは、その人の魅力だったりもするのだ。ただ、このドラマの場合は4度の離婚歴という極端な設定で視聴者を驚かせた。

松山ケンイチと夏帆、蒼井優と中島歩という二組のカップルがいずれも同じような親しき男女関係となり、ともに恋愛関係には発展しない。そこから松山ケンイチの異様な失踪癖と蒼井優の4度の離婚経験という過去が明らかになり、お互いの秘密を知ってしまったことから、二人は夫婦関係を解消するという話になっていくのだ。お互いが気を遣い過ぎて、ギクシャクしない「ほど良い距離感」を大事にしようと、松山ケンイチは家を出て行く。蒼井優も一人で生きていく決意をする。お互いに愛を失っていないのに、別れてそれぞれが生きていくという決断を二人は選ぶ。恋愛がお互いを縛り付けてしまうという現実から自由になるために、それぞれの道を生きていくという選択。「恋愛=結婚=幸福」という図式を意識的に踏み外し、自由に一人で生きるという新たな価値観を提示する。それぞれまたいつか結婚するかもしれないし、それはわからない。失踪癖や4度の離婚と極端な設定で、リアリティよりも、演劇的な展開にしつつ、「結婚=幸福」という価値観から自由な生き方を見せたところがユニークだ。そのユニークな設定を、蒼井優、松山ケンイチ、中島歩、夏帆という役者たちが魅力的にそれぞれの人物を演じてみせた。意外性で見せていくテレビドラマらしい手法で毎週視聴者を引っ張りながら、意外な人間像、新たな生き方の選択で着地するユニークなドラマだった。このように既成の価値観から自由になろうとしたドラマの誕生を今後も応援したい。


製作・プロデューサー:千葉行利、宮川晶
製作 ケイファクトリー、TBS
企画 TBS【編成】:佐久間晃嗣、荒木沙耶
脚本 生方美久
演出 土井裕泰、塚本連平、小牧桜
出演者:蒼井優、中島歩、高橋文哉、齋藤飛鳥、庄司浩平、飛永翼(ラバーガール)、久保田薫、夏帆、臼田あさ美、リリー・フランキー、松山ケンイチ
音楽 haruka nakamura
エンディング曲 スピッツ「見知らぬ糸」
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