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2026年08月08日15:56

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「飾り窓の女」(1944)フリッツ・ラング〜「スカーレット・ストリート」と重ね合わせの悪夢〜

本作はフリッツ・ラング作品で、翌年の1945年に作られた『緋色の街/スカーレット・ストリート』と同じキャストであり、連作とも言える似通った作品である。エドワード・G・ロビンソン、ジョーン・ベネット、ダン・デュリエという3人が同じような役回りを演じている。真面目な堅物のエドワード・G・ロビンソン、魔女的な誘惑する女ジョーン・ベネット、そして二人の追い詰めるダン・デュリエ。濱口竜介監督は『他なる映画と 1』(インスクリプト)という映画講座を集めた本の中で、「二作が観客の中で重ね合わせられることを前提として作られている」と指摘しており、「『飾り窓の女』が現実のような夢(悪夢)だとしたら、『スカーレット・ストリート』は夢(悪夢)のような現実である」と書いている。ぜひ、この2作を続けて見てほしい。2作品は同じような構造であり、ネタバレになってしまうが、『飾り窓の女』は女に魅せられるまま、彼女の部屋に行って犯罪を犯してしまったエドワード・G・ロビンソンが苦悩するあまり、最後に服毒自殺をする転落の物語かと思ったら、「夢オチ」ですべては夢だったという映画なのに対して、『スカーレット・ストリート』のほうは、転落の人生の悪夢が夢ではなく、浮浪者暮らしとなって罪を抱えたまま彷徨う過酷な現実で終わるのだ。濱口竜介は、『スカーレット・ストリート』をどうせ「夢オチ」だろうと思ってみていたら、恐ろしい「悪夢のような現実」が最後まで描かれていることに「肌が粟立つおそろしさ」を感じたという。『飾り窓の女』が、『スカーレット・ストリート』の前フリのような前段の物語になっているのだ。

心理学の助教授リチャード・ウォンリー(エドワード・G・ロビンソン)が、正当防衛で殺人を犯す犯罪心理学の講義を教壇でしている。妻子を夏の休暇旅行に送りだし、ほっとして夜はクラブへ食事に出かけた。そこで彼は旧友の地方検事(レイモンド・マッシィ)と医者のバークステイン博士と一緒になり、久しぶりに心地よく酔った。その帰り、ウォンリーはクラブの隣の画廊にある女の肖像画の前に立つ。彼は前々からこの絵に心惹かれていたのだ。そこへこの絵のモデルと判る女(ジョーン・ベネット)が立っているのだ。絵のそばにガラスに反射して佇む女。カメラが飾り窓のガラスからパンすると、その絵にそっくりなモデルの女が立っているのだ。まさに夢のような瞬間。女に誘われるまま、彼女の部屋に行く。堅物の男が深夜に美女と出会い、誘われるまま彼女の家に行く出来過ぎの展開は、『スカーレット・ストリート』でも同じ。そこにいきなり女の愛人が部屋に入ってきて、ウォンリーを絞め殺そうとする。ウォンリーは無我夢中で女から鋏を受け取り男を刺し殺してしまう。まさに自ら講義していた「正当防衛」なのだが、ウォンリーは自分の社会的地位も家庭生活も壊れてしまうことを恐れ、女と合意の上で、死体を何処かに隠してこの事件を隠蔽しようとした。深夜に車で一人で運んで森の中で死体を遺棄する。しかし死体はやがて発見され、車のタイヤ痕、有刺鉄線で手を傷つけた血痕や衣服の繊維などから、警察は犯人を特定しようと捜査が始まる。旧友の地方検事から、そんな捜査情報を逐一聞かされ、現場検証にまで同行する羽目になり、ウォンリーは心理的に追い詰められていく。

そんなとき、死んだ男の用心棒(ダン・デュリエ)が女のもとに現れ、5000ドルの口留め料を強請りに来る。ウォンリーは5000ドルを工面し、彼女に用心棒に薬を飲ませて殺すようにと告げる。しかし、その計画は男にバレてしまい、金を奪われた上に更にもう5000ドルをよこせと迫られる。女からこれを聞いたウォンリーは、もはや金の調達も不可能だし、彼の犯行もすぐに明るみに出るものと、自殺を決意。だが丁度その頃恐喝者は警官隊に追われ、射殺された。そして彼の所持品からこの男が犯人と断定され、これを知った女は急いでウォンリーに電話したが、その時彼はもはや毒薬をあおった後で、息の絶えるところであった。なんとも悲惨な結末かと思ったら、最初にクラブで飲んで旧友と別れた後、一人本を読んで眠ってしまっていたのだ。女の出現も殺人もすべては夢だったという「夢オチ」で観客は肩透かしを食らう。最後に再び飾り窓のガラスに女の姿が映るが、今度は全くの別人で、「勘弁してくれ。これごりだ」とウォンリーが飾り窓から去っていくオチで映画は終わる。

ガラスの反射、部屋の中の鏡が効果的に使われる。凶器となるハサミ、イニシャル入りのペンやイニシャル入りの懐中時計なども出てくる。しかし、傑作『スカーレット・ストリート』に比べると、ジョーン・ベネットはそれほど悪女でもなく、ダン・デュリエもただの強請り屋のチンピラ。堅物の大学助教授が、飾り窓の女の幻影に魅せられて、魔が差して事件に巻き込まれたが、それも「夢オチ」だったという物語だ。まさにガラスの向こうの美しき女の夢、幻影の悪夢だ。


1944年製作/アメリカ
原題または英題:The Woman in the Window
配給:映配

監督:フリッツ・ラング
脚色:ナナリー・ジョンソン
原作:J・H・ウォリス
製作:ナナリー・ジョンソン
撮影:ミルトン・クラスナー
美術:ダンカン・クラメール
音楽:アーサー・ラング
録音:フランク・マクフォーター
編集:マージョリー・ジョンソン
キャスト:エドワード・G・ロビンソン、ジョーン・ベネット、ダン・デュリエ、レイモンド・マッセイ、エドモンド・ブレオン、トーマス・ジャクソン、アーサー・ロフト、ドロシー・ピーターソン
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