犯人に間違えられ、警察に捕まり、脱走して自らの無実を証明するというヒッチコックお得意の巻き込まれサスペンス。1937年のイギリス時代のヒッチコック作品。
夫婦喧嘩のシーンから始まる。夫が妻の浮気を責め立てる。女優でもある妻は逆ギレして夫の頬を叩く。部屋のベランダから見える外の景色は激しく荒れた海。雷が鳴り響き、光が明滅するなかで、ベランダから振り返った夫はまばたきを繰り返す。その顔のアップ。最初、なんなのかよく分からなかったが、まばたきを繰り返すのがこの男のクセなのだ。翌朝、海に打ち上げられた女性の死体。波間の手が何度か映し出され、死体の横には蛇のようなベルトが浜辺で揺れている。崖の上からその死体を発見した若い男は、死んだ女性を見て名前を呼び、すぐに走り出す。その走り出す男を目撃し、遅れて死体を発見した二人組の女性たちは、「男が逃げていった」と警官に証言する。男は「助けを呼びに行ったんだ」と弁明するが、近くにあったレインコートのベルトが男が犯人だとの疑いを深め、容疑者として確保される。目撃証言によって犯人と間違えられるのは、ヒッチコックは後に『間違えられた男』(1956)で繰り返しなまなましく描いている。群れて空を飛ぶ不気味なカモメのアップが挿入され、『鳥』(1963)を想起させる。
警察の取調中に、死んだ女性との関係を質問され、女性が彼にお金を残した遺書が見つかり、動転して気を失う容疑者の若い男ロバート(デリック・デ・マーニー)。そこに通りかかった警察署長の娘エリカ(ノヴァ・ピルブーム)は、失神した男の頬を叩き、耳を引っ張り、ブランデーを飲ませて介抱する。ご都合主義的な出会いだが、「ガールスカウトで習った」とか「ボクシングの控え室で」とか「刑事から身を守るため」などといったエリカの台詞と行動が面白い。「犯人には見えない」けど「私のタイプじゃないし・・・」と言って出ていき、エンジンを手回しでかける旧式の車に乗り、愛犬を隣に乗せて走らせていく。印象的な女性エリカの登場シーンだ。
弁護士の厚底メガネで変装して警察署から逃亡した容疑者の男は、田舎道でエンジントラブルのため止った警察署長の娘の車を押して、エリカと再会。車を押し続けて助けると言い、給油所では小銭がないエリカのために、なけなしの2シリングを立て替える。次第に接近していく二人。農家の空き家に隠れていた青年ロバートのために、食べ物を差し入れ、借りたお金を返しに来ただけだと言いながら、ロバートが気になるエリカ。その時、警官に見つかりそうになり、二人で慌てて逃げ出す。空き家の2階へ梯子で昇ったエリカだが、2階の窓から降りて1階にいる警官の後ろを通って逃げ出す。2階の高低を効果的に使ったヒッチコックお得意の逃亡サスペンス演出だ。
二人は一緒に青年の無実を晴らすために、凶器となったレインコートのベルトを探すことにする。青年は宿屋でレインコートを盗まれたのだった。旧式のエリカの車が二人の移動手段となり、鉄道と車を使ったちょっとしたカーチェイスが繰り広げられる。置いてきた愛犬が車に飛び乗るシーンもある。車の運転シーンは、スタジオでの合成なのだが、ロケ撮影と上手くミックスしている。警察署長の娘としての立場と彼に惹かれ無実を信じようとするエリカの葛藤が描かれる。途中で立ち寄る叔母の家でパーティーに巻き込まれ、一緒に嘘をついたり、トラブルに対処して行動を共にするうちに二人の距離が縮まっていく。
炭鉱のトンネルで車が落下していく危機一髪のシーンもある。車から必死で脱出するエリカをロバートが手を引っ張り助け出す。落下しそうになる恐怖で引きつるエリカの顔のアップ。ヒッチコックは落下の恐怖を描くのが本当に好きだ。
盗まれたコートは見つかったが肝心のベルトがない。そのベルトを盗んだ男を突き止めに、ホテルに忍び込んで犯人を探し出す。手がかりは、目をパチパチとまばたきする男。カメラはホテルのダンスホールでバンドマンのドラムを叩く男のアップを映し出し、その男がしきりにまばたきを繰り返す。黒人の肌に化粧をしていた犯人のバンドマンは、追手が迫っているのに気づき、演奏も出来なくなり、気を失ってしまう。気を失った男に気づいたエリカが、持ち前のナイチンゲール精神を発揮して介抱すると、男はまばたきを繰り返し犯人だと分かる。エリカが気を失った男を介抱するシーンが最初のロバートのときと同じように反復されて、犯人が見つかるというわけだ。真犯人が見つかり、ロバートの疑いが晴れて、「彼を夕食に招待していいでしょ」と父の警察署長にエリカが聞いて、ハッピーエンド。
無実を証明しようと一緒に行動をしているうちに恋が芽生えるロマンチック・サスペンス劇だ。旧式のボロ車で旅をしながら、凶器となったコートのベルトを見つけるまでの逃避行。言い合いながらの二人の恋とサスペンスのバランスが楽しい。
1937年製作/84分/イギリス
原題または英題:Young and Innocent
監督:アルフレッド・ヒッチコック
製作:エドワード・ブラック
原作:ジョセフィン・ティー
撮影:バーナード・ノールズ
音楽:ルイス・レビ
美術:アルフレート・ユンゲ
キャスト:ノヴァ・ピルブーム、デリック・デ・マーニイ、エドワード・リグビー、パーシー・マーモント
☆☆☆3
写真引用

文輝堂
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