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2026年09月03日16:39

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「ストレンジャー」(1946)オーソン・ウェルズ〜大時計がある高い塔の上で〜

『市民ケーン』(1941)、『偉大なるアンバーソン家の人々』(1942)に続いてオーソン・ウェルズが撮った本作『ストレンジャー』(1946)は、いたってシンプルでわかりやすいサスペンス劇だ。オーソン・ウェルズ自身が市民に成りすまして逃げているナチスの残党を演じており、追いかける男がエドワード・G・ロビンソン、連合国戦犯委員会のウィルソンを演じている。エドワード・G・ロビンソンが出ていたフリッツ・ラングの傑作『スカーレット・ストリート』が1945年製作なので、本作はその翌年になる。美女に人生を狂わされた真面目な男から、今度はナチの残党を追い詰める熱い男を演じている。冒頭からパイプを机に叩き付けて、「今こそ悪の根源を断ち切るのだ」と激しい。この折れたパイプがウィルソンという男を象徴させている。

元ナチスの収容所長マイネケ(コンスタンティン・シェイン)を意図的に脱獄させて、彼を囮にしてナチスの戦犯フランツ・キンドラ(オーソン・ウェルズ)を見つけ出そうと連合国戦犯委員会のウィルソン(エドワード・G・ロビンソン)は考えた。冒頭の船を降りたマイネケを尾行するくだりが、光と影を使った映像演出と動きの編集が素晴らしい。船を降りるマイネケを捉えたカメラが上昇すると、女が男の指示を受けて、マイネケの尾行を始める。光と影の中で路地を歩く男を尾行する女。窓から見えるシルエットの帽子の男がウィルソンに電話をし、マイネケがパスポートを作ってどこかに渡ろうとすることを報告する。「病気療養のためです」と入国理由を繰り返して練習するマイネケは気の小さな弱々しい男に思えたが、写真屋のナチス仲間にキンドラの居場所を尋ねる場面は、ナチスの上官に戻っていて「党の命令に背くのか?」と恫喝する。この人間の一瞬の変化が恐ろしい。

フランツ・キンドラはドイツでの自分の証拠をすべて消し、アメリカのコネチカット州の小さな町で、「チャールズ・ランキン」という偽名を使って、地元で教師として生活していた。そして最高裁判事アダム・ロングストリートの娘メアリー・ロングストリート(ロレッタ・ヤング)との結婚を控えていた。その結婚式当日にやって来たマイネケは、尾行を恐れたチャールズによって絞め殺される。マイネケは神に救いを求めて改心していたが、チャールズはドイツがまた戦争を始めることを秘かに企んでいた。公園の土の下に埋めた死体。紙を落としながら鬼ごっこをする彼の生徒たちがチャールズの回りを動き回るのが面白い。

町のドラッグストアの太った店主が、登場人物たちの仲介役として何度も登場する。町の中心地であり、事件の舞台となる大時計がある高い塔の教会が見える場所。マイネケはそこで荷物を預けたまま行方不明になるし、ウィルソンはチャールズの情報を聞き出そうと、店主とチェッカーを何度もする。チャールズは、アリバイ工作のために、店主とチェッカーをしながら時間を使う。店主がチェッカーに本気になりだすと、サンバイザーを被る演出も面白い。

食事の席でドイツ人批判を語ったチャールズに、一度は疑いを晴らしたウィルソンだったが、「マルクスはユダヤ人だ」と発言したことを思い出し、「マルクスをユダヤだと呼ぶのはナチスだけだ」と夜中に思い出し、チャールズへの疑いを深めていく。公園に埋めた死体を妻メアリーの愛犬が嗅ぎ付け、しきりに掘り起こそうとする。何とか犬を遠ざけようとするチャールズだったが、ついに公園に毒をまいて、その犬を殺してしまう。次第に追い詰められていくチャールズは、妻にマイネケ殺害を告白するが、その後に妻殺害を計画。古時計が趣味でもあるチャールズは、教会の大時計を修理して町の人々の喝采を浴びていた。そしていつも時計台の塔に籠るようになっていく。ある夜、高い塔の梯子に細工を施し、妻を時計台に呼び出して事故に見せかけて殺害することを企むのだ。深夜に鳴る時計の音。一人で梯子の階段を切る音。この下から見上げて映し出される長く高い梯子が不気味で印象的に使われる。次第に落ち詰められていくオーソン・ウェルズのアップが増えていく。妻を殺すために呼び出す電話をかけながら、メモにカギ十字の模様を知らず知らずのうちに描いてしまうチャールズ。チェッカーをするときのヘタな口笛。死んだと思っていた妻が帰ってきた場面の壁に映るメアリーの影。あるいは、死を覚悟してベッドを出るメアリーの鏡を使ったショット。

この映画の見せ場は、なんといってもチャールズ&フランツ・キンドラの最期を描いた場面だ。転落を予感させる教会の高い塔は、アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』(1958)がすぐに思い出されるが、こちらは鐘ではなく大時計のある高い塔の教会である。自分を殺そうとしていたと分かった妻メアリーがピストルを持って塔に現れ、一緒に死のうとするがウィルソンも登場してもみ合いとなり、メアリーがチャールズを銃で撃つ。回りだす時計の歯車。塔の上に逃げるチャールズ。下から撃つメアリー。この上下の関係が描かれ、塔の上からチャールズが落下して、文字盤の前へ現れる。塔の下には集まってきた町の人たち。大時計のからくり人形の兵士が文字盤を回る。そしてその人形の兵士の剣に突き刺されて、チャールズは塔の上から落下するのだ。町のシンボルとも言える高い塔のからくり時計と、そこで男が自ら修理したからくり時計の人形に殺され、落下するという皮肉な結末。そしてそのセットとロケを駆使した映像編集の見事さ。上下の高さを生かした演出。ヒッチコックが、オーソン・ウェルズの影響を受けたどうかは分からない。ただ、ヒッチコックもオーソン・ウェルズも、映画史に残るサスペンス的な映像演出を手掛けた二人の天才であったことは間違いない。


1946年製作/95分/アメリカ
原題または英題:The Stranger

監督:オーソン・ウェルズ
製作:S・P・イーグル
原案:ビクター・トリバス
脚本:アンソニー・ベイラー、ビクター・トリバス、デクラ・ダニング
撮影:ラッセル・メティ
音楽:ブロニスラウ・ケイパー
キャスト:エドワード・G・ロビンソン、ロレッタ・ヤング、オーソン・ウェルズ、フィリップ・メリベイル、リチャード・ロング、バイロン・キース、ビリー・ハウス、マーサ・ウェントワース、コンスタンティン・シェイン
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