『復讐は俺に任せろ』という日本語タイトルがついているだけあって、フリッツ・ラング的な復讐劇である。しかし、1950年代ハリウッド映画においては、「ヘイズ・コード」と呼ばれる道徳的倫理的な基準があり、「不倫や性的関係」や「犯罪」に関して、それらを助長するような表現は規制されており、「復讐」もまた「正当化してはならない」という倫理規定があった。だから本作でも、犯人を見つ出して復讐を果たすかのように殺す復讐劇は完遂しない。刑事バニオンを演じるグレン・フォードが、愛する妻を自分の身代わりに殺害されて、刑事のバッチを捨て、辞めてまでも犯人を突き止め、復讐を成そうとする物語であるのだが、最後に犯人を追い詰め銃を向けつつも、彼を撃つことはなく銃を下ろしてしまうのだ。そして、やって来た警察に犯人を引き渡して終わるのだ。勇ましいスカッとする復讐劇ではない。それでもこの映画が面白いのは、シンプルに無駄がなく、テンポもよく、人間ドラマとしてしっかりキャラクターが描かれているからだろう。特に熱いコーヒーをかけられて顔面の左半分に火傷を負った女デビー(グロリア・グレアム)が印象的に描かれる。
一人の巡査部長ダンカンが遺書に告発文を書いて自殺する場面から映画は始まる。しかし、その街の汚職と不正告発の遺書は、妻バーサ(ジャネット・ノーラン)に隠蔽される。妻は街を牛耳るギャングのボス、ラガナ(アレクサンダー・スコービイ)と通じていた。夫の遺産を手に入れた妻は、その遺書を表沙汰にしない条件としてギャングからも金を受け取っていたのだ。自殺したダンカンには、離婚後に駆け落ちの約束もしていたルーシー(キャロリン・ジョーンズ)という愛人の酒場女もいたが、その女が拷問され殺される事件が起きる。ラガナ一味は市政を牛耳っていて、それは警察組織にも及んでおり、正義感の強いバニオン刑事(グレン・フォード)は、上層部から「これ以上捜査をするな」と圧力をかけられても止めない。さらにギャングから命を狙われる脅迫電話を受けても、追及を止めなかった。そんな中で彼の自家用車に爆弾が仕掛けられ、バニオン刑事の代わりに妻ケイティ(ジョスリン・ブランド)がエンジンをかけた瞬間に爆発してしまうのだ。その爆発の前のシーンでは、小さな女の子がいる幸福な家族、夫婦の様子がたっぷりと描かれ、悲劇が強調される。そして、バニオンは復讐のために、刑事を辞めるのだ。クリント・イーストウッドがよく描いていたように、法の限界を超えて、復讐のために私的制裁を加えようとするのだ。
怒りに燃えるバニオンは同僚から「バニオン。神父に会ってこい。憎しみに燃えている。」、「人は一人じゃない。皆を敵に回しちゃダメだ。」と忠告されるが無視する。バニオンは妻と幸せに暮らした家、空っぽになった部屋を見つめて、悲しみをこらえて一人、部屋を出ていくのだ。そして、その次のシーンの酒を注いで鼻歌を歌いながら陽気に踊るギャングのヴィンス( リー・マーヴィン)の愛人デビー(グロリア・グレアム)の登場がいい。悲しみに暮れる陰から陽への転換。ヴィンスの手下のラリーに「サーカスは行く?」と聞いて、「ビンズと行くといいわ」と言って、「ホップ、ビンズ、ホップ、ラリー」と踊りだす。軽やかで陽気な女性として悪玉一味の中でデビーという女性が強く印象づけられる。
そのデビーがバニオン刑事に近づいたことからヴィンスの怒りを買い、熱いコーヒーをかけられ火傷を負う。そしてデビーはバニオン刑事にホテルで匿われることになる。デビーは何度もバニオンに妻ケイティのことを聞くが、その度にバニオンは悲痛な表情を浮かべる。ラストでヴィンスに撃たれたデビーは、バニオンから妻のエピソードを聞きながら、「私と気が合いそう・・・」と呟き死んでいく。バニオンが妻を殺され、復讐の鬼と化していく中で、そばにいたデビーの存在がその怒りを鎮静化させる役割を担っていた。そしてバニオンの代わりに、デビーが事件の発端となった自殺したダンカンの妻バーサを銃で撃ち殺す。そして仕返しとばかりに、ヴィンスに熱いコーヒーをかけるのだ。デビーを演じたグロリア・グレアムが印象に残る。バニオンの聞き込みに秘かに協力する自動車整備工場の足の不自由な女性も脇役で光る。
熱血刑事のバニオンを中心に、様々な女たちが描かれているのが興味深い。夫を裏切り金に汚い計算高い女、金よりも愛を選んだ酒場の女、足が不自由ながら事件に協力する勇気ある女性、怒りっぽいがすぐにカラッと忘れる夫を信頼する妻(夫の酒やタバコや食べ物を一度は味見する好奇心)、ヤクザの情婦で陽気で明るく、金はあった方がいいと現実的で能天気さを持ちながら、刑事バニオンに惹かれていく女。デビーは、計算高いバーサと「似ている」と言ってみたり、妻ケイティと「気が合いそう」と言ってみたり、それぞれに重なる部分とそうでない部分があるのが面白い。
1953年製作/89分/アメリカ
原題または英題:The Big Heat
配給:コロムビア映画会社
監督:フリッツ・ラング
脚色:シドニー・ボーム
原作:ウィリアム・P・マッギバーン
製作:ロバート・アーサー
撮影:チャールズ・ラング
美術:ロバート・ピーターソン
音楽監督:ミッシャ・バカライニコフ
録音:ジョージ・クーパー
編集:チャールズ・ネルソン
キャスト:グレン・フォード、グロリア・グレアム、ジョスリン・ブランド、アレクサンダー・スコービイ、リー・マービン、ジャネット・ノーラン、キャロリン・ジョーンズ、ウィリス・バウチイ、レックス・リーズン
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写真引用(C)Columbia Pictures
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